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副・救世主は悩ましく  作者: 小山モーゼル
第六章 異世界残侠伝
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第2話 ヤの字

 小さな街だった。半時も歩けば端から端まで行けてしまえそうな、そんな土地。台地上にあるこの街は、畑もあることにはあったがとても商売用とはいえない小ささで、一体何で食っているのか判然としない。何軒かの商店の他は職人の工場があるらしいが、何を作っているのかは判らない。街の人間でなければ行商人みたいな商売人しかいなかった。

 レッタは、むしろ閑散として娯楽要素のなさそうな様子が気に入ったみたいだった。誰も彼もが間違いなく自分の芸を見てくれるとの、競争相手がいないどこか暗い自信。鳥人の曲芸飛行団なんて集団が前の街にいたりして、そう思うと無理もないのだけれど。


「今日は何やるの?」


 手頃な広場を見つけて準備するレッタにラスナが尋ねた。準備といっても芸用のポールなんかがあるわけでもなく、金の置き場に布を地面に広げて銅貨を置くくらい。あとは小道具にケーイチのザックを借りる。レッタはザックをぶんぶん振り回したり頭上に投げてはキャッチしていた。


「これを、空から落として素早く取ったり下から投げてもらうのを掴んだりしてみようと思います」

「その鞄重そうだけど大丈夫?」

「ちょうどいい重さですよ、ほら!」


 また投げる。確かに野暮ったいザックは大きさに比して軽々と宙に浮くが、それは荷物の全てを出したから。横では自らの荷物を市場みたいに広げるケーイチが三白眼に睨んでいた。


「ほら、じゃねえよバカ!着替え日用品予備弾薬までめちゃんこ入ってんのに全部出させやがって」

「いいじゃないですか、この前はケーイチさんのお仕事を手伝ってあげて大変な目に遭ったんですし」

「なーにが手伝っただ。いいだろ、友達も作れたんだし」

「それはそれ、これはこれです。後でナイフも投げてください。もちろん鞘ごと」

「抜き身で投げたろか」

「兄ちゃんそれいくら」

「売りモンじゃねーんです!」


 広がるケーイチの持ち物を売り物と勘違いする通行人、そして他にも広場で何をしているのかと足を止める人々が増えてきた。レッタはふふんと鼻を鳴らして翼を広げる。宣伝文句は自分で言った。


「さあさご通行中のみなさま!わたしはサーカスにいた鳥人です。ただいまよりちょっとした芸をご覧に入れます。それ!」


 ザックを持ったまま勢いよく飛んで、衆目が集まる。鳥人が身近な存在でないのか空を見上げては感嘆の息を漏らしていた。レッタは十分な高度を取るとザックを上に投げ、緩く落ちていくのを自分は円を描きながら降下し、最後急降下で地面すれすれに取った。客の拍手を()に聴き、飛び上がるとザックを投げ上げて逆さに降下しながら取る。そのままケーイチに返して、今度は「ナイフを!」言うと鞘ごと投げられる銃剣が揚力失い落ちる寸前、足で挟んだ。柔軟に腰を曲げて頭の上に銃剣を、鞘に結んであるパラコードに指を引っ掛ける。

 眼下の客は喜び、広げられている布に誰とはなしに投げ銭した。芸を見せられる上に小遣いまで稼げて、レッタは満足して軽やかに降りた。急いでザックに荷物を詰めるケーイチはともかく、他の三人は拍手で迎える。まずはハルトの胸に飛び込んだ。


「見てました?ハルトさん!」

「見てたよ。上手くできてたね」

「えへへ〜もっと褒めてくれてもいいんです」

「こーら、調子に乗らない。でも、何度見ても上手くやるものね」

「レッタにとって空はおもちゃみたいなものだね」

「ふん、オモチャにされたのは俺の鞄と剣だ」

「もう、まだ言ってるんですか。後でおかしでも買ってあげますから」

「ガキか俺は」


 ケーイチの荷物もしまい終わって、今度は宿を探さなければならない。行商人の宿くらいあるはずで、レッタは笑顔で集まった金を数えながら宿賃まで払う気でいる。しかし、彼女の顔は急に固まった。如何にもガラの悪い男たちが通行人を押し退けて一行の前に立ちはだかったのだ。


「やいやいやい、てめえらどこのモンだ。勝手に商売して、タダで済むと思ってんのか!」


 男たちは、縄張りを荒らされたとでも言う風に因縁つけてくる。皆の前にハルトが立ち、険しい顔で問いただした。


「君たちは何者だ」

「俺たちはルロットさんの舎弟よ。ここがルロット一家の縄張だってくらい、知らんわけねえだろ!」

「知らない。僕たちはさっき初めてこの街にきた。誰もこの広場を使ってないようだったから借りて、芸をした。ここを管理する行政府の許可が必要なら今から事情を話に行く」

「ギョーセーフだあ?ははは!馬鹿にしちゃいけねえよ、誰がそんなしょっぱい連中にここを管理させてるもんかよ」

「こうした誰の物とも表示のない広場は行政府の管理下にあるはずだから、そこで何をしようと、犯罪に関わることでなければ問題はない。何も君たちに咎められるようなことはしていない」

「この野郎ナメてんのか⁉︎」


 毅然と対応するハルトの後ろにレッタはすっかり涙目で、エミリアが更に奥に下げながらラスナとケーイチに耳打ちした。


「誰なのかな」

「ナントカ一家、暴力団かしら」

「だろうな。程度の悪い顔してやがる」

「オイコラなんて言った、そこの野郎、緑い服着て突っ立ってるお前だよ!アーン?」


 運悪く、ケーイチの言葉だけ男の耳に入る。詰め寄るとわざと下から見上げてきて非常に嫌な感じ。ケーイチは立ちん坊のまま冷汗を流した。銃を抜く局面でもない。そのような時にこうした絡まれ方をするのは苦手である。


「どうすれば、許していただけるんでしょうか」


 情けない声を出しながらケーイチは目を瞑った。相手はせせら笑いながら馬鹿にするも、ハルトと違って卑屈な態度に幾分気を紛らわせた様子だった。一歩下がると背を向けてそれぞれの顔を見流す。


「後でルロットさんとこに挨拶しに来い。もちろん金も持ってだ。良い挨拶すりゃ、ちょっとは許してもらえるかもしれねえぜ。逃げるなよ」


 得意げに吐き捨てると行ってしまった。奇異な目を通行人に向けられながら、溜息とともにケーイチはへたり込む。レッタは再び震える声でハルトにすがり付いた。


「あーおっかなかった。あの野郎次会ったら殺したるど」

「あのねえ、今更力んでも仕方ないわよ」

「は、は、ハルトさん、わたし、とんでもないことを・・・」

「レッタは何も悪いことをしてない、おかしいのはあいつらだよ」

「でもどうするの?挨拶しに来いって。このまま街の中にいたら危ないよ」

「でも、次の街まで大分ある。日が暮れるし道もよくない。できたらここで泊まれたらいいけど」

「挨拶ね、どうしようかしら」


 挨拶、ヤクザの挨拶。ロクなものではない。出向いて行ってこんにちはで済まないことは百も承知である。金を巻き上げられるとも考えられた。勇者証の効力も、行政府をああも馬鹿にするようでは逆上されかねない。一同首を捻っても、いい方法は考えつかなかった。


「あー挨拶。そういうことかも」


 ケーイチが変な声を出した。彼の頭には、何十本と観たヤクザ映画のシーンがスクリーンに映し出されていた。彼の思いついた名案に、ここが異世界でそんなこと通じるのかとの疑問は浮かばなかった。

 立ち上がると早速街の人間らしき者にルロットの居場所を聞いた。周りはケーイチの話に眉を顰めたが、彼は一度こんなことを試してみたかったと、怯えの中どこか胸を躍らせていた。

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