第11話 凶事
悪党たちは一騒動あった後、追手の手配や負傷者の手当てに忙しく、しかも迂闊に書いた地図を持ち去られたことを知った。事務所、即ち人狩りとの取引の場で、働いた悪事の証拠が掃いて捨てるほどある。ジューコは憤怒しながら事務所に帰った。
「クソ!あいつらタダじゃ済まさねえ!」
脱いだ胸甲を寝室の机に叩きつけると人身売買のリストが崩れた。その中には、レッタの名も娼館の不幸な少女の名もあった。
ジューコは、厳密には人狩りではない。人狩りと結託して配下に置いて、どちらかといえば仲介業者として人狩りに攫われた人間を売っていた。この街に来てからはでっちあげた事件や暴動を自ら解決することで頭角を現し自警団の統括として君臨することでより仕事をやりやすくしている。娼館や劇団に子どもを売ることもしばしば、ただ街での活動は最近であるから現地に根付いている集団に取り入ることは難しい。だから商品を脅して売られたことは隠し、後で買ったという事実を以て脅しに掛けるという計画を立て、間もなく総仕上げに入るところだった。その矢先、つるんでいた人狩りが逮捕されるという事態に。
「邪魔しやがって、あの連中も売ってやる。女の方は良い身体してて美人だし、若いし、幾らでも高値で売れる・・・」
「ねーなに。一人でブツブツと」
妖艶な若い女の声、部屋の奥より流れてきて、ジューコの耳元に近づく。目の前で話しているはずなのに姿は見えない。ジューコは椅子に座ると目を閉じニヤリ口元を歪めた。彼は手を机の上に置くと何もない空間を撫でて、まるで愛撫の手つき。
「お前のイタズラ、もう慣れたぜ。ここだろ」
「やーん、お尻の位置ばっか覚えてるんだから」
ジューコの手に丸い肉体が現れた。まごうことなき女の尻、紫のワンピースに包まれていてだんだんと実体が明らかになる。女の全身が光とともに出現して、彼女は見下す目つきそのままに、机から飛び降りると帽子掛けから三角の帽子を取った。右手食指に緑の宝石付いた指輪が光る。
「それで、イライラの原因はなに?」
「面倒な奴らがここに来るぞ、リーネ」
女はリーネと呼ばれる魔法使いだった。この街に来てからのジューコの仕事仲間であり、彼女の役目は攫われた人間を売りつける際契約魔法をかけること。街から逃げられないように。
ジューコは売った相手から、商品に逃げられたとクレームをつけられることもあった。逃げて帰りたい奴隷はどんな策を用いても脱出することがしばしばで、売った後のことは関係ないのにイチャモンつけられるのにはほとほと参っていた。金をせびられることもある。そんな時に出会ったのがリーネで、彼女は魔法を使って無茶な稼ぎをする悪徳魔女、ジューコが人売りだと知るやこの悪事を提案した。
「俺が出してやった人狩り、そいつを行政府にぶち込んだ奴が店に来た。しかも俺のファンだのなんだの抜かして、後で味わおうと思ってここの地図書いてやったら、逃げやがった」
「バカね」
「うるせえな。人狩りを探してる連中がいたとは噂には聞いていたが、多分そいつらだ。何が目的かしらんが、正義ぶったボンボンかもしれん。一応、捕まえるまではここを出るぞ」
「その人たちの中に魔練術師がいたんでしょ」
「ああ、人狩りは魔練術師に治療を受けてた。それがどうした?」
「別になにも」
「お前は魔法使いだから、魔練術師はお仲間じゃねえだろ。支度しろ、宿にでも移る」
「ん、やめとく」
「なんだって?」
ジューコは怪訝にリーネを見た。彼女は得意げな笑み、赤い舌を出して艶やかな唇を舐めると指輪にキスする。禍々しい光が宝石に宿って挑戦的な瞳を映し出した。
「罠にかけたらいいじゃん。どうせここに来るなら一網打尽に」
「しかし武器を持ってるって言うぜ。人狩りはやたら遠くから撃たれたし、あいつはまた、店でもピストルにやられた。あんな小さな銃は見たことない」
「私がいるのよ。銃なんかどうってことないわ。それに興味がある。魔練術師の子に」
「殺すのか?魔法使いと魔練術師は敵対してんだろ」
「出身の里によりけり。もっとも、私の里は魔練術師を憎んでいたけど」
「いたぶるのはいいが殺すな。魔練術師は高く売れる」
「解ってる、ちょっと楽しむだけ」
「楽しむと言や、俺もお前と楽しみたいんだけどなあ」
ジューコは手を伸ばし尻を撫でる。リーネは拒むとも払い除けるともしなかったが、迫ってくる顔の、唇に指を添えた。
「だーめ。魔法使いの身体は安くないのよ」
「キスもかよ。俺は二枚目で通ってるんだぜ」
「もうちょっといい男になったらね。その時は、ぜ・ん・ぶ」
湿っぽく言うと開いている胸元をさらに広げ、豊満な谷間を見せびらかした。ジューコは、他の男が同じこと言われてもそうなるであろう興奮を覚えて、収まりそうになく今夜は娼館にしけ込もうと唾を呑んだ。リーネの念頭からジューコの姿は早々に消えて、代わってまだ見ぬ魔練術師の少女を思い浮かべる。彼女の身体は、魔力は、一体どんな味で自分を楽しませてくれるのだろうかと、僅かに上気すると胴から脚にかけて疼いた。




