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副・救世主は悩ましく  作者: 小山モーゼル
第三章 羽根ッ子騒動
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第6話 レターナ・リメア

「本ッッッッ当に申し訳ありませんでしたあああ!」


 深夜。明るくなった楽屋に謝罪の叫びが木霊する。団長夫妻の部屋でベッドに座る夫婦と抱かれるレッタ、そして起こされた守衛が。目の前に土下座するケーイチと立ったままに頭を下げる他三人、団員がおかしな顔して囲んでいる。


「いや・・・守衛さんも幾らか心づけをもらえばそれでいいと言っているし、この楽屋も我々が買い上げている物、穴を空けた天井とレッタの部屋の鍵の修繕費さえいただければ、それでいいですから」

「お金はこの通りこの通り・・・しかし私だけは、どうか罰を!」


 ひれ伏すケーイチが自分の金だけを入れた袋を差し出した。彼は、密偵をしてくると言ったのは自分で、それで得た情報によって無辜の民に対する制裁をしかけてしまったのだと責任感を過剰に感じていた。ハルトは庇うようにケーイチ以外の金も含め全財産を差し出そうとした。


「僕たちにも責任があります、あなた方からレッタさんを奪取しようと決めたのは全員です」

「一歩間違えば、罪のない人々を傷つけるところでした・・・」

「ですから、罰を受けるのなら私たちも!」

「顔を上げてくださいな。あなた方もレッタを救おうと純粋な心から起こした行動でしょう。謝罪の気持ちは十分に受け取りました。お金のことは、ええと、守衛さん、まずはあなたから、遺恨なきよう受け取ってください」

「じゃあこれほど。まあ被害たって気持ちよく眠らされたことくらいだし、鍵も返してもらって謝ってくれたから」

「では、修繕費はこれだけいただきます。残りはお納めください。これで手打ちです」


 寛大な対応で金を返されるとケーイチはますます縮こまった。容姿や雰囲気で悪人と決めつけてかかった後悔が重くのし上がる。本当は心の綺麗な人たちだったのに。夫人は優しくケーイチの背に掌を当てた。


「関係が清算された相手に跪かせておくのは私共としても心苦しいですわ。頭をお上げになって」

「すみません・・・ほんとうにすみません・・・」

「まあお茶でも飲みながら、今後のことをお話ししましょう。レッタ、まずは君から話を聞かなければならない。人狩りに攫われたって言ったね」


 四人にも椅子が勧められ茶が振舞われた。話題の矛先はレッタに向けられて、彼女はきゅっとネグリジェの裾を掴みなかなか話そうとしなかった。丸い瞳は涙を流さずに乾き続け、大きく見開いたまま下を向いていた。ケーイチは、もっと後で渡すつもりだったが、例の箱をザックから出してレッタの前に示す。ヘタクソな、ともすれば破綻に導くような会話の切り出しだった。


「・・・なんですか?」

「君のお兄さん、ルシーのことだけど。彼に会って話を聞いた、しかしそれは遺言だったんだ。人狩りに撃たれてトドメが刺される前に、俺たちは人狩りの方を倒した。もっとも一人は逃がしたし傷は致命傷で、手遅れだったんだが・・・」

「そんな!そんなことって!」

「遺体は郊外の墓地に埋葬した。羽根が持ち去られるかもしれないから。だから、これだけしか持ってこれなかった」


 箱を開ける。今にも取り乱しそうになるレッタは震える手で箱を受け取ると、逆さにして振った。掌に一本の羽と若く光り続ける遺髪が落ちる。彼女は涙を一気に溢れさせた。


「お兄ちゃん・・・!」


 ひとしきりの号泣、当たり前の姿で、握りしめた遺品を顔に当てて泣き続けた。先に兄の死を伝えるのは悪手だったか?と互いに顔を見合わせていると、慟哭がぐずりに変わってポツリポツリ話し始めた。


「わたしは本名をレターナ・リメアといいます。出身はカーレ島、家族もいます」

「私が君を引き取った時は、遺児だと・・・あなた方に一応伝えておくと、この子を連れていた人たちに、身寄りがないからサーカスで芸をさせたいと言われたんです。その人たちに保護して引き取るまでの養育費を求められて払いましたが」

「要するに、善人を騙った人狩りだったというわけです」

「人狩りにそう言うように命令されてました。でも団長さんたちは親切で、心配かけたくなくて言い出せなかったんです。カーレの一族では、わたしぐらいの歳になると仕事の修行で旅をします。主に各地を回って荷物や手紙を運ぶ、そんな仕事です。わたしにはルシーお兄ちゃんがついてきてくれました。とても可愛がってくれて、優しいお兄ちゃんです。でも、ある街のある晩、わたしは攫われてしまってそれっきり・・・」


 長い話でもなかった。それっきり、兄妹は離れ離れになって、どこかで情報を手に入れたルシーは追い命を落とした。よくある話、よくある悲劇、しかし不幸にもよくあることの籤を引いてしまったレッタは、長くないこれまでの人生における最大の悲劇に襲われたのだった。各人言葉も出ない。

 今いるサーカスで幸福ならそれでよい、レッタが寝かしつけられると四人は宿に戻ることにした。もう出る幕は無く、むしろ兄の死を知らずに生きていけたのならその方が良かったかもしれないのに、余計なことをした。肩を落として楽屋を出ようとすると、団長夫妻に呼び止められる。


「皆さん、お話があります」

「なんですか」

「レッタのことなんですが。我々は団員と共に考えました。お願いがあるのです」

「お願いって?」

「旅をするあなたたちに、目的があるのかもしれません。ですが、差し支えなければ、旅の途中で立ち寄ることがあったらで構いません、レッタを故郷へ送っていってほしいのです」


 四人は夫妻の顔を見た。悲しみに満ちて、悔やんでいるような涙が頬を濡らしていた。彼らは善人であるのに、知らずにレッタを()()()とはいえ、不幸な少女を置き留めておくことに耐えられなかった。

 泣き疲れたレッタは悲しい夢を見ているはずだったが、部屋からはうなされる寝言一つ聞こえなかった。

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