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副・救世主は悩ましく  作者: 小山モーゼル
第三章 羽根ッ子騒動
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第17話 反撃

「やめて!放して!」

「あー着いちゃった着いちゃった、どうしちゃおうかな〜」


 リーネの部屋に連れてこられたエミリアは、牢から出された時拘束の魔法でもかけられたのか腕が上げられ手首縛られた格好で動けなかった。脚も同様、膝を曲げることはできても足同士ぴったりくっついたまま離れない。ベッドに転がされて天井や壁に目を走らせると、ランプの類はないのに全体に光苔でも塗布された如く明るい、魔法によって光量が調整されているのだと感じた。ただ閉じられたカーテンの隙間から冷たそうな陽が差し込み昼であることは判った。一体どれほど寝かされていたのか。また横たわる足先の方の壁には見覚えある特徴的な剣が掛けられていて、それはハルトの両手握りの剣だった。豪奢な食器や怪しげな壺が並ぶ戸棚からティーカップを出し、一人茶を淹れるリーネはエミリアの視線が剣に向けられていることに気づく。彼女は戸棚の上に置かれた花瓶に挿さる、萎びかけた花を撫でながら、得意げに剣を見上げた。


「これが気になるの?私の新しいコレクション」

「それあなたのじゃない、ハルトくんの!」

「うるさいわねえ、もう私のよ。でもジューコにあげちゃおうかな」

「やっぱり・・・あなたジューコの手下なのね!」

「手下じゃないわ、ジューコは、私に使われてるだけ」


 今更判っていたことだが改めて吠え、いとも簡単に肯定される。黒幕っぽく振る舞いエミリアも信じるが、リーネにしろジューコにしろ互いに操っているのは自分だと驕っていることには知る由もない。茶に口をつけながらベッドに座って汗ばんだ銀髪を撫でる、手つきがなんともいやらしく、指先が頬を伝うとゾクゾク火傷しそうな痛みが走った。抵抗の意志が消えていき力が抜けるのは魔法をかけられたのか恐怖からかのか判然としないが、レッタのことが脳裏に浮かんだ。この性悪女が、少女を街に監禁している。


「レッタにかけられた魔法を解いて!・・・私はどうなってもいいから」

「レッタ?誰だっけ」

「とぼけないで!グリーク・サーカスに売った鳥人族の子!」

「あー金髪のちっちゃい子ね。何人目だったかしら。私が魔法かけた子の誰かが街を出ようとしてた形跡があったけど、あなたたちだったの」

「なんで、なんでこんな酷いことを」

「なんでって、ジューコが、これまで売ってきた人間に逃げられたって買主に言われて、だから私に頼んで不出の魔法をかけたの。私はそれを利用してお金をもらってる、いい商売ね」

「恥ずかしいと思わないの⁉︎魔力をこんなことに使って!」

「どーだっていいでしょ、私の力をどう使おうと。魔法って結構稼げるんだから。魔練術師サンだって、魔法で色んなもの作って稼ぐんでしょ」

「私たちは人を傷つけることには力を使わない!」

「どうだか。魔練術にだって色々といるのよ。もっとも、魔法使いにだって、あなたみたいに正義ぶった小娘がいないわけじゃないけど。でも、関係ないわねエミリアちゃん。今からあなたは、顔が良くって良い身体してるだけの、()()()()になるんだから」


 リーネはエミリアの腿に跨ってまた唇を舐めた。よく唇を舐める女と思うと、服の胸元に指を当てて、何をするのかと怯えると前合わせに沿って服を切った。下着まで切り離していく。豊かな胸の輪郭が弾けるように露わになって、下腹部をなぞった。恐怖と恥じらいとくすぐったさで声が出る。


「ひゃうっ⁉︎」

「かわいー。たくさん声聞かせてよね」

「わ、私に何を・・・」

「何度も言ったからわかってるでしょ。力を奪って私のものにするの。有形物の錬成は魔練術にしかできないからね、前から欲しかった。ここでしょ、魔法使いと同じく力が溜まってるのは」


 リーネの言う通り、力の源は腹の下の方にあった。魔練術師はそこから身体に力を流して物の錬成や生物の治療を行う。リーネは指で魔法陣を書いているようだった。


「魔力剥奪は魔練術師にとって極刑も同じよね。役立たずになるんだから」

「やめて・・・」

「やめてって何度言うのかな〜カウント開始!」


 魔法陣発動の合図、銃なら引鉄を握る、砲なら拉縄(りゅうじょう)を引く、ともかくこれで運命が決まるわけで、リーネは大袈裟に腕を上げると掌を広げた。手はまっすぐ降りてきて、エミリアの下腹部に迫った。


「これで魔練術も私のもの!」

「やめて!」

「・・・あら?」


 悲鳴と同時に急に明かりが弱くなった。リーネは寸前で手を止めると辺りを見回し、おやつのお預けを喰らう子どもみたいに不貞腐れると舌打ちする。溜息を吐いてエミリアの上から退いた。


「あーあ、いいとこなのに。また初めから書かなきゃ。ちょっと待って」

「な、なに?」

「なんでもないわよ」


 立ち上がるリーネはハルトの剣が掛けられる壁際まで行き戸棚の前で止まった。彼女は件の萎びた花が挿さる花瓶を手に取るとまた溜息を吐く。その時、おかしな事象を目の当たりにした。リーネの指輪と花瓶が光に包まれて、萎びた花は徐々に背を伸ばし美しく花弁を広げ始めた。部屋の明かりも戻ってくる。

 エミリアはハッとして頭が回転を始めた。小さい時に教えられた魔法使いの力の使い方について思い出す。なんでもかんでも魔力を使う魔法使いだって、常に力を使うのは非常に疲れることなのだ。だから就寝前とか力を回復する前に特定の物体に魔力を込めておく。そうすると物体は住まいの管理装置として機能するのだった。明かりが暗くなったのも管理装置の魔力が弱まった証拠、そして瑞々しさを取り戻す花は魔力が注入されている最中、ならば、花瓶を破壊すれば魔力は飛び散り、ハルトの牢も空いて彼の力も使えるようになるかもしれなかった。エミリアは渾然と湧き出る力に身を任せて、手足の自由奪われたままベッドから跳ね出した。リーネは体当たりをモロに喰らう。


「やあああっ!」

「わっ!」


 取り落とされた花瓶は粉々に割れて飛び散り、閃光を起こすと禍々しい魔力の影が部屋の隙間から逃げていった。明かりは完全に落ち、カーテンの隙間から漏れる光がリーネの冷汗を浮かび上がらせた。


「なにすんのよ!せっかく溜めた魔力が!」

「がるるるる!」


 犬みたいな声で今度は指に食らいつく。求めるのは指輪、魔力増強のアイテムだと直感して奪取を試みた。リーネは指の痛さに魔力を使うことを忘れヤワな拳を固めて何度もぶつ。だがエミリアの精一杯の反抗はますます顎に力を入れた。


「痛い痛い!ちぎれるって!放せよバカ!」

「わぅん!」


 額に掌底拳モドキを喰らって弾き飛ばされる、別にそこまで犬にならなくてもいいのに、獲物を絶対に離さない猟犬になりきっていて、悲鳴まで鳴き声になった。血の滲む噛み跡を舐めたり息を吹きかけたり、冷やそうとする指にはずれた指輪が残っていた。リーネは初めて余裕無くした表情で怒りに燃え、ベッドの端に叩きつけられたエミリアの頬にビンタを張った。


「甘やかせばつけ上がりやがって!もう怒ったから、めちゃくちゃにしてやるんだから!」


 管理装置が壊されて家の支配ができなくなっても、リーネの身体には依然魔力も指輪も残っている。先より乱暴に指を下腹部に突き立てると抉るように魔法陣を書き始めた。エミリアは力を使い果たしてされるがままに、最後の願い、白馬の王子を求めて口に出す。


「気づいて・・・ハルトくん!」


「え・・・?」


 花瓶が割られた頃、うずくまったままのハルトは拳に力が宿るのを感じた。顔を上げて涙を拭き、確かめると火花が大きくなって光の玉が出来上がろうとしていた。打撃魔法がチャージされている、しかも牢の扉が解錠されていて、鉄格子の重みでゆっくり開こうとしていた。なぜだか判らないが、とにかく自分を縛っていた魔法が解けられているのを感じた。飛び起きると扉を開けて廊下に躍り出た。


「エミリア!」


 エミリアの連れ去られた方へ駆けた。心なしか廊下の明かりが暗くなった気がする。部屋は幾つかあって扉を蹴り開けると簡単に開いた。だがどれも使われていない部屋で、二人の姿は見えない。そうこうして焦っていると、騒々しい物音が聞こえる部屋があって、リーネの部屋と馬鹿に鮮やかな色で書かれている。ここに間違いないと同じく扉を蹴り飛ばすと、ビンゴ。上着を裂かれたエミリアがベッドの側面に押し付けられ、先とは打って変わって表情赤黒いリーネが上にのしかかっている。打撃魔法は近すぎて使えない、とりあえず突き飛ばした。


「この!」

「ぎゃあ!」


 エミリアを犯すのに夢中で脇はガラ空き、軽い身体は綺麗に横に滑ると窓際に積まれていた椅子を崩した。気を失って頭上を星がチカチカ、その隙二人は再会する。拘束の魔法が解けて手足が自由に、開けっ広げな服もそのままハルトに抱きついた。


「魔法は解けたんだ!気づいてくれてよかった!」

「無事かエミリア⁉︎」

「ちょっと危なかったけど大丈夫だよ!」

「そうか、よかった。魔法はなんで解けたんだろう」

「そこに散らばってる破片、花瓶なんだけど、リーネはこの花瓶に魔力を込めて家の管理をしてた。もちろん牢の鍵や私たちの魔力を抑える術も。だから壊して、管理能力を失わせたの!」

「ありがとう!助かったよ」

「えへへ〜」

「あれ、でもその格好・・・」

「あっ!」


 再会の喜びですっかり忘れていた。はだけた服の破廉恥な格好、大事な箇所は辛うじて隠れていたが、まさかハルトの前でこんな姿を晒してしまって、顔が燃え上がると慌てて前合わせをグッと抑えた。ラスナがケーイチにしたみたく鉄拳が飛ぶことはない、でも彼女はハルトに対してなら殴らなかっただろう。ともかく隠して、紅潮する頬は同じのハルトに恥ずかしげな視線を向ける。ハルトだって、エミリアの格好に気づくと直に当たる肌の柔らかさを感じざるを得なかったのだ。


「こ、これは、リーネにやられて・・・」

「う、うん。そうだよね。ごめん」

「謝らなくてもいいのに、もっと恥ずかしくなっちゃう・・・」

「うう、もーやってくれるわね・・・放ったらかしにしてイチャついてんじゃないわよ!」

「ハルトくん危ない!」


 痛む頭を叩きながらリーネは復活していた。だが気の利いた魔法は使えないのかハルトと同じく打撃魔法のポーズ、しかし力の溜め方は遅くて、それならと壁の剣を取り戻して抜いた。フェンシングでなく剣道の構えで、刃が青く光る。


「今なら危害は加えない、大人しく捕まれ!」

「うるさい!はああああ!」

「くそ!」


 遅いといってもまごついていれば発動寸前、やむを得ず前へ一歩踏み出し剣を振り下ろした。殺さずとも、今ならエミリアも魔法を使えるようになって治療も可能だろうから手首ぐらい切り落としてやるつもりで、リーネはすっかり恐れを為し発動を中止し拳を握って顔面だけは防ごうとした。刃は指に当たり鉄同士かち合う音、どの指も()()()()()ことなく済んだが、代わりに指輪が割れた。割れるとともに、それは決して鉄の崩壊ではない、石膏像を床に落とすみたいに粉末状に砕けると煙になって消えた。魔力増強のアイテムを失って、リーネの実体が態度となって表れる。彼女は危急の戦闘中というのに、素に何も身に付けられていない掌を見ると間抜けな悲鳴を上げた。


「あーっ!これ高かったのに!」

「はあ⁉」

「もーいや!あんたたちなんかに、あんたたちなんかに!」


 大悪党魔法使いのオーラが途端に消えて、負け犬リーネが取るに足らない小者と化したのを、ハルトとエミリアは魔力を持つ身であるからか過敏に感じ取った。気勢を削がれて呆気に取られていると幼稚に地団駄踏み始め、キッと睨む瞳は涙目だった。実に悔しそう悔しそう。もう魔法を使わないのか使えないのかとにかく足元の椅子を持ち上げて、更なる抵抗を試みるのかと身構えたが、違っていた。リーネはくるり背を向けると窓に向かって椅子を投げつける。魔力の保護管理下から外れたガラスは脆く簡単にバラバラになった。


「何するんだ、やめろ!」

「覚えてなさい!ただじゃおかないんだから!」


 リーネは窓枠に残るガラスの破片を蹴り壊すとそこに手を掛け外にぶら下がる。慌ててひっ捕らえようとしたが僅かな差で彼女の手には届かなかった。建物の何階分か、傾斜がかった壁をずり落ちていくと地面に尻餅つき、痛む腰を一度さすると置かれていた箒に跨って宙を飛んだ。ただ飛ぶだけの力なら残っていたようだ。飛んだというより力の入れ方間違えて、やたら高く跳ねるとぐるぐる不規則に回って、ハルトが打撃魔法で狙う前にどこへともなく消えた。緊張が解け、二人は肩の力が抜けた。


「・・・行っちゃったね」

「そう、だね。急に弱くなったみたいに見えたけど」

「ハルトくん上手いことしたよ、切った指輪は、魔力を増強するための物だったんだよ」

「そうか、だからあんな風に、飛ぶのまで不器用になったんだ」

「本当はあまり強くない魔法使いなのかも。でも、やっぱりレッタの魔法をかけたのはリーネだから、また見つけないと」


 危機は脱したが事件が解決したわけではないし、依然レッタの身はリーネの支配下にある。それにラスナとケーイチとも再会を果たせずにいた。しかしこの街に蔓延る不幸の全貌は見えてきたし、自分たちだけでも魔法使いに抵抗できた自信から、見通しは明るく思えた。ハルトは剣を鞘に戻すと刀帯に吊り、蘇る腰の重さに力が湧くのを感じた。


「あの口ぶりなら金が惜しいはず、ここを探して金がなければきっとジューコの所にあるはず、今度はこっちから迎え撃とう」

「うん!」

「まずは二人を探して合流して・・・」

「そうだった!捕まってないといいけど」

「行こう!あ、その前に」


 ハルトは目を手で覆ってエミリアを見ないように、ベッドに行くとシーツを剥いで渡した。二人ともまた頬を紅く染め、湯気立ち昇る頭、目が合わないように腰を屈めてうろうろと、金と代わりの服を探した。服は何着でもあったが、結局人身売買で得たような大金と哀れな人間にかけられた魔法の契約書は見つからず、ただ魔導書があるのみ。しかしこの魔導書は何か役に立ちそうだった。


 ハルトは脳裏に焼き付いてしまったモノをかき消そうとしてできなくて悶々とする。確かに有った、普段谷間は少し覗いていても見えなかった、エミリアの左乳房の小さな黒子。いくら純情な彼でも、やはり思春期真っ盛りの男の子、簡単に忘れられるわけがない。

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