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副・救世主は悩ましく  作者: 小山モーゼル
第四章 セーラーと短剣
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第13話 水際防衛

 森林に向かった班はほぼ全滅したといっていい。敵は奇襲を知っていて、森林内に砲を引き込んで葡萄弾を放った。小さな子弾が発射されるこの砲弾は散弾銃を撃つのと一緒で至近距離の人員に威力を発揮する。無血上陸の気安さから固まっていたことも仇となった。そこそこの距離を保っていた他の班に損害はなくとも、今度は銃撃が始まった。暴露された地点では身を隠す術なく、慌ててボートの影に隠れる。マスケット銃は前装式の構造上伏せたままの射撃には手間がかかり、効果的な反撃はできなかった。ハルトの打撃魔法も限定的となる。

 ライダとケーイチたちの位置からは敵が見えない。当てずっぽうに撃っても敵の気を逸らすことはできなかった。


「嵌められた!」

「私のミスっす、部下たちが!」

「おい、ここの陣地は使えねえか。土嚢が積んであって防御には良さそうだ」

「考えていたっす。でもどうやってみんなをこっちに向かわせるか」

「俺の銃は15発連続で撃てる、威嚇にはなるだろう。向こう行って誰か連れてくるから、その間に土嚢を内陸側に積め!」

「変わった銃だと思ったっすけどそんなに撃てるっすか⁉︎頼むっす!」

了解!(アイアイサー)


 ライダと残っていた船員は土嚢の移動を始めた。ケーイチは飛び出してできるだけ走り、弾が空を切る音を耳にすると伏せて発砲する。これを繰り返してやっとのことボートにたどり着くと、最後物を焼くような銃声が耳元をかすめた。敵の射撃は正確だった。


「あっちの砲兵陣地が使える、ラスナとあと何人か、誰かついてこい!ハルト、援護を頼む!」

「わかった!」


 ケーイチは弾倉を換えるとカービンを頭上に掲げて威嚇射撃、そのまま立ち上がって撃ち続けた。自然と照準は彼に向けられるが、自動小銃とは便利な物で、いくらでも弾が飛んでくるから敵は発砲できずにいた。隙を狙ってハルト他身を乗り出して反撃する。森林からの攻撃は減り始めた。


「ラスナの剣もこうなっちゃカタナシだな!」

「うるさいわね!懐に飛び込めば戦えるわよ!」

「無事っすか⁉︎大分来れたみたいっすね」

「まだ残ってる、連れてくるよ」

「わかったっす。みんな、土嚢を内陸側に置き換えて盾にして、体勢を立て直すっす!」


 あともう二往復もしたら全員連れてくることができた。防御陣地側に敵が回って攻撃を加えてきたが、幸い砲は持ってこられなかったのか砲撃はない。盾を得た陸戦隊も果敢に攻撃していた。そのうち敵の銃火は少なくなってくる。ライダは剣を抜き片手で短銃を握った。


「着け剣するっす!突撃にー、前へ!」


 まるで映画の日本軍みたいな号令で剣を敵方に向けて突き出した。船員は着剣した小銃を腰だめに槍兵に早変わり、凄まじいエネルギーでライダに続く。ハルトら三人は遅れをとってラスナなぞはすっかり最後尾だった。

 残敵掃討の格闘戦、上手いこと逃げたのかあまり数はいなくて、ラスナは討ち漏らした敵を相手に剣を振るうが、ハルトとケーイチは別の目標を探す。照準に邪魔な木々が雑多な射界清掃されてない森林内といえども、砲でまた葡萄弾をばら撒かれたら厄介だった。それに鹵獲もしたい。


「あそこだ!」


 砲は付近まで運ばれてはいなかったが、思った通り二人の操作員がこちらに砲口を向けようとしていてヤケッパチ。ケーイチはハルトの背中越しに前方を指差した。二本の腕が平行になって、ハルトの掌が開かれる。


「はあっ!」


 発射されたのは水魔法。多少の仰角をつけて放水し砲側は突然のスコールかと見誤った。防雨の備えをしていなかったからたちまち導火線は消え、仕方なく砲を引きずって退却を試みた。だが直後、今度は打撃魔法をぶつけられて崩れる車輪、横倒しになった。操作員はノびている。

 ともかく一戦終わった。ケーイチはハルトの背にべったりくっついて方向指示していたからか、少年はクスリと笑った。


「なんか合体技みたいだ」

「これがか?違えねえ。やったのはほとんどハルトだけど」

「ハルトさんケーイチさん、砲をやったっすか?」


 モクモクと、火薬の煙を煽ぎながらライダが現れた。彼女は既に剣を収めて短銃の再装填もしていた。


「ライダさん。うん、あそこに転がってるよ」

「今度こそ本物さ」

「お手柄っすよ!みんな聞くっす、ここに布陣して怪我人の手当てと捕虜の監視、それに砲の車輪を直すっす。村に回った隊も予定通りならそろそろ連絡のレッタちゃんが来るはずっすから、向こうの様子を知り次第追撃するっす!」

「はい!」

「なんだか軍隊みたいな戦い方だったな。しばらくここにいるなら昼寝でもしようかな」

「ケーイチも陣地作り手伝わなきゃ」

「あ、ケーイチさんには別の仕事があるっすよ」

「なにが?」

「偵察っす。ケーイチさんの銃は、葡萄弾みたくたくさんの弾を撒けるっすからね。ごく近い遭遇戦には効果的な防御火器みたいっすから、斥候の護衛をしてほしいっす」

「だけど」

「おーい、三班はあんまり疲れてないみたいっすね。偵察に行ってきてくれるっすか?」

「ご命令とあらば」

「と、いうことでよろしく頼むっす」


 三班というのが例の下士官、どうもこの強面とは縁がある。意図して厳つい顔をしているわけでもないだろうが、しなくてもいいのにオドオドしてしまう。なんだかやる気が起きなくて、ケーイチはだらしなく立ち上がるとカービンを肩から外して差し出した。


「これ、借すから俺待ってても?」

「自分らは撃ち方を知らんですから」

「ですよね」


 卑屈に背を丸めて愛想笑い、相手の班の誰も応じない。如何にもみっともなくて、今さっきケーイチに軽口叩かれたラスナがお返しにと、鼻で笑った。


「ケーイチのいくじなし」

「くっ・・・正直当たってるから反論できねえ」

「私をバカにしたくらいなんだから、シャンとしなさいよねシャンと」

「はいはい」


 しぶしぶ命令に応じて、背は丸めたままに斥候の後について森に消えていった。しかし猫背を更に丸めているばかりなのも仕方なく、ラスナの言った通り伸ばしてついでに仰け反ってみる。すると森の切れ目の青空に、誰か飛んでいた。護衛か伝令を背負っているらしく別の脚も見える。特に慌てた様子もなくレッタが飛んでいるのならば、別動隊は順調に計画を進められたようだった。


 レッタは伝令が状況を終えるとすぐまた元の救出隊へ飛んだ。救出隊の動きは、住民監視で残されていた敵の数名は早々に逃げてしまったから計画よりよっぽどやりやすく、怪我や病気の治療も風土病に罹患している三人を除けば残りは健康体だった。そうはいっても慣れない風土病の治療にエミリアは骨を折る。クリエはこうした地域での医療経験も豊富だから彼女の方が手際良かった。


「こっちの二人は終わったわ。そっちは?」

「ちょっと待ってください。うーん、こうかな・・・はあ、終わりました」

「これで大丈夫そうね」

「ごめんなさい、私ここの病気の治療は不慣れだから時間かかっちゃって」

「土地の病気だもの、しょうがないわ」


 患者とその家族から背に礼を受けて、クリエは振り向かずに手を振った。家屋を出て見上げる空のゆっくり雲が流れる、なんと平和なことか。

 これなら、今度こそ思惑通り物事が進んだのだろうと、安心して息を吐いた。安心といっても決して明るいものではない、後ろめたさのある溜息に近かった。戦闘はなかっただろうからライダが戦傷を負ったとは思わなかったが、代わりに、心は傷ついて帰ってくることは、確信していた。それだけのことをクリエは計略していたのである。あまりにもめちゃくちゃに壊されて腑抜け同然となる、彼女の手には短剣の欠片が握られていると、思い浮かべて戦慄した。


戦慄?どうしてそんなことができる立場にある。鬼になることを望んだのは自分自身なのに。


「ど、どうしたんですか?」


 思い詰めた顔して急に頭を振ったからか、隣のエミリアがびっくりした。乱れた髪を手櫛にすくい上げ、額を晒すと指で叩いた。悪寒が去るのを待って、伏せがちな目でニヤリ笑ってみせる。


「なんでもないわ。ちょっと疲れたのかしら」

「朝早かったですもんね」

「そうね、私暇さえあれば寝てるから」

「じゃあお昼寝でもしますか?もう患者さんもいないみたいだし」

「いいわね。そうしようかしら」

「そうしたら・・・あ、おかえりレッタ」


 話の途中に、二人を見つけたレッタが駆け寄ってきた。一往復した疲れが残るのか、少し息を切らせて膝に手をついた。何度も深呼吸を繰り返して、顔だけ上げると何か報告でもするように、大きく口を開けた。

 クリエは思わず身構える。少女の口から何が紡がれるのか、自身の計略の結果を聞かされることにはまず間違いはないから、緊張に拳を握る。


「はあ、はあ・・・エミリアさん、クリエさん。大変なんです」

「大変って⁉︎」

「・・・何かしら」

「その、あの、怪我人が、それも結構大きな傷を負った人が出たんです!待ち伏せの攻撃を受けたみたいで。海岸の陣地に怪我した人を残しておくから、私にどちらか一人送ってほしいって、ライダさんが。患者さんを運ぶ人たちはもう出発したけど、手当てできる人を先に運べって」

「え」

「大変!すぐ行かなきゃ。クリエさんは休んでてください、私が行ってきます」


 勝手が二つ、違っていた。まずは重傷患者、これは出ないはずだったのだ。この島の賊には大した抵抗をせず撤退するように言ってある。そのために非合法な値段で薬を売ったりして多額な金を作り、島そのものを買い取っていた。実際クリエたちの上陸地点にいた敵は抵抗せずに逃げた。それが、待ち伏せしての攻撃で、怪我人を出すなどとは、話が違う。

 もう一つ、これはライダのこと、まだ破壊された短剣を彼女は見つけていないのだろうか。


「私が行くわ」

「クリエさん⁉︎」


 エミリアがレッタに乗る前に、クリアは医療鞄を取ると素早くおんぶされた。目を丸くする二人に訳を話している暇もなく、ただ一言。


「ライダと直接話をしたいの。傷の手当てにもっと人手が必要なら、またレッタちゃんを送るわ」

「で、でも疲れてるんじゃ」

「疲れてないわ。初めっから」

「く、クリエさんでいいんですか?じゃあ行きますよ」

「お願い。できるだけ早く」


 鞄のストラップをきゅっと握り、レッタの小さな背に腹這いになる。上衣の袖が今更重たくのしかかった。

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