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副・救世主は悩ましく  作者: 小山モーゼル
第三章 羽根ッ子騒動
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第10話 自警団

 次の日、酒場で聞いたと適当に報告したケーイチは一日中寝て、次の日急かす皆んなに起こされ宿を出た。自警団の居場所を探すのだ。二日続けて深夜に出歩いたせいで頭が重い。しかしケーイチの情報にエミリアが褒めてくれた。


「お手柄だねケーイチくん!」

「そうだろうそうだろう。たまには俺の夜遊びも役に立つって。眠い」

「それとこれとは別、だけど有力な情報だわ」

「自警団っていうのは、公的な存在なら行政府があるから思いつかなかった。でもレッタとの繋がりが見えてくるかも。それにしても、他の人も契約魔法を掛けられてるなんて」

「意外と、この街で売られた人たちは魔法使いと関係あるかもね」


 自警団の情報はすぐに判った。幾つか自警団はあったが、それらは一つの組織にまとめられているという。警察組織もあるにはあったが行政府の警備や悪人の取扱いくらいで、街の警備は全般的に自警団に任されているということだった。どの自警団なのか当たってみるが、人狩りの検挙や捜索をしたという声は出なかった。


「それなら、元締の方に聞いたらいいんじゃないかな。元は人狩り追跡を専門にしてたっていうし」

「元締?」

「そう。最近になってこの街に居付くようになったんだが、なかなかの采配で纏め役になった」


 話をした自警団員は、とあるレストランに居ると言った。そして付け加えることには、少人数の組織であるらしい。


「なんだったかな、俺たちの仲間に入りたいって言ってきたのは若い男だった。お前だけかって聞いたら他に二、三人だと。しかし強くてね、実績もあるらしかったから元締になってもらった。なんで人狩りのことを?もう随分奴らが派手に動いてるって話聞かないけど」


 レッタのことがあったが男が言うのは最もで、人狩りが街にいるかもしれないので警察組織等には通報しないことにしていた。しかし無能と思わざるを得ない、現にグリーク・サーカスだけではなく他の店にも人狩りに売られた人間があるというのに。


「なぜ人狩りのことを?」

「身内が人狩りにやられてね。追ってたらこの街に逃げ込んだって話を聞いたから、ちょっと」

「そりゃ大変だ。夕方ぐらいには店にいるはずだから、今夜行きなさい」

「責任者の名は?」

「ええとな、ジューコといったっけ。そっちの兄ちゃんくらいの若い男だ。茶色のトゲトゲした髪で」


 ケーイチを指差した。だとしたら二十代前後、見つけるのは容易なはずで、夜を待つことにした。これが吉と出るか凶と出るか、願うことなら自警団は味方で、魔法使い探しに協力してくれればいいのだが。


 日が暮れて、ハルトたちは教えられたレストランを訪ねた。繁華街のド真ん中、地下にある、レストランというより酒場のような場所。ケーイチ以外が行くのには少々若すぎて、彼が扉を押した。


「誰が誰だかわかんね」


 テーブルについた一行はさっそく困った。茶髪でケーイチくらいの若い歳、いくらでもいたし、そもそも彼は老け顔の節があって、例の自警団員はケーイチを指して二十代後半から三十路と言ったのかもしれないのだ。それにトゲトゲした髪、尖っていると思えばそうだし思わなければそうでないのもいた。


「もう少し聞いておくべきだった。言動とか格好とか。まだ来ていないのかもしれないし」

「俺大体実年齢より上に見られるんだわ。実際その野郎何歳なのか」

「じ、十代でもケーイチくんみたいな人だっているよ」

「逆にケーイチみたいな三十代もいるわね」

「エミリアは優しいから好き、ラスナはもうちょい俺に優しくしてくれなきゃ好きくない」

「なにそれ」

「ともかく待ってみよう。名前が聞こえることだってあるかも。もし判らなければ店の人に聞いてみよう」

「じゃまずは飲みますか。すいませんビールお願いします」

「ほどほどにね」


 ビール二杯空にして、夕飯食べ終わってもジューコらしき姿はなかった。それか名前を誰も言わないだけでもういるのかもしれないが、どちらにせよ一行には判らなかった。少し酔いの回ったケーイチが不貞腐れて煙草をくわえ、もう一杯と注文の手を上げようとした。


「もう止しときなよ」

「えーだって現れんし」

「でも本当にどこかしらね。もうそこそこの時間いるわよ」

「デザートでも食べる?」

「デザート食べたらお店出なきゃ。紅茶にしましょ」

「酒飲め酒」

「あんたじゃないんだから」

「あのー、紅茶三つとビール・・・」


 結局注文しようと声を上げた。だがそれはガシャガシャと鉄の重なり合いにかき消されて、ケーイチは、この野郎うるせえなと音の方をキッと睨む。

 そいつは、ハルトよりもどこか勇者っぽい格好で胸を張っていた。ひょろっとしているが胸甲に銀の肩当脛当、剣を負い、いわばラスナの剣士姿に通ずるものがあるか。顔立ちは良いといえるのだが、得意げな表情からして安っぽいチャラついた雰囲気を感じさせた。背はケーイチと同じくらい、不良みたく尖らせた髪は茶色。歳はハルトとケーイチの間であろう。手下らしき人物を二人従えていた。もしやこの人物がジューコなのではと、四人の脳裏に同じ考えが浮かぶ。額を寄せ合って、ケーイチだけは酒臭い息を吐いた。


「アレ、そうでないの」

「うん、思った」

「ジューコさんかな」

「そうに違いないわ。だけど、あんな如何にもな格好でくるとは思わなかったわ」


 答え合わせは直後、ジューコらしき男が店主を呼んで判明した。顔見知りなのか男は店主に馴れ馴れしく、店主の方が腰が低かった。


「はいはいジューコさん。今日は何にいたしましょう」

「いつも通りだ。あいつはまだ来てないか?打ち合わせがあんだけど」

「まだお見えにならないみたいです。おい!フルコースをジューコさんに!」


 店主が厨房に戻りながら叫ぶ。四人はメニューを見てみて、フルコースと言われた物に目を通した。目ン玉飛び出るような額、それぞれ身近なもので換算して感嘆する。例えばケーイチの場合、二晩遊んでおつりであのシグ煙草が買えた。裏ではともかくこの一見平和そうな街での用心棒稼業がここまで儲けられるのかは不思議だった。しかもジューコは、山海の珍味が山盛り運ばれてくる前に更なる料金とは別であろう金をテーブルに積み重ねた。見たこともない量、ロド金の光が眩しい。


「今回の報酬だ。シケてるけどな」

「渋りましたもんねえ。じゃあ、俺たちの分を」

「リーネとあいつの分を残して・・・これでいいだろう」

「どうも!」


 金の山分け、本当に何の金なのだろう。怪しさが増してくるが、ついこの前グリーク・サーカスに対し誤認襲撃したばかりで、嫌でも慎重にならざるを得ない。四人は一層声を潜めてどう接触するか話し合った。


「人狩りについて聞くのはマヌケ、だな」

「そうだね。いきなり切り出すのは、イイモンかワルモンか判らないし」

「何か話題はあるかな?」

「今日の天気はいいですねとか」

「近所のオバちゃんに挨拶するのとは違うのよ」

「ともかく話しかけよう。まず誰が行く?」


 大したことでもないのに誰も手を上げなかった。誤認襲撃の件は要らぬ用心もさせてしまっていて、どうとでも話題は作れるはずなのに必要以上に気を遣う。考えあぐねていると、ちょうど店を出た客がいたテーブルにサイコロが残されていた。それをケーイチが見つけると持ってきて空ジョッキの隣に置いた。


「じゃ、サイコロ(dice)で決めよう。好きな数字を選んでそれが出たら行く。誰がなっても恨みっこなしで」

「そうだね、それなら。私は5」

「僕は3」

「私6」

「俺は2で。ほい」


 サイコロが振られる。飛び出した立方体はテーブルの皿に弾かれて転がり、四人は身を乗り出す。間も無く止まって、表には点が5を示していた。よってエミリアが選ばれた。


「えー!」

「じゃあエミリアに」

「でも私、何も思いつかないよう」

「皆同じさ」

「困ったらすぐ助け舟を出すから」

「ごめんエミリア、頼むよ」

「わかった、なんとかしてみる」

 

 エミリアは席を立つとおずおずとジューコのテーブルに近づく。ケーイチは例のサイコロを取って手持ちぶたさに弄っていたが、物の異常に気づいた。


「あれ、これ重心が」

「どうしたの?」

「要するに『アン入り』、多分鉛が入ってるイカサマ用。出したい目を出せるやつ」

「じゃあエミリアは不公平な勝負で・・・」

「可哀想なことした。知らなかったとはいえ」

「僕代わってくる、あんまりだよ」

「今更遅いさ。ほら」


 ジューコの斜め後ろにエミリアは立った。しばらくもじもじと話し出さないでいて、先に声をかけたのは相手の方だった。


「なに?」

「えっ⁉︎その、あの」


 やはり話題を考えついていなかった。どうなるのか、拒絶されるのか、息を呑んで見守っていると、突然顔を上げて大きく口を開く。何を言い出すのか聞き耳を立てた。


「だから、なに?」

「わ、私、あなたのファンなんです!」


 突拍子のないこと、ファンを名乗るとは思いもよらなかった。ケーイチは以前ドントール団に近づく際似たようなことを騙った過去はあるが、それは商人を名乗って商談をでっち上げたのであり、ファンであるとは言っていない。ほとんど知らぬ人間に対しファンと名乗るのは危険で、早々に助けに行かなければならないと思った。しかしジューコには取り入れたようだった。


「ファンかあ、キミみたいな可愛い子にそう言われて嬉しいよ。こっちに座れ」

「は、はい。街の治安を守るジューコさんのファンなんです」


 手下が余る椅子を持ってきてジューコの隣にピタリ置く。座ったエミリアの背には腕が周り、相当気に入られていた。馴れ馴れしく仲間が触られるのを見て、ハルトたちは人知れず眉を顰める。


「ジューコさん羨ましいなあ。いよいよ人気が出てきましたね」

「まあな。他の自警団とは訳が違う」

「顔もいいですもんねえ」

「はい!とてもかっこよくて憧れてます!それに強くて」

「褒めてくれるじゃん、気に入った。おい、この子俺のファンなんだって」

「お羨ましいですなあ、こんな若くて可愛い子が。料理をお持ちしました」

「これ食いなよ。名前なんて言うの?」

「はい、えと、その、エーリアと申します」


 グリーク・サーカスの団長は少し調べるとハルトたちの功績が知れたと言った。であるとするならば、自分の名も割れているかもしれないと頭が回転する。しかし顔は割れていないのだろう、眼鏡をかけた魔練術師の少女というのは珍しく、話しかけてきた時点で何かリアクションがあるはずだった。エミリアは、店主が運んだ山海の珍味の数々、派手に飾り付けられた獣の丸焼きを切り分けられた。


「エーリアちゃんっていうんだ。どこに住んでるの?」

「えと、私はちょっと前にこの街に引っ越してきました。だからまだ地名を覚えてなくて。あっちの方です」

「チトー区?」

「そうです!チトー、の、端っこに住んでます」

「ふーん、じゃあかなり貧乏してんの」

「え?」

「だって貧民街だから」


 新たな情報が数々と入る。エミリアは、急に貧民街の貧乏人エーリアにされてしまった。もはやこれまで、そろそろ友人とか兄弟とか言って助け舟を出すかとハルトたちは腰を上げかけると、彼女は更に頑張ってくれた。


「そうなんです、とても貧乏で」

「でも身なりはいいようだね。いい暮らしをしてたみたいだ」

「あの、ええと、お父さん事業に失敗しちゃって、流れ流れてこの街に。これは外に出る時の一張羅なんです」

「生活が大変だろう。仕事はしなくていいの?」

「しなくていいって訳じゃないんですけど」

「じゃあ仕事を紹介してあげようか」


 人狩りのことから段々と脱線してくる。未だ善人か悪人かは判らなくて、軽々しくエミリアに触るのは腹立たしいけど、仕事の紹介までしてくれると言う。ここまで取り入れられたのなら、あとはボロが出る前に任せろと、一瞬仲間たちの方を向いた彼女に手招きする。だがジューコは話を進めようとした。


「ここじゃなんだから、事務所の方でも。君みたいな可愛い子にはピッタリな仕事がたくさんある」

「どんなお仕事ですか?」

「それも、色々あるから事務所の方で」

「あの、一応両親に相談したくて。きっとジューコさんの紹介だから大丈夫だとは思うんですけど」

「そうか、なら場所を教えるから明日の昼にここに来て」


 ジューコは紙片とペン、インク壺を出すと簡単な地図を書いた。居場所を地図に書いてくれるのなら、今ここで突っ込んだ話をする必要もない、また話を聞きに行けばいいのだと、エミリアは安堵の息を吐く。他三人も同じく肩を撫で下ろした。


「ありがとうございます。では兄妹のとこに戻ります」

「ご兄妹にも良い仕事を世話してやろう。一緒に来るように」

「はい!お話ししてくださってありがとうございます!」

「おっと、まだいいじゃないか、一緒に飲もうぜ」

「俺たちとはあんまり話してないし」

「え、え、でも」


 席を立とうとすると手下に引き留められる。困り果てたエミリアは断りきれず、酒や料理を勧められた。ちらとハルトたちを見て救助を求める視線、ラスナから順番に腰を上げた。


「やーお待たせしました!ジューコさん、今日の報酬を・・・」


 闖入者、男が店に入ると真っ先にジューコの席に向かってくる。新たな人物の登場で、今度は誰が現れたのかと一斉に男を見た。しかし、その男には見覚えがあった。しばらく忘れていた嫌な記憶が、先日行政府に赴いて金を取られた挙句追い出された記憶が、等しく四人の脳裏に蘇って、それは男も同じであるらしい。彼と四人は目を丸くして、互いに指を指して悲鳴を上げた。


「あーっ!」


 人狩りの男、こいつはジューコに親しげに話しかけていた。素性を知らない訳がない、若い自警団長が賄賂で出させたに違いなかった。彼の言動全てが怪しく繋がる。態度、大量の金、報酬だのなんだの、エミリアみたいな美少女向きの仕事。人狩りはジューコに警告した。


「ジューコさん、その女俺をぶち込んだ一味だ!」

「なんだと!?」

「逃げろエミリア!」

「紙取って盾を!」


 ジューコと手下はエミリアに掴みかかろうとする寸前、ケーイチは隠し持っていた拳銃を抜いて発砲、エミリアはテーブルの地図を取ると盾を錬成した。弾は手下の尻に当たって前のめり、ジューコは強かに盾に激突した。無傷の手下が盾が消えるのを見計らって捕まえようとするのをラスナが体当たりして、ハルトは素早くエミリアを抱きかかえた。最後出入口側に人狩りが立ちはだかる。


「逃がすか!」

「どけ悪党!」


 先頭に立っていたケーイチが撃ち、奇しくも人狩りの包帯巻かれた脚に当たった。再び同じ箇所に傷を負った悪党は「またここに!」叫ぶと蹴り飛ばされて、一行は闇に逃げ出した。かなり走って人通りの少ない路地に身を潜め、追手が来ないことを確認する。


「はあ、はあ・・・みんな大丈夫?」

「なんとか、ね」

「だ、大丈夫だよ。ありがとうハルトくん」

「しっかし面倒なことになったな、あいつら悪党だったとは」

「でも奴らの居場所が判った。エミリア、地図は持ってるよね」

「うん、落とさなかったよ」


 エミリアが握りしめた拳を解くとクシャクシャになった紙片があった。インク乾きかけで滲んでいたが、なんとか読み取ることができる。

 だがケーイチの言う通り面倒な事態になった。悪党は信用もあり手勢もある自警団、彼らがすぐに警戒体制を敷いて()()の捜索を始めるのは目に見えていたし、だか事務所とやらには、移動されると敵わないからすぐに向かわなければならなかった。まずは手が回る前に宿を引き払わなければならない。

 闇に紛れて宿に帰り荷物をまとめ、慌ててチェックアウトすると入れ違えに宿に入る自警団らしき姿があった。安全な場所は急に限られた。

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