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後悔先に立たず(1/2)

 ボソボソとささやく声が聞こえる。

 周りからの視線が,痛い。

 集会所に着いたときと同じように立ち尽くす。

 多分,顔を真っ青にながら。

──やって、しまった。

 落ち着け。私は今,一体何をした。

 逃げようとした冒険者を追おうとしただけ。それが,どうしてこうなる。


 あの時,受付の男を周りに任せて,私は走り出した。

 一歩目で体制を整えて。

 二歩目までは普通に。

 三歩目を少し強く,前方に跳ねるように踏み切った。そのぐらいのつもりだった。

 しかしどうだろう。

 その直後,周りが見えなくなって。

 何となく,踏めそうなものがある気がして。

 実際に踏んだらぐらついて,とっさに上に跳ねた。

 ──気がついたら,屋根より高く飛んでいた。

 一瞬頭が働かなかった。が,そんなことはお構いなしに私の身体は落下した。

 少し後ろ寄りに飛んでいたみたいで,尻餅をつきながら着地して。そこでようやく周りが見えてきた。

 目の前には,さっき追いかけようとした冒険者が転がって--否,頭から地面にたたきつけられていた。レンガ造りの道からはギリギリ外れていたけど,それがどうしたと言わんばかりに頭が地面にめり込んでいて。その後頭部には,誰かに踏みつけられたような足跡が残っている。

 今,そんなことが可能だった人を,私は,私以外に知らない。

「あいつ一体何者だ?」「兎人族ラビットマンか?」「いや、尻尾に毛がないぞ。」

「じゃあ蜥人族リザードマン?」「馬鹿言え、あんなに跳ねるトカゲがいてたまるかよ。」

 口々に話す声が遠く聞こえる。当然だ,その声は多分さっきの人だかりから聞こえてきて,目の前の冒険者は──最後に見たとき,そこから200メートルは離れていたのだから。

 


 体が動かない,振り向く勇気がない。あれこれと思い返しても,現実を受け止め切るには足りなかった。

 後ろから遠くへ走り去っていく音が聞こえる。その音に紛れて近づいてくる音がすぐそばまで近づいてきて,初めて気づいた。

「逃げないで。」

 わずかに前に踏み出そうとして,聞き覚えのない声で制される。ちらと後ろを向くと、集会所の受付達だった。今の声は黒髪の女性のものだろう。男のほうはオレンジの髪の少女に背負われ引きずられている。身長が少し足りていない。

「あの、私は……。」

「落ち着いて。貴女、この村の者でも滞在者でもありませんね。」

「は、はい。そうですけど……。」

「少し話を聞かせてもらうわ。よろしいですね、ケピト。」

「ああ。そこのやつはとりあえず縛っとけよ。後で警備隊に突き出ておく。」

 少女に背負われたまま、男が答えた。

「じゃあ、こっちに来て。」

 事情聴取,というものだろうか。どうあれ向こうから来てくれたのはありがたい。多分自分で考えて行動すれば逃げ出していただろう。


「お父さんとお母さんが亡くなったのをきっかけに……それは大変でしたね。……ってうるさいですよケピトさん。もっとおとなしくしてください。」

「締め付けすぎだバカ、足千切る気か!大体このぐらい問題ねえって言ってるだろ。」

「それなら、冒険者を呼び戻して更新作業を再開しますか?こちらは私だけでもどうにかなるので。髪の色は白……頭部に角……長さは……。」

「……あの、これどういう状況ですか。」

 私は集会所の奥に連れてこられていた。ケピトと呼ばれている茶髪の男は,オレンジの髪の少女の治療を受けている。それと並行して,黒髪の女性が私の身体のあちこちをペタペタ触れながらチェックしていた。

「お気になさらず、個人的興味です。」

「気になりますよ、話を聞きたいからって言ってましたよね!?」

 話なんて2分と経たずに済んだのに,「そこに立って」と言われてから彼女がメモを取るのを10分か20分は見ている。

「今のそいつに何言っても無駄だぞ。ルーファは基本、話聞くより自力で調べるのを優先するからな。それそのまま言ったらあんた警戒するだろ?」

「そりゃしますけど……ちょっ!?」

 聴取の一環なら,と言おうとしたとき,覚えのある感覚が走った。振り返ると,ルーファというらしい黒髪の女性が真顔で尾をつかんでいた。こちらに気づき,顔を見つめてくる。

 いやな予感がした時には遅かった。私が止めるよりも先に,彼女はあいているもう一方の手で,私の尾を弄び始めた。

「ちょっ、やめっ、やめて、やめくだっ、さ、っ~~~!」

 こうなってはどうしようもない。笑いを押し殺すのがやっとで,まともに抵抗できない。自分で触ると気持ち悪かったわけだ。

「ああもうこうなるからお前一人にするのはいやなんだよ!止めろアリス!」

「はいはーい。ルーファさん、ほら下がって下がって~。」

「……現在、検証中。作業妨害、厳禁。」

魔導人形ゴーレムのまねしても駄目ですよ。研究に没頭するとすぐ見境い無くすんですから全く。」

 どうにか解放された。ひどく疲れた。もう寝たい。

「と、冗談はここまでにして。」

 初めと同じ素振りで,ルーファさんは話し出す。あれを冗談にされてはとても困るのだが。

「尾の形状と質感から、蜥人族リザードマンかと予想しましたが。角を有し、尾の感覚が鋭敏となると、竜の類い。にもかかわらず極小サイズの翼さえ持たぬとなればその答えはただ一つ。」

──種族を調べてた、ってことかな……?

 竜などという不穏なワードが聞こえた気がしたが,ようやく私が何なのかが分かる。わくわくする気持ちを悟られないよう平静を装う。


「あなたは、亜竜人族ですね?」

 ──聞き間違いじゃ、無かった……!?

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