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副・救世主は悩ましく  作者: 小山モーゼル
第三章 羽根ッ子騒動
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第21話 負け犬二人の策謀

 もう一日休んでリーネを探すが、自警団の情報によれば姿は見えないそうだ。よほど上手く隠れているのか、しかし自警団総出の捜索も間も無く街中済み、長く続かないだろう。透明化魔法を使っていたとて、声形そのまま残っているから逃げ出せずにいるはず。一本だけ浮遊する箒も目撃されていない。ジューコの逮捕も時間の問題だった。

 だがリーネとジューコの最後の凶事はひっそり産声を上げていた。


 事務所付近の路地裏で、何人かの物乞いに小突かれている男がいた。乞食にも縄張りがあり、正体詳らかにしないくせに誰かの分け前掠めようとしたのだと、糾弾される。


「こいつ、今日の残飯上モノだったのによ!食っちまいやがって!」

「物乞いにだってなあ、ルールがあるんだよルールが!貴様、顔見せねえか!」

「い、嫌だ!汚ねえ手で触るんじゃねえ!」

「ふてえやつだ、汚ねえ手だと⁉︎舐めやがって!」

「うわ!」


 羽交い締めにされて被った盗品ポンチョのフードが引き下ろされる。短い蝋燭で顔を照らされ覗き込むと、しばらく眺めてから背後の壁を見る。そこには新しい手配書が貼られていた。人相書きと曲者の容姿が一致する。一人が手配書の名を叫んだ。


「あ、お尋ね者のジューコだ!こいつ連れてきゃ懸賞金がたんまりもらえるぞ!」

「縛れ!」

「やめろ!違う、俺はジューコじゃない!」

「うるせえ!おい、今夜は新しい煙草と酒がやれるな!」

「女もだ!ジタバタするな!」

「やめなさいあんたたち」


 腰の荒縄解いていよいよがんじがらめにしようという時、若い女の声が響いた。手を止めて声の主を見ると、少し離れた所に黒衣の女が立っている。彼女は右手を顔の横に上げていた。指には一線濃くなっている跡があり、長いこと着けていた指輪の名残。物乞いたちは訝しんだ。


「なんだおめえ、邪魔すんじゃねえぞ!」

「大きな口叩くわね。怪我する前に去った方がいいわよ」

「この(アマ)、ブチ犯すぞ!」

「やれるものならやってみれば。私はその男と手を組んでいた魔法使いよ」

「そういえばこいつにも手配が!」

「どんなのがお望み?身体中の関節を逆に曲げるか一思いに頭だけ宙に飛ばすか」

「ヒッ!」


 指をパチンと鳴らす。すると無風なのに蠟燭の火が消え辺りは闇に包まれて、途端に物乞いたちは震えだした。リーネの手配書には大きな魔力が失われている旨記されていたが、どこまでの魔法が使えるのかは見当つかず、無惨な死に方だけはしたくないと縄を離した。皆逃げ出して残されたジューコは、リーネが助けに来てくれたとの気安さから走り出して抱きつこうとする。


「リーネ!お前なら来てくれると思ってたんだぜ!」

「ふん」


 しかし抱擁叶わず避けられて固い地面に激突した。その惨めな姿をリーネは蔑んで見下ろして吐き捨てるように言った。彼女の言葉には再会を喜ぶ何の感情も込められていない。


「金ヅルが気安くしないでよ。あんた、金持ってないの」

「うう・・・テメエ何すんだ!」

「金よ、オ・カ・ネ!まさか無一文で逃げ出したっていうの?」

「アテが外れたな、俺は追い出された。金持って逃げたとでも思ってたんなら馬鹿もいいところだ」

「信じられない!助けるんじゃなかった」

「そういうお前はどうなんだよ。こっちは探してたんだぜ」

「はあ?なんでよ」

「抜け出すのにお前の力が必要だろうが。それに、あいつらに一泡吹かせたい」

「あっそ。ならあんたもアテが外れたわね。もうそんな力はないわ」

「なに⁉︎つい今魔法使ったじゃねえか!」

「ちょっと風を吹かせただけよ。今じゃ飛ぶのがやっと、姿を消すのだって、ほら」


 フッとリーネの姿が消える。なんだ、できるじゃないかと一瞬期待したが、彼女がいる位置何かがおかしい。よく見ると女体型に空間が歪んでいて、街中で歩けば不審に思われること間違いなかった。すぐに再び実体化する。


「でしょ、不完全。それに長くは持たない」

「クソ!役立たずが!」

「言うじゃないの、これまでクレームもなく稼げたのは誰のおかげ?」

「うるせえな!」

「負け犬はよく吠えるわね」

「負け犬はお前もだろ。みすみすあの二人を逃した上に力まで無くしやがって」


 ここまで言われても、まだジューコよりは余裕を残している様子だった。リーナはどこで手に入れたのか、胸元に手を突っ込み皺くちゃの新聞を取り出した。紙面には暴かれた自分たちの悪事が掲載されていた。また、誰が解決に尽力したかも小さく名前が載り、エミリア・オルドリンの所だけ爪で何本も溝が引かれている。エミリアの名をまじまじと見る彼女をジューコは鼻で笑った。


「あいつらにまた一泡吹かせたら、どさくさに紛れて金持って逃げようと思ったのによ」

「グリーク・サーカスにいるんだってね、あの子たち」

「だからどうした。あーあ」

「私はそこへ行くわ。魔力にはアテがあるの」

「なんだって?」

「エミリア、私が捕まえていた子、あの娘の身体には魔力が溜まってる。魔練術と魔術の力の使い方は違うけど源は一緒。吸い取れば多分魔力が戻るわ。それにもし魔法使いとしての魔力が戻らなくても、魔練術は使えるようになる。だからあんた、脱出の手助けするから手伝ってよ」

「吸い取るって、どうすんだよ」

「魔力の源はお腹の下あたりにあるの。女性でいえば子宮のところね。ふふ」

「だからどうやって」

「まだわかんない?男は皆んな好きなことよ」


 得意げな語りにジューコも元気が出てくる。グリーク・サーカスの所まで行ければなんとかなりそうな気がした。あわよくば元の地位と金も取り戻してまた淫蕩三昧の日々をと。ポンチョを被り直して、やっとのことでさっき手に入れた残飯を惜しげなく捨てて踏みつけた。リーネは湿った目を細めた。


「犯しちゃうのよ、ぐっちょぐちょに」

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