表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
副・救世主は悩ましく  作者: 小山モーゼル
第三章 羽根ッ子騒動
47/171

第18話 寸劇作戦

 楽隊の鼓笛とドラの()が、またお洒落した動物の足音がサーカスの到来を知らせていた。拍手で迎える観衆に駆け寄って行進を供にする子どもたち、空中にはレッタがフワリ飛んで紙吹雪を散らせていた。その中に、団員以外の二人新顔がいる。ラスナとケーイチ、二人似たような姿で、野暮ったい袋みたいな服を着せられ顔にはミイラみたいな覆面、上半身には革のハーネスが巻かれる。武器は、剣はそのままにカービンには筒が被せてあって、これは演技の小道具にもなった。ラスナの胸部が膨らんでいるのは女性であるからともかく、ケーイチにも尖ったソレが浮き出ていて、彼は変わった戦闘靴の底を見られると怪しまれそうだから靴紐同士結んで首に掛けてあった。つまり、二人は空を飛ぶ予定。

 繁華街まで来ると列は停止し演技が始まる。終盤まで出番がない二人は端に避けて芸を見守った。まっすぐ不動の姿勢で時折例の細道に目を向ける。自警団員が詰めていて更に観衆も大勢いた。結局、地上から行くのは困難であった。ケーイチは唾を飲んでカービンの筒を握る手に力を入れる。


「緊張してきた」

「私もよ」

「出番まだかな」

「まだだって。手順は大丈夫?」

「多分。俺はこの()()で殴りかかるだけだから」


 二人の役目は寸劇での悪役。団長のアナウンスがあったら曲者としてレッタに襲いかかり、躱した彼女に捕まって宙吊りにされるのだ。そしてジューコの事務所の上まで来たら成敗として落とされる。流石に屋根には見張りの気配はなかった。屋根付近に小窓があるのは確認してあるからこじ開けて侵入する手筈。


「ジューコ見つけて脅して証拠出させて・・・気が遠くなる話だ」

「でも信じるしかないでしょ、他に手も思いつかないんだから。それよりあの二人よ。ジューコ一味以外の自警団と市民を味方にできたら探さないと」

「いてくれりゃな。あーあ」

「さあみなさん、お待ちかねのレッタ嬢です!おや?」


 ケーイチの吐く溜息と同時に合図があった。なんとなく日本のおまじない、人の漢字を三回掌に書くと口に当て飲み込んだ。前に立つ他のサーカス団員たちが割れて道ができ、先にはレッタが不安がる演技にキョロキョロしている。二人は駆け出した。


「ああ大変です!珍しい鳥人族を狙う人狩りの姿が!手には武器を持っています。果たしてレッタ嬢はこの危機を切り抜けることができるのでしょうか?みなさんぜひ応援を!」


 大人たちからは笑い声、幼い声はレッタを応援し始めた。ケーイチはこれまで、ヒーローショー的な催しは終ぞ見かけなかった。このくだりは昔見たヒーローショーを思い出して提案したのだが、ひょっとすると将来異世界ヒーローショーのルーツになるのかもしれないと、緊張解くため他ごとに考えた。役柄を人狩りにしたのはもちろんジューコたちへの当てつけ。まずはラスナが鞘ごと剣を振るう。ケーイチが筒を持って次に控えた。


「やーっ!」

「はっ」

「えい!」

「よっ」


 普段の戦闘を考えると、当たり前だがなんとも間の抜けた戦い、本物の役者ならばキレのある動きを披露するのであろうが、手加減の仕方に慣れていない以上仕方がない。レッタは軽々と飛んで避けたりしていて、子どもは喜んでいるが大人からは嘲笑も聞こえる。


「なんだありゃあ、レッタちゃんはともかく敵役は下手くそだな」

「俺がやったってもっと上手くできるぜ」


 下手くそな演技、言われて当然のことでも恥ずかしい。時折羞恥から気合いが抜けそうになるのをレッタから注意される。


「もう!なんですかその動きは」

「仕方ねえじゃん演技なんだから」

「でも真剣に!」

「演技って、難しいのね」

「ほら、そろそろいきますよ、ふんっ!」

「うわ!」


 並んだ二人の背後に降りるとむんずとハーネスを掴まれる。レッタはそのまま翼を羽ばたかせ段々と浮かんでいった。歓声が下から聞こえて団長のセリフが。


「おお、みなさんの声援のおかげで危機を脱したようです。これからレッタ嬢はどのように悪者を成敗するのでしょうか」

「ラスナさん、ケーイチさん、屋根へ向かいますよ」

「は、はい!」


 ケーイチは遊園地の空中ブランコが大好きだった。雰囲気は似ているのだが、あのアトラクションは、幾重にも束ねられた丈夫なワイヤーに椅子を吊り下げ安全に下半身を固定させる。今は、細い少女の腕で背のハーネスを介してぶら下がるだけ。なまじ空中ブランコの安全性を知っているケーイチは脚がすくんだ。


「た、高い!」

「情けない声出さないの!そんなに距離ないから」

「ケーイチさん動かないで!もうちょっとですから、わ!」


 風が吹く。そんなに強くない風でレッタの目に埃が入ったくらいなのだが、少し揺れただけでケーイチはパニックを起こした。大袈裟に腕を振って危険極まりない。


「わーわーわー!」

「危ない!動かないで!」

「我慢よケーイチ!」

「揺れる揺れる!死にたくない!うがっ!」

「ああっ!」

「ひゃっ!」


 勝手に揺れていると自然と振りは大きくなり、ついに隣のラスナに激突した。途端にレッタも手を離してしまいあわや墜落というところを、ケーイチはラスナに抱きつくことで回避した。カービンごと抱き込んだので筒が潰れてコッキングハンドルが飛び出し背に刺さる。かなりの痛みから悲鳴をあげて、二人の直結した重量と暴れる荷物にレッタも慌てた。


「痛い痛い痛い!離してえええ!」

「やだやだ!離したら死ぬ!死ぬ!」

「ちょっともう暴れないでください二人とも!変なところで落としちゃう!」


 大騒ぎの三人、演技でなく異変らしいと観客もどよめく。団長は固唾を飲んで冷汗が流れたが、この場を収めるべく予定にはない口上を発した。


「あのように暴れております人狩りも、彼もまた華麗に麗しき隣人に飛び移ることでことなきを得ます。彼の団員は新人です、後ほど皆さん拍手でお迎えください!」

「なんだあ演技か。やるじゃん敵役も」

「そりゃ演技だろうさ。空中に吊り下げられて隣に飛びつくなんて、なかなかできないな。ん、彼って言うことは男なのか?やけに尖ったおっぱいしてたけど」


 ネタバレにはまだ早かったが、示唆されたケーイチ演ずる人狩りの性別以外は納得したみたいだった。かと言って頭上の騒ぎが収まったわけではない。もうすぐ投下だった。


「落としますよ、いいですか?いいですね⁉︎」

「痛い痛い痛いいたーい!」

「落ちたくない!」

「うるさいなあもう!えい!」

「うわああ!」


 この騒動を一番間近で見ていた男がいる。ジューコの手下で、彼はケーイチたち侵入予定の事務所小窓からサーカスの音を聴いていた。音ばかりでは退屈なもので、何度もあくびを繰り返してじっとその方を見ていたが、なんとグリーク・サーカスの要、つい先だって売り飛ばした鳥人族の小娘が飛んでくるではないか。しかも二人の人間を吊り下げている。


「あいつ、いい稼ぎしてやがんな。自警団に置いて飼ってた方がよかったかもしれねえ。それにしてもこっちに来るな、あっ!」


 吊り下げられた役者の片方は隣にぶつかると飛び移ったかのように見えた。レッタを売らなかった場合の皮算用の最中でも肝を冷やす。下の観衆たちには聞こえない三人の声も静かな事務所では少し聞こえた。


「危ないことしてんな、よく落ちずにいたもんだ。しかし騒がしい、本当に演技かあれ。うん?落とすって?なんで?」


 レッタは手下の頭上にまで来ると降下して二人を落とした。風で服が舞い上がり露わになる脚、一人は男のズボンだが片や生脚、履いたスカートの奥に白く下着が目に入った。異変に驚くよりも前にショーツに夢中になって眼福、形良い尻も見える見える。目の前に落下して、うつ伏せに落ちると屋根にヒビを入れた。すると尻が丸出しでスケベ鑑賞の続きとしゃれこみ、ますます鼻の下が伸びる。この異常事態すらも手下の頭はショーツで上書きされていた。


 奇妙で滑稽な情景を見届けるまでもなくレッタは、ほっと一息つくと踵を返して皆の許へ戻る。一つ二つアクロバットを披露してそっと地面に足をつけると万雷の拍手に包まれた。拍手をしない人間もいて、自警団はジューコの事務所に知らない人間が落ちたのを目撃し、こんな連絡は受けていない。細道に詰めていた自警団員は事務所へ走ったがその他はちっとも退かない観衆に行く手を阻まれて近寄れず、またグリーク・サーカス団長に詰問を試みる者は火吹き男の火炎で腰を抜かした。更なる面倒が起きる前にサーカスは閉幕を宣言し秩序ある撤退を始めた。レッタは象の上に飛び乗って見送る観衆に手を振りながら、一度事務所の屋根を見やった。特に大きな動きは見られない。


「お願いです、どうにか成功を」


 険しくなってしまった表情を笑顔に戻して、サーカスの顔としての意識、もう今はあと何度公演できるか判らないけれど、客の喜びに応え続けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ