秘密の冒険
すいません、とても短いです。
その頃の私は冒険と云うものに大変憧れていました。読んで字の如く険しきを冒す、危険とは程遠い日々を過ごしてきた身にとっては、なかなかどうして魅力的に思えて堪りませんでした。
いつだったか、『自分の障害はいつも自分自身である』という言葉を聞いたことがあります。全くその通りだと思います。私自身これまでの人生、たくさんの事から逃げて来ました。世が悪いだの人が悪いだのと言い訳を続けてきましたが、そんな自分がどうしても不甲斐なく思えて仕方がありませんでした。
此処はヘーリオス王国の首都フィオーレ、私の初の冒険の舞台です。『自分を貫く』それが私の出した答えでした。自分に真っ直ぐに生きようと思ったのです。
私は街の大通りをただ漠然と歩いていました。自分を貫くと心に決めたものの具体的には何をどうすれば良いのか分からず、真新しいもの、非日常を探していました。
どこからか肉の焼ける良い匂いがして、私は不意に一つの露店に寄ることにしました。露店では、私には皆目見当がつきませんが、何かの肉の串焼きが焼かれていました。
「すみません、それを頂けますか」と店の店主であろう恰幅の良い男性にいうと、「おう、今焼けるからな、少し待っててくれ」と活気のある返事が返ってきました。
手持ち無沙汰になり、賑やかな街の様子を眺め回していると「お嬢ちゃん冒険者かい」と店の男性から声がかかりました。それに対して私は「えぇ、まぁそんなものです」と曖昧な返事をしました。
「そうか、なら知らないよな。やけに人が多いのが気になるんだろう、明日がなんの日か分かるか?明日はなこの国の姫様の誕生日なんだそうだ。それで人が集まる、俺たちが商売をする、更に人が集まる、そういう事だ」
成る程、たかが一人の小娘の誕生日にこれだけの人が集まるという事も驚きですが、それに便乗して商売で儲けるなんて更に驚きです。実に面白い世の中の仕組みであると思います。
「ほら、焼けたぜ」と、肉の串焼きが焼き上がりました。一言「有難うございます」と言ってお金を渡し、私は再び街の大通りの流れに流されることにしました。
露店で買ったお肉は筋があり、臭みも強くて普段食べているお肉よりも美味しくありませんでしたが、人混みと冒険の歓楽に酔っていた私には大層美味しく感じられました。
偶々、私は街の大通りから外れ裏路地に入ってしまいました。「しまったな」と思ったのもすでに手遅れ、こういう所では良くない事が起こるというのが定石です。
「よう、嬢ちゃん。ちょっと面貸しなぁ」
こんな風にね。
大晦日、良いお年を。