⑨ ヘビロテすぎるスパゲッティ(下)
さてさて、そんな日々から幾星霜。
私も弟も所帯を持ち、只今実家では、老いた両親がふたりだけでボチボチと暮らしております。
語尾に『!』がつく様な勢いで、ブイブイゆわして(笑)活躍していた我が母も老い、足腰が痛いとぼやく老婆に。
そして私も、母の顔色を窺って小さくなっていた可憐?な娘さんから、ふてぶてしくもたくましい、大阪のおばちゃんへと進化(退化?劣化?)。
自分も子供を持ったこと、そして常に一緒にいる訳ではないといういい感じの距離感ともあいまって、かえって素直に母を慮ったり案じたりするようになった気がします。
昨今、時々実家へ行き、母に代わって買い物をしたり昼ごはんや晩ごはんのおかずを作ったり、しています。
その時に必ずと言っていいほどリクエストされるのが、表題の『ヘビロテすぎるスパゲッティ』こと『ツナと大葉のスパゲッティ』なのです。
やれやれ、やっとタイトル回収だ~。
そもそもこのスパゲッティの作り方を教えてくれたのは、母です。
といっても、彼女はこのスパゲッティを作ったことはおそらくないでしょう。
作ったことのない料理を、何故娘に伝えられたんだ?ですが、なあに単純な話です。
母がある日、ラジオか何かで聞きかじったレシピをおしゃべりのついでに私へ伝え、簡単で美味しそうだと私が休日に作ってみたら、家族(特に母)に気に入られた、と。
そういう経緯です。
以来、実家で暮らしていた頃も就職後に帰郷した時も、リクエストされてはちょいちょい作ってきました。
母はこのスパゲッティが好きらしく、私が『ごはん、何か作ろうか?』と訊くと、十の内九~十『ツナと大葉のスパゲッティ』と答えます。
そんなに好きなら自分でも作ればいいのに(簡単だし)と思いますけど、そこは何故か、頑として、私が作るものをご所望の様子。
あまりに何度も何度もリクエストされるので、正直、作り手である私の方が厭きてくるほどです(笑)。
私も学生時代に比べれば料理のレパートリーが増え、仕事で『ミレイおばさん(食堂のおばちゃん)』をやった経験のお陰で腕も上がりました。
スパゲッティのレパートリーも、ツナと大葉以外にも幾つかあります。
『たまには違うのも食べてよ』と、半ば強引に別のスパゲッティを作ったりもしましたが……『美味しいけど、なんか違う』と彼女の顔に書かれていましたので(笑)、無理に違うものを作るのはあきらめました。
彼女が食べたいのは、娘が作る『ツナと大葉のスパゲッティ』。
作り手が厭きるほど、ヘビロテすぎるくらいくり返し作られたそれは、おそらく彼女のお気に入り。
さすがに毎日とは言わないまでも、何度でも何度でも食べたいメニューなのでしょう。
違うメニューを色々食べたい派の人よりも、これなら毎日でもwelcome派の人の方が、好物への思い入れやテンションが高いのかもしれないな……と、遅まきながら気付く昨今であります。
【ヘビロテすぎるスパゲッティ(ツナと大葉のスパゲッティ)の作り方】
〈材料〉(三人前)
スパゲッティ300g ツナ缶(大)1個 にんにくひとかけ 大葉1パック(8~10枚) レモン1個
塩 オリーブ油(サラダ油) マヨネーズ 醤油 各適宜
① 大きめの鍋でスパゲッティ用の湯を沸かす。
② 大葉は千切り、にんにくはみじん切りにする。
③ レモンは果汁をしぼっておく。
④ ①が沸いたらスパゲッティを入れて湯がく。麺同士がくっつかないよう、時々かき混ぜる。
後で炒めるので、麺はアルデンテに仕上げるのがベター。
⑤ 大きめのフライパンに、オリーブ油もしくはサラダ油を大さじ1ほど入れ、みじん切りのにんにくを投入。油が温まり、にんにくの香りが立ってきた頃合いに、ツナ缶を缶の中の油ごと入れて軽く炒める。
⑥ ⑤へ④を入れ、マヨネーズを麺の上で円を描くように入れ、よく炒め合わせる。その時にレモン汁も加える。
⑦ マヨネーズの白っぽさが消えた頃合いに、鍋肌にそって醤油を入れる。
⑧ 火を止め、千切りの大葉を入れて全体に混ぜる。
レモンの香りと大葉の香りの、さっぱりさわやかな一品になります。
食べる直前、好みであらびきの黒こしょうを振ってもいいでしょうね。
レモン汁を入れるタイミングで、種を取って叩いた梅干しを一個分、加えるのもいいです。
梅の酸味が加わり、夏休みのランチにピッタリな、更にさっぱりスパゲッティになります。
……子供さんが梅干し嫌いなら無理ですけど。
色々と七面倒くさそうに書いてますけど、要は、にんにくとツナを炒めたところへ湯がいたスパゲッティを入れ、マヨとレモン汁をぶち込んで炒め合わせ、火を止める直前に醬油をたらして更に軽く炒めて、ラストに刻んだ大葉を入れて混ぜればOK。
料理の初心者さんでも出来ます。
よろしければお試しください。
……何故こんなに簡単なのをウチの母は自分で作らないのか、私にはよくわかりません。
何か、ロマンティックな思い入れ(これは娘の味だ、とか)があるのかもしれませんし……娘が作るものを真似してはいけない、あるいは、娘に任せる理由がなくなると困るような気がする等々、彼女だけにしかわからない、無意識のこだわりみたいなものがあるのかもしれませんね。




