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副・救世主は悩ましく  作者: 小山モーゼル
第三章 羽根ッ子騒動
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第5話 対峙

 レッタがグリーク・サーカスにいることは掴んだ。あとはどう成敗して救い出すかということ。もう少しだけ調べてみて、普通の守衛以外面倒な用心棒の類がいないことも判った。本当は、もし外出等でレッタが出てくることがあれば接触して救出できたらよかったがそれもなく、寝泊まりしている楽屋に忍び込んで奪取することに決めた。しかしグリーク・サーカスは街の人気者、下手打てば住民警察にも返り討ちに遭って悪者にされてしまう。だからできるだけ秘密裏にコトを運び、その後レッタから証言を取ることになる。サーカス団の方が悪党と証明できればなんとかなるだろう。


 最後の事前準備、ケーイチはまたもや密偵の役を買って出た。密偵といっても大したことではなく、どの部屋にいるのか、また一応の本人確認もしようと裏口から入り込んだ。守衛とスタッフに見学したいと申し出て金を握らせれば簡単だった。団長夫妻が案内してくれることになり楽屋に誘われた。


「いやー素晴らしい演技を拝見いたしました。是非ともみなさんに間近でお会いしたく」

「それはそれは。私共も数多くの方から賛辞をいただいておりますが、商売敵以外で団員にあってくださる方はそうそういないもので。イシヅカさんは、どの演目が一番お気に召しましたか?」

「それはなんたって、レッタさんという鳥人族の美少女!私の過ごしてきた場所では鳥人族の方とお会いするのは一度しかありませんでしたから、レッタさんの舞には心奪われました」

「お褒めのお言葉恐縮です。あの子は最近加わりまして、芸を仕込んで昨日が初舞台でしたの。きっと喜びますわ」


 団長はシルクハットを被った背の低い小太り男、口髭を生やして三白眼、サーカスの団長か、でなければ肉屋の主人といった感じだが、彼が悪党として暗躍していても似合いそうだった。夫人は団長よりも背が高く役者上がりといった感じ、話す言葉にどこか芝居がかっている気がした。悪党の隣にいる性悪女、きっとそうなのだろうとケーイチは決めつける。


「ここがレッタの部屋です」


 しかし、レッタの楽屋まで来ると違和感を覚えた。人攫いをして無理に舞台に出している割には、物々しい見張りは一人もおらず、前の廊下には役者が行き来していた。予想していたのは頑丈な檻に閉じ込められ鎖に繋がれる少女の姿なのだが、勝手が違ってきた。「はて、ひどく虐められでもしてトラウマになり、ここから逃げ出さないと信じ込まれているのか?」そんな風に考えるのが自然だった。


「レッタ、お客さんだ。今いいかい?」

『はーい』


 中からは元気な声、虐められたという線も考えにくくなる。扉を開けたのはレッタ本人で、初めて彼女を間近に見る。

 ルシー少年の面影があった。年頃は十代前後くらい、少なくともハルトたちよりずっと歳下なのは違いなさそうで、長い金髪に私服の白いワンピース、舞台の火照りが抜けないのか上気した頬に汗が浮かび可愛らしく笑った。


「お客さん、ですか?」

「そうとも、君の演技に惚れ込んで、いわばファンというところだ」

「嬉しい!観てくれたんですね!」

「是非とも直接お会いして感謝を伝えたくて。見事な演技でした」


 喜ぶレッタを前に、眉は顰めて口元は作り笑いで握手を交わす。まるで望んでサーカスに参加したとでもいった感じで、ますます解らなくなった。なにか、揺さぶれそうな言葉を。出身地?兄ルシーのこと?


「レッタさんは、カーレ島の出身ですか?」


 ここで初めて、レッタは笑顔を濁した。というより衝撃を受けた感じで、怯えともとれる表情で一歩後ずさった。ケーイチの突然の質問に団長は不思議がる。


「なぜカーレ島と?」

「いえ、カーレ島には鳥人族の人たちがたくさんいると聞き及んでいましたから」

「そういえば、私たちあまりレッタのことについて聞いたことなかったわ。カーレ島なの?」

「お、奥さん。わたしカーレ島生まれじゃありません!」

「そうなの?イシヅカさん。違うみたい」

「そうですか」

「わ、わ、わたし、もう休んでもいいですか?かなり疲れちゃって」

「え、ああいいとも。お疲れさま」


 レッタはあからさまにケーイチを避けるべく部屋に戻ろうとした。先程の疑念も何もかも吹っ飛び、雰囲気は違っても予想通りだったと、彼は舌を舐めた。


「では、失礼します」

「あ、最後に一つ。あなた、ご兄弟がいるのでは?」


 顔色が蒼くなり質問には答えず、勢いよく扉を閉めて錠を下ろした。ケーイチは「ビンゴ」と小さく唸る。今度は夫人が聞いた。


「失礼しました、あの子恥ずかしいみたいで。なぜ兄弟がいるかとお聞きになったのですか?」

「私が会った一人だけの鳥人族少年、彼女の面影がある顔立ちで、金髪の艶もそっくりでしたから。もしかしたらと」

「あなた、そういえばご家族のことも聞いたことないわね」

「うむ、私たちも聞かなかったからな」

「じゃ、団長さん、奥さん、目的は達せられましたので失礼します」


 ケーイチは二人に頭を下げると簡単な道を逆行して楽屋を出た。小走りで居室に戻ると、ハルトたちは準備を整え待っていた。ドントール団討伐の際には簡単に捕らえられてしまったケーイチの帰りに、ラスナは笑った。


「おかえり。今度は捕まらなかったみたいね」

「ナマ言ってんじゃねえよ。レッタの居場所が判った、紙を」


 楽屋の見取り図を書いて作戦会議、やることはもう決まっていたから時間はかからず、後は深夜を待つばかりとなった。ケーイチは、レッタがそこそこ好待遇であったことはもう念頭になかった。


 日付が変わる頃、こっそり部屋を抜け出して楽屋に向かった。もし帰れなくなった場合に備えて荷物を持ち、片付けもしておいた。劇場に隣接された楽屋は外からしか入れない。窓から脱けた一行はできるだけ人目につかないように向かい劇場の影から楽屋に向かった。入口には守衛が一人、手持ちぶたさに腰の鍵を弄っていてジャラジャラと響いている。鍵も手に入るならお誂え向き。


「エミリア、ハルト、頼む」

「うん」


 まず出たのはハルトとエミリア、二人は堂々と入口に近づくと守衛の前で止まった。エミリアはにこやかに笑って挨拶する。


「こんばんは」

「こんばんはお嬢さん。あとお兄さんも。どうしました?」

「グリーク・サーカスの人たちはもう寝ちゃいましたか?」

「そりゃそうでしょう、こんな時間です。何の用です?緊急でなければお通しできませんが」


 ハルトはエミリアの隣からそっと離れ、守衛の横についた。この動きに不審に思って、唯一の武器である木の棒を掴む手に力を入れた。


「なんだってんです、用がないんならお帰んなさい」

「用が、ちょっと」

「だから、なんです・・・むぐっ⁉︎」


 苛立つ守衛にハルトが飛びつき、羽交い締めにすると口も塞いだ。ジタバタする脚を避けながら、エミリアが守衛の頭に掌を当てた。


「エミリア!」

「うん!」


 鎮静魔法を守衛の身体に注ぎ込む。かっ開いた守衛の瞼はだんだん重くなり、しばらくしてハルトの腕にだらんと肩を垂らした。まったく平和的な方法で守衛は無力化され、ハルトは腰の鍵束を手に入れた。守衛を見つからないように物陰に隠す。その様子を見ていたケーイチとラスナは頷き合い素早く入口に走った。鍵は簡単に開けられる。


「そこ、そこ真っ直ぐ行ったとこ。しゃべるなよ」

「わかってる」


 小声で脚を忍ばせながら、それぞれの部屋から聞こえる寝息を確かめてレッタの元へ向かった。大きないびきは団長夫妻の部屋から聞こえるらしく、しかも夫人のいびきだった。「デカイいびきは笑えねえな」とケーイチは心の中でそっと思い、やっとのことで辿り着くと、今度は猛獣の寝言が向かいの部屋から。


「ぴゃっ!」


 声を上げたのはエミリア、他の三人から一斉に人差し指を立てられ、両手で口を押さえつける。しかし驚いたのは皆同じで、まさか動物が楽屋にいるとは思いもよらなかった。じっと待って耳を澄まし、寝息に異変がないことが判ると安堵の溜息を吐く。次の仕事だ。


「だめだ、どれも合わない」


 ハルトが冷汗垂らして鍵束をポケットにしまった。守衛の鍵は楽屋内の部屋とは関係ないようで、おそらく合鍵は団長夫妻の部屋にある。


「合鍵がない」

「団長さん部屋かな」

「それでもどの道こじ開けにゃならん。ちょっとやってみる」


 ケーイチの銃剣は初めての出番になった。なにせカービンには着けられない物だったから。彼の銃剣は多機能性が持たされている近代的な物、栓抜きや鋸刃が付いていて、扉の隙間に差し込んで錠の切断を試みる。簡単な物なら切れるはずだった。そこそこ大きい音、ゴリゴリと廊下に響いて一行のかく冷汗は床に溜まっていった。これだけの物音なら誰か起きてきてもおかしくないし、当のレッタの目も覚まされるというものだった。彼女の目は覚さなければいけないが、いきなりだと驚いて大声出される。しかしサーカス団はよっぽど疲れているのか、鼠一匹起きることはなかった。どれだけの時間が経ったか、粗末な錠前だったのが幸いして切断が成る。


「ふーっ」

「じゃあ手筈通り」


 ラスナが廊下を見張って他の三人は静かに部屋に入った。ベッドにはただ一人、レッタが錠前切断の音にも起きず健やかな寝息を立てている。ケーイチは街で見つけて買った便利アイテムを取り出した。


「ふんっ」


 小さな革の袋に移火の先端を差し込み、袋を押さえて引き抜くと火が点いた。袋にはヤスリのような物が挟んであり、移火の点火をマッチの如く簡便にする。移火は摩擦では点かないと思っていたから驚きの代物だった。火を枕元に近づけて、金髪の可愛らしい寝顔を確認する。


「ルシーに似てる、な?」

「うん、あの人の妹って言われたら信じる」

「そっと起こそう」


 エミリアは耳元でレッタと繰り返し、ハルトは灯で顔を映し出し、ケーイチはほっぺたをぺちぺち軽く叩いた。ようやく、薄っすらと瞼が持ち上げられる。


「!」

「おっと!」


 いきなり三人の顔が目の前に、例え知り合いであってもびっくりするのは当たり前で、ケーイチは素早く口を塞いだ。暴れる暴れる、なんとか落ち着かせようと、ハルトが声のトーンを少し上げた。


「安心して、僕たち君を助けに来た。ルシーという人に言われて。レッタちゃんは、ルシーの妹だよね?」

「⁉︎⁉︎⁉︎!!!!」

「ケーイチ、少し手をずらして」

「あ、ごめん」


 言われるままに、口を塞いだ掌を僅かにずらした。レッタは暴れるのは止めたが震えは収まらず、なぜかケーイチの顔ばかり見つめて指差す。ハルトは続けた。


「そうだよね、カーレ島のレッタちゃん」

「わ、わたしの名前・・・たしかにお兄ちゃんはルシーだけど、なんで」

「人狩りに遭ってここに連れられてきたんだよね。もう大丈夫、あなたを助けるから」

「で、でも、この人、人狩り!誰か助けて!」

「え⁉︎」


 人狩りと言われたのは、指差されるケーイチだった。見に覚えのないこと、何がなんだか解らず混乱して大声で言い返す。


「人狩りじゃねえよさっき会ったじゃねえか!」

「だってこの顔、凶悪!」

「バカ言うな!」

「どうしたの⁉︎みんな起きてきちゃった!」


 予想外の出来事、レッタの叫びに呼応してまずは猛獣が吠え、団長以下慌てて起き出す。入ってくるラスナの脇を抜けてレッタは団長の胸に飛びついた。廊下に飛び出すと灯が点けられていて、屈強な火吹き男、移火を燃え上がらせ威嚇する。四人はたちまち取り囲まれた。いつでも防御盾が出せるよう両腕を広げたエミリアを中心に、やむを得ず武器を抜いた。


「団長さん!この人、人狩りです!」

「なにィ、イシヅカ、貴様!」

「違う誤解だ!」

「レッタは人狩りに遭ってここに連れてこられた、それに間違いはないだろ⁉」


 団員たちはハルトの言葉に面食らい、一斉に団長にしがみつくレッタを見た。彼女は少々バツが悪そうに目を逸らして、困ったように口元に拳を当てた。


「れ、レッタ、そうなのかい?」

「そ、それは」

「白々しい真似を、貴様ァ攫ったんか買ったんか、どっちだ!」

「私はレッタに聞いてるんだ!」

「ヤローその子から離れろ、喰らわせるぞ!」


 進退窮まってケーイチは、構えた拳銃を天井に向けて発砲する。一瞬にして奇妙な静寂が出来上がり互いに睨み合う。このままでは埒が明かなく、ハルトは準備された打撃魔法を鎮めるとその手でレッタに手招きした。


「僕たちは人狩りなんかじゃない。逆にここに来るまでに人狩りを退治してきた。捕らえた人狩りは行政府に送ったから確認してみてもいい。ルシーと会ったのも本当だ。だから、そいつらから離れて」

「・・・違うんです、サーカスの人たちは、何も知らないんです。確かに私は人狩りに攫われました。けど、ここの人たちは関係ないんです」


 もはやレッタは人狩りとは言わなかった。ただ押し殺した今にも泣きそうな声で、小さくなった。双方これまで知り得なかった新事実に拍子抜けして、互いに疑問符が上がる。


「・・・え?」

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