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副・救世主は悩ましく  作者: 小山モーゼル
第三章 羽根ッ子騒動
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第16話 魔女の館

 一方、連れ去られたハルトとエミリアは、眠らされて牢に放り込まれていた。ジメジメと埃臭く暗い場所、薄い毛布が四枚と欠けた食器にコップ、牢を書けと言われたら誰しもこのように描くであろう部屋に、先に目覚めたのはエミリアだった。


「ここは・・・そうだ!私たち!」


 ガバと跳ね起きあたり見回すと、すぐ隣にハルトが寝ていた。半開きの口から寝息が漏れ、口封じの魔法は解けられたらしい。帯剣や鞄はなかった。


「ハルトくん、ハルトくん!」

「うん・・・あれ?」

「よかった目が覚めて!どこも痛くない?体調は⁉︎」

「だ、大丈夫だよ。それよりここは?」

「私たち魔法使いに連れ去られて、きっとあの人の家だと思う」

「そうか!そうだった。ラスナとケーイチは?無事なのか」

「わからない、自警団が道に来て・・・でもあの二人なら逃げられたよ」

「そう、だね・・・僕たちも早く脱出しないと。エミリア、ちょっと離れてて」

「う、うん」


 ハルトは立ち膝つくと掌開いた腕を伸ばし打撃魔法の姿勢、鉄格子に向けた。小さな光が宿ってそれはだんだん大きくなり鉄格子に飛んでいくはず、だったが、掌を広がった光は指の付け根にも達しないうちに弾けた。あとはいくらやっても、接触不良のコンセントみたいにバチバチ火花散るばかりで、とても打撃はできそうになかった。汗の玉がいくつも顔に浮かび、しかし蒼ざめて腕を下げた。


「なんでだ・・・魔法が使えない」

「身体は、ほんとうになんともない?」

「別に疲れてるわけでもないし、どこもおかしくない。エミリアは、ここで何か作れる?」

「試してみる」


 エミリアも両手で何かを包むように指を丸めてじっと力を込めたが、彼女の場合魔力の光すら生じなかった。体調に不備がないのは同じことで、つまり、この部屋では魔力が使えないことを示していた。


「だめ、私も魔練術が使えない!」

「くそっ!」


 鉄格子に鍵が付いているが、剣は奪われていて他に鍵をこじ開けられそうな物もなかった。万事休す、ついに対抗の手段を失ってしまった。


「どうしたらいいんだ一体!魔法使いをやっつけるどころか手も足も出なくなって!」

「ごめんなさい!わたし、私何もできなくて!」


 初めて見るハルトの剣幕、エミリアに向けられたものではないけれど、彼女は自身の無能が突きつけられた気がして謝った。加えて眼鏡を取ると泣きじゃくり、ハルトは我に返ってぶつけようのない怒りを収めた。


「ご、ごめんエミリア、大きな声出して。エミリアは無能なんかじゃない、レッタが出られなくなった時もすぐどんな魔法がかけられているか分析して、どうしたらいいか教えてくれたし」

「でも、でも、ここじゃ何もできない、私が一つだけできる魔練術だってできない!」

「それは僕だって同じだよ。打撃魔法が使えないし剣もない、何もできないよ」

「私、普段はみんなから守ってもらって、ちょっとした物を作るだけで、大事なことはみんなに任せちゃって、グズなんだ私って。ごめんね、ごめんなさい。こんな私で・・・」

「何言ってるんだよエミリア!エミリアが盾を作ってくれて、いつも僕たちは守られてる。ケーイチの銃弾だってエミリアじゃなきゃ作れない、エミリアがいなくちゃ、どうにもならないじゃないか!」

「気休め言わないで!私役立たずなんだから!」

「やめろ!」


 珍しく喧嘩越しのエミリアに、ハルトは再び語気荒くなった。それから黙って睨み合っていると少年の真剣な瞳は、少女を助けたいのと日頃彼女に感謝していることを訴えていたし、信頼と愛情こもっているのがはっきり判り、エミリアは急に落ち着くと荒っぽくなったことを後悔した。落ち着いたら落ち着いたで、吊り上げていた眉はぐんぐん下がり、涙はより溢れて今度は悲しくなった。力なく俯いてすすり泣いていると頭頂部がハルトの首元に当たっていて、箱に閉じ込められた時みたいに、そっと頭を抱いてくれる。しばらくはこうして甘えていたかった。


「ごめん、せっかく慰めてくれたのに突き放すようなこと言って」

「もうそんなこと言わないでね。みんな、エミリアを必要としてるんだから。たとえ力があってもなくても」

「なくても?」

「うん。仲間、友達だから。エミリアがどんなでも、僕たちは君を必要としてる。それは他の二人にも言えることだけど。だから間違いなく僕たちを助けに来てくれる。僕たちだってそうするだろ?」

「もちろん。もしラスナやケーイチくんが捕まってても助けに行く」

「だろ。だから、泣き止んで、ここから出れる方法を考えよう。まだしなきゃいけないことも残ってるし」

「そうだ、そうだよね。できることを、あの人を倒す方法を、考えなくちゃ」


 やっと面を上げて涙を拭く。慰められたの心でにこり笑ってみせると、実に可愛らしくて、ハルトは照れて少し顔を背けた。

 魔法使いに閉じ込められてることも忘れて、淡い心に浮き足立って計画を立てようと、牢内から建物の仕組みを知れないか見回してみる。だが考え始めるその矢先、勝ち誇る威圧的な足音が聞こえて、牢の前に止まった。


「なあに、痴話喧嘩してたと思ったらもう終わっちゃったの。つまんない」

「魔法使い!」

「喧嘩なんかしてない!」

「あっそ。魔法使い魔法使いって、長ったらしくない?私はリーネ、よろしくね」

「何がよろしくだ!僕たちをどうする気だ!」


 妖艶に笑うリーネにハルトは吠える。彼女はそんな態度ものともせずに見下したまま続けた。二人は視線に身の危険というか不気味さを感じて、再びエミリアは抱き寄せられる。


「イチャイチャしちゃって、妬けちゃうわ」

「うるさい!質問に答えろ!」

「強気なのは元から?それともかわいい娘がいるから?どっちでもいいけど。言ったでしょ、あなたたちに興味があるって。だから、食べちゃうの」

「食べる⁉︎」

「食べるっていっても、もちろん切り刻んでシチューにしちゃうってんじゃないわ。わからないかなあ私の言ってること」


 紅い舌を出して唇を舐めた。湿っぽい瞳に頬の上気も隠さず、そりゃ、何をいわんとしているのか判る。だけどエミリアは、ターゲットにされているのはなにも男のハルトだけではなく、むしろ連行される時の戯言からより()()食われるのは自分であるのかと感じていた。リーネは予想通りエミリアを指差して続ける。


「まずはあなたから」

「わ、私⁉」

「え、エミリアをだって?やめろ!」

「なんていう名なのあなた。そっか、エミリアちゃんね。来て」

「きゃあっ!」


 リーネは手首を曲げておいでとのジェスチャー、すると一瞬鉄格子の扉が開きエミリアが廊下に放り出された。彼女は腕にすっぽり横抱きにされて大きな尻が牢に向き、ハルトの反応も早くて、追って鉄格子に跳んだが再び扉は閉められ激突する。それでもひるまずに扉を揺さぶるが、音一つしなかった。


「彼女を離せ!」

「残念ね、この子のハジメテがあなたじゃなくなって。でも想像だけはご自由に。きっとどんなエッチな妄想だって敵わないだろうけど」

「お前男なのか!」

「失礼しちゃう、正真正銘女よ。女同士だって、男女以上の美しい愛の育みがあるって知らないの?」

「私に、あなたに対する愛情なんてない!」

「いつまで強情張れるかしらね。快楽を与えてくれた相手は忘れられなくなる、だからあなたは私に支配されるの。じゃあねショーネン、気が向いたら、あなたの純情も魔力も食べてあげるから」


 ハルトの突き出した腕は虚しく宙を振り、リーネは足の裏僅かに浮くとデパートの自動通路よろしく、廊下を直立したまま滑っていく。エミリアの顔は後ろを向いて、鉄格子に押し付けられて顔右側面3分1隙間から出る片目と眼鏡が合った。涙が飛んでレンズの間をすり抜け、牢の端で落ちると弾けた。


「待っててハルトくん!きっとなんとかするから!」

「すぐ助けに行く、待ってろ!」


 声ばかり木霊してすぐに互いは見えなくなった。待っててと同じことを言うものの、離れ離れになって何ができるというのか。そもそも頼みの魔法が使えないとあっては、リーネのいう支配のもとに置かれるのは時間の問題である。残されたハルトはひとしきり泣いて、泣き止んでも良い考えが浮かばず膝を抱えてうずくまった。手だけ握ったり開いたり、打撃魔法の力を送ろうと試みるが、もう火花すら起きなかった。

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