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副・救世主は悩ましく  作者: 小山モーゼル
第四章 セーラーと短剣
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第16話 決着

 大袈裟に胸を張ってボスは続けた。追い込まれた悪党にしては焦りが無くてふてぶてしく、どんな要求を突き付けてくるのか、ライダはクリエとボスを交互に見て唾を飲んだ。


「一つ目は、お前らの撤退だ。当たり前だな。この島から去れ」

「それはそうっすね。でも私たちじゃなくても、他の軍隊や自警団にどうせ討伐されるっすよ」

「馬鹿、二つ目を聞け。これが重要だ。そもそもこの島なんざもう見切りをつけてる。だからお前らみたいな脅威を排除した暁には、集めたお宝を一気に運べるデカい船が欲しい」

「まさか、ロレンス号を⁉」


 盗賊はボートのような小型艇しか持っていないことは確認してある。また、当然ながら港からは相当離れているため、船を買ってよこせと言っているわけはない。つまり、ロレンス号の引き渡しを意味していた。


「察しがいいじゃねえか、その通りだ。あれなら荷物を十分運べるだろうからな。要求はこの二つだけだ。どうだ、簡単だろう」

「・・・クリエの命には代えられないっすね」

「でも、船を取られたら仕事が」

「船ならなんとかなるっす。しばらく陸で自警団稼業に専念するって手もあるっすから」

「しかし、これまでの短剣探しがロレンス号探しに()()()ってだけじゃないのか?」


 ライダは、龍眼の短剣にロレンスの思い出があるからずっと追っていた。あの船には、その名残は短剣の比にならないはずである。結局何一つ解決しないのではないかと、ケーイチの考えることは自然だった。ライダは目を伏すと、うん、と口を結んで天を仰いだ。


「クリエがいるっすから。これから私はより幸せに生きていけるっす。それに、龍眼の短剣が戻るのなら十分っすよ。船員(クルー)みんなも、これまでよくついてきてくれたっす。辞めたい者はいつでも言ってほしいっす、心ばかりの退職金と知り合いの船で働けるように紹介状を書くっすから」

「何を言うんです船長、たとえ陸に上がっても、どこにでもついていきます」

「そうだ、俺たちが辞めたいと思ってるだなんて、ひどいですよ」

「・・・本当に良い部下を持ててこんなに嬉しいことはないっす。じゃあ、クリエを助けるっすよ」


 ボスに向き直って胸いっぱいに息を吸う、大きく口を開けて、一旦海にサヨナラする覚悟ができた。クリエを救出すべく。

 しかし、ボスがライダに求めることは、この要求だけでは済まなかった。


「船は渡すっす、だからクリエを解放するっす!」

「いい選択だ。なら船はもらうぜ」

「だめよライダ!そんなことしたら、海に出れなくなっちゃう!」

「いいんすよクリエ、船ならまたなんとかなるっす。これからクリエも一緒に新しいのを探して欲しいっす!」

「でも・・・」

「さあ、クリエを返すっすよ。まずはそこからっす」

「おっと、そうはいかねえ。ミスティさんよ、もう一つやってもらうことがある」

「まだなんか要求があるっすか⁉︎」

「簡単なことさ、選ぶだけだ。こいつかこれか、返すのは一つだけだ」


 ボスの部下が長い槍を持ってきて渡した。穂先が刃付けされているのを示すため柱の側面を滑らかに削り、そしてクリエの首元に添えた。彼女が顔を背けて、しかし身体を傷つけるわけではなく、刃で短剣の紐を持ち上げた。


「短剣か女か、どっちか選べ。選んだ方はきっちり返してやる」

「あんた、何言ってんのよ!その短剣はライダがずっと探してた・・・」

「だからじゃねえか。人生なかなか上手くいかないってことを教えてやろうってんだ。生きてりゃそういうこともあるだろうよ」

「ほんっとうに性格悪いわね!だめよライダ、短剣を捨てちゃ!」


 抗弁するのはむしろクリエの方、龍眼の短剣だけは、捨てさせてはならないと焦った。当初の短剣に対する歪んだ思いは既になく、この変心は、騒動の複雑化をしてしまった責任感も含まれていた。事件が自身の身勝手な行動で引き起こされた分、命に代えても短剣だけは返したかった。

 ライダは船を取られると告げられた時より、固まって黙りこくった。クリエとロレンス、どちらを殺すかと迫られているのと同じだった。少し間を置いて俯くと、帽子の庇が目元に暗く影を作った。


「・・・っす」

「おーなんだって?聞こえねえぞ」

「クリエを・・・放してほしいっす。短剣のことは諦めるっすから」

「やめてライダ!これは私が引き起こしたこと、だから短剣を犠牲にしないで!」

「黙るっす!何があってもクリエは助けるっす、言う通りにするっす!」


 泣く泣くライダ、叫べば叫ぶだけ涙が出てくるようで、いつのまにかクリエとの口論になっていた。やっと悪役としての立場を取り戻したボスは楽しんでいて、どちらの紐かロープを切るのかウズウズしているのが伝わってくる。ケーイチは改めてボスに照準を合わせた。


「撃っちゃおうか。あの野郎デケえ態度取りゃがって、ブチ殺したる」

「気持ちは同じよ、だけど待って。まだクリエさんと短剣が危ないわ」

「なんとかして両方助ける方法はないですか⁉︎」

「うん、でもローブと紐に刃が当たってて、今にも切りそうだし・・・」

「何か方法は・・・あっ」


 敵を見ていたハルト、何か思いついて目を見開いた。名案が浮かんだと見えて、四人を側に集めると小声で囁いた。聞いてみると大胆な方法、しかしこの張り詰めた空気の中簡単には思い浮かべられなかった。


「・・・ということなんだ。いい?」

「わかったわ。やってみましょう」

「ハルトさんが立てた計画、がんばります!」

「大急ぎで作るね!」

「砲兵には俺から伝えておく。上手くやれよ」

「あの木が登りやすそうだ。レッタとラスナはできるだけ高いところからお願い」

「できたよ!」

「早い!」


 エミリアが作り終わった物、幅広の板切れで、持ちやすいように紐が結わえつけられていた。レッタは首にかけるとラスナと一緒に少し後方の木に登って、なんとか上までたどり着くのが見えた。ケーイチは砲の操作員に計画を伝える。ハルトは迂回してできるだけ兵舎に近づき、ボスには直接衝撃の及ばない場所に打撃魔法を繰り出すべく掌を広げた。あとは、この悪党の筋力が適切に凶器を掴んでいると信じて。

 ライダは未だ続く口論にヤケになって、泣きじゃくりながらボスに言い放った。


「もういいっす!ボス、早く短剣の紐を切っちゃうっす!」

「いいんだな?」

「いいっすよ、いいっす、そんな短剣いらないっす!」

「そうか。じゃ、やるぞ」

「だめーっ!」


 今一度穂先を揺らすと紐に当て直した。ぐんと伸ばしていよいよ切り離そうとする。ライダとクリエは、ロレンスの二度目の死を目撃すまいと、きつく目を瞑って歯を食いしばった。

 槍を引く直前、ボスの背後から爆発音が響く。彼自身には爆風の一つも当たらず、そのまま動きを止めて後ろを振り返った。


「なんだ⁉︎」

「敵襲です!側面後方より迂回されました!」

「この野郎!裏切りやがったな!」

「違うっす!私は何も命じてないっす!」

「許さねえ、どっちも溶けちまえ!・・・はあ⁉︎」

「えーいっ!」


 空を切り裂く、どんな原理で出ているのか解らないけれどハルトとケーイチには懐かしいジェット機の如く高音は、クリエの縄が切られるのと時を同じくしていた。切ったのはラスナの剣、直前レッタが鍋の上に置いた板切れの上にクリエが落ちた。短剣は紐が槍の刃に当てられて落ちたが、首尾よくクリエの側に転がる。即座に引き返すレッタとラスナが叫んだ。


「クリエさん、剣を取って!」

「はい!」


 猿轡が無いことが幸いした。両手は縛られていても口元は自由が効く、板切れに顔面叩きつけて短剣の鞘を噛むと、身体は宙に飛び上がった。一筋の鼻血が尾を引いて立ち尽くすボスの額に付着する。間髪入れず、今度はケーイチが引鉄を絞った。弾はボスの胴に命中し、続けて近くにいた手下にも喰らわせた。


「うがあっ!」

「今だ、やれ!」

「オス!」


 引っ張ってきた砲の出番、操作員は待ってましたとばかりに勢いよく点火した。葡萄弾でなく砲丸が撃ち出され、何があったのかとキョトンとするライダの横を通り抜けた。弾は鍋に当たりその外殻を砕き、こぼれた毒は地面に1デールもの穴を作ってその威力が窺い知れる。ボスの足にも飛沫が跳ねて、靴とズボンを綺麗に溶かしていた。

 ケーイチと船室の下士官は並んで飛び出し、ライダの肩を叩いた。彼女は我に返って、もう涙は乾いている。


「船長!」

「ライダ!」

「はっ⁉」

「今がチャンスです!」

「これで全部終わりだ!」

「ありがとうっす!みんな、ついてくるっす!」


 クリエは森林の中で降りた。ラスナはそのまま部隊の殿について突撃に加わり、あとの経過をエミリアとレッタと共に見ていた。この三人が無防備の傍観者でいられるくらい、戦いは有利に進んでいた。結局、敵は人質を取っていたことの慢心から包囲殲滅される運びとなって、程なくして崩れた兵舎を占領する船員の姿が目に入った。


「あの、クリエさん・・・」


 レッタがクリエに話しかける控えめな声で、初めて口の中に血が滴っていることに気づく。嚙み締めた短剣が長い間そのままで、歯茎から血が滲んでいた。口を開こうとしても硬直したみたいになかなか緊張は解けず、両手を使ってやっとのことこじ開けると、鞘には歯形で薄く傷が付けられていた。兄と一体化したようなおかしな安心感で、それは、ライダが自分に恋をさせてくれと言ったからなのか。彼女はロレンスに恋していたから。


「こんなことしてごめんなさい。もうあなたのことも捨てずに、ちゃんと生きていくから」


 小さく何とも繰り返して、落ちる涙が鞘に溶け込んだ。

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