第19話 陸路海路
「いよいよお別れっすね。色々とお世話になったっす」
数日後、当初向かっていた目的地の港に着いた。何から何まで奇妙な事件に巻き込まれ、また自ら首を突っ込み、長いこと寄り道しての到着だった。海の人間になりかけていたところを陸の人間に戻って、ハルトたち一行は港の地面を何度も踏みしめる。
「こちらこそお世話になりました。二人とも元気で」
「また会いましょう。でも、今度はお風呂にいきなり突っ込んでくるのはナシだからね」
「あの時はほんとにごめんなさいっす。でも、こうして短剣が取り戻せたからもうあんなことする必要がないっす。それに・・・」
ライダは隣のクリエを見上げて頬を染める。確かに恋させてくれとは言っていたが、もうそこまで進んだのかと、当てつけられるケーイチはそっぽ向いて頭をかいた。
「私たち二人、それに部下たちとがんばっていくっすよ。いつかまた海で出会ったら、その時はカーレ島にでもどこにでも運ぶっす」
「格安でか?」
「正規の料金はいただくっすよ!」
「うん、それでこそプロってもんさ」
「カーレまで渡るのにきっとお船が必要だから、そうなったらまたロレンス号に乗りたいです!」
「もちろんっすレッタちゃん。みなさんを乗せること、楽しみにしてるっす」
「乗ってまた船酔いになったらまたいつでも私に言いなさいね。特に、エ・ミ・リ・ア・ちゃ・ん?」
「い、いやあ・・・その日までに鍛えておきます」
「あら残念」
「クリエ〜早速浮気っすか?告白したのはそっちからなのに、ひどいっすね!」
「も、もう、ライダったら、冗談よ」
「これは、よーく見張っておく必要があるっすね。私直々に」
「・・・私のこと、よく見ててね?」
「クリエ・・・」
見つめ合ってしまうライダとクリエ、やはり付き合いたてのカップルそのままで、他の五人は顔を見合わせるとおかしそうに笑った。間も無く出発の時間になる、やたら無言のままに百合色の会話を交わす二人に、ケーイチは咳払いをした。
「じゃあそろそろ」
「え⁉︎あ、ああ、そうっすね。私からみんなを代表して最後の挨拶をするっす」
「挨拶?」
「そうっすよ。じゃあ・・・」
ライダは、ケーイチに近寄ると爪先で背伸びして頬にキスをした。前は唇に感じていた柔らかさが頬に移って、ハッとして掌で撫でると、ハルトやラスナ、エミリアにも同じくキスを与えていた。唯一彼女より背の低いレッタはおでこに。
「またね、っす」
太陽の笑いを見せた。結局、この笑顔のために今回は戦ったのかもしれない。以前ライダは、純粋に笑顔を受け取って欲しいとケーイチに話していた。ケーイチは、ようやく彼女の笑顔を心に輝かせて、照れ臭く笑い返すことができた。
短剣を持った手を振り振り、ハルトたちは少しすると路地を曲がって見えなくなった。一抹の切なさを感じながら、隣のクリエにいたずらに身を寄せてみる。彼女の腕が腰を抱き寄せて、彼らと出会ってからのことを頭に反芻させた。関連させて、別のことを一つ思い出す。
「あ!思い出したっす!」
「なにを?」
「ハルトさんとケーイチさんの料理のことっすよ。クリエは食べたっすか?」
「酢漬けのこと?」
「うーん、違うっす。多分それを作る前に、二人は生魚の肉を小さく切っただけの料理を作ったっす。それに黒いソースをつけて食べるっすけど、私は食べたような気がしたっす」
「それを思い出したの?」
「ほら、覚えてないっすか?まだロレンスがいた頃に、銃を持った変な格好の男を乗せたっす。その男が国の料理だって言って食べさせてくれたっす。ソースも、そういえばあの男が置いてった物っす」
「あー、お金がないのをロレンスが構わないって言って、でも申し訳ないからソースだけ置いてった男がいたわね」
「そうそれっす!不思議なこともあるもんっすね」
「案外、同じ国の出身なのかもよ。うっすら覚えてるあの人の顔立ち、マキタ君やイシヅカ君と似てたから」
「あちゃー伝えておけばよかったっす。いいお話のネタにもなったかもしれないっすのに」
残念がるライダの記憶に浮かび上がる男、ケーイチとハルトには確かに縁がある格好をしていた。彼らの国が世界と戦争をしていた頃の、今はもう滅んでしまった軍隊の装束。そして彼は、ケーイチの持つ銃と似通った道具を携えていたのだった。
ケーイチとハルトがくしゅんとクシャミをする。風邪も引いてないのに突然のこと、誰かが噂しているのかと互いの顔を見やった。だが結びつくのは、ライダやクリエの会話ではない。別のことを、大事なことを思い出して、考えてみればそれはロレンス号に出会うきっかけ。
「あーっ!リーネ!」
「なに⁉︎なに、どうかしたの?」
「俺たちのこと通報したの、きっとリーネだぜ」
「ほら、ロレンス号に密告書を送ったっていう」
「そうだった!」
「・・・でも、それっきりでリーネの影はなかったわよね?」
「盗賊団だって、リーネとは関係なかったもんね」
「魔法使いはどこにもいなかったです!」
「関係ないって考えていいのかな?」
「さあ。でも今回はいいんじゃない、コトは丸く収まったんだし」
「でもこれから先、もしかしたらリーネの邪魔が入ることがあるかもって考えると、先が思いやられるわね」
「早いとこ捕まえなくちゃ。あーあ」
同じ頃、どこかの港、しかしライダの短剣捜索の情報書が貼ってあった内海に面した街、一人の薄汚い魔法使いが掲示板を舐めるように見ていた。異様な光景に道行く人々は怪しむ視線を落としていく。
「もーそろそろ、どうやってあいつらが討伐されたかって、報せがあってもいい頃よね・・・あった!なになに?マキタ・ハルトを始めとする旅行者一行は、ライダ・ミスティに協力して見事盗賊を討伐、お手柄に街の住人は拍手で・・・なにこれ!私の計画とまるっきり反対じゃない!あいつら見かけたあの宿でやっつけられたかと思ったのに!くそー今度会った時にはどうやって・・・え?」
報道ビラの隣、先までは気づかなかったが、新たな紙が貼られている。指名手配書だった。目に入る名前と人相書き、絵の方はまるっきり当人を捉えていないと断言できるが、しかし蒼ざめた。掲示板を眺めていた他の人々は、異様な魔法使いの姿と手配書を交互に見て驚嘆する。
「こいつだ!この手配書の女!」
「バカ言わないで、こんな絵私に似てないわよ!」
「ほら本物だ!逃がすな、役人に突き出しゃたんまり金もらって美味い飯が食えるぞ!」
「しまった!やだもー!」
慌てて逃げ出すリーネ、ボロ箒にまたがって宙に浮くと、バランス崩して逆さのまま飛んでいった。スカートの中身が上になって、白く丸く尻のなんと見事なものか。
尻丸出しで飛ぶ女の噂は、以降数ヶ月に渡って絶えることなく国中に伝わった。ライダたちもケーイチたちも、それぞれ違う場所でその噂を耳にすると同じように爆笑した。




