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副・救世主は悩ましく  作者: 小山モーゼル
第三章 羽根ッ子騒動
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第3話 遺羽とメトロポリス

 目を見張る大都市(メトロポリス)、ルビヤ村やトグールとは比較にならず、朝から次の朝まで休む間もなく賑やかしい。行政府もそれはもう立派な建物で、縛り上げた人狩りを連れて行くのに手間取った。奴隷制が廃止されているシグ王国で人狩りは立派な犯罪で、銃口に脅されてベラベラ少年を傷つけた目的を話した。翼欲しさに追っていたと、思った通りだった。


 一件落着、でもない。どこか沈鬱な面持ちで宿を取った一行は、レストランで頬杖つきスパゲッティをつついていた。なんとなく、食べる気がしない。


「酔わねえなあ」


 ケーイチがグラスを空にしたが、心地よい酔いがくる気配もせず追加注文もしなかった。煙草をくわえる、というわけでもなく、彼は木の小箱を取り出して灯りにかざした。中身が透けて見えはしないが、彼の眼には映るものがある。


「こーんなに小さくなっちゃって。あのまま埋めてきてほんとによかったの?」

「仕方ないわ。旅行中の鳥人族が客死してその地に安置されたら、翼だけ切り取られた事件もあった。むしろ近くに墓地があってよかったわ」

「墓守のおじいさんは、そんなことしないかな」

「たっぷり金を渡したから、きっと大丈夫だよ」

「遺骨の金歯を抜かれたって話、なにかで聞いたっけ」

「それより、ケーイチが遺体の小指を切り離そうとしたことの方がびっくりした」

「それも聞いていた話だよ。お前ら反対するもんで、羽一本と遺髪だけにしたけどな」


 ケーイチの親戚には、太平洋戦争でフィリピンルソン島に出征した元将校がいる。専門学校を繰上卒業させられて入営、速成教育甲種幹部候補生上がりの陸軍中尉だった。大分前、彼が戦地の話をした際に、戦死した部下の指を当番兵の小円匙(しょうえんぴ)で叩き切って遺骨を作ったと言った。ケーイチは聞き流していたがおかしな単語があって質問する。


「ショーエンピってなに?」

「個人携行の小型シャベルだ。岩場で軍刀も銃剣も蛮刀も使えないから。岩に手を置いて刃を叩きつけた感触は忘れられん」


 ショベル、家の裏にも置いてあるアレ。あんな物で死体とはいえ人体を切らなければならなかったのかと、ゾクリ悲劇が背筋を上った。遺骨が無事届けられたかは覚えていない。


 遺体丸ごと持って行けなければせめて指を持って行こうと、元中尉の話を思い出したケーイチは銃剣を抜いた。しかしその習慣を知らない他三人は遺体損壊をするような行為で反対し、髪と羽だけは持って行くことを認めた。指という骨と血と肉で構成される部位よりも、まだ抵抗がなかったようだ。エミリアに小さな木箱を作ってもらい保管する。


「カーレはカーレ島、ルシーはおそらく彼の名前、妹はレッタ。攫われたと言った」

「攫われた妹を救いにカーレから・・・あんな遠いところからよく来れたわね」

「遠いってどのくらい?」

「2000大デールくらい西の方かな」

「げえっ6000『キロ』!」


 ケーイチは思わず㎞の語が出た。大デールと言えば通常の無印デールの千倍である。ラスナは「また解らない言葉を使って」と呆れた。ハルトが続ける。


「飛んでいた方角はこの街だったから、ここにいる可能性も否定できない」

「大きな街だからね。探せばいるのかも」

「攫って奴隷にしたとか」

「あの少年、かなりの美少年だったから妹もさぞ可愛らしいんだろう。まあ、奴隷ってんならおおよそ」

「それ以上言わないで、考えるだけで恐ろしい。でもケーイチの言う事、当たってるかも」

「見世物にされてるってことも考えられるよ」

「性奴隷にされてるんじゃ探しようがないから、まずは見世物小屋の線かな。じゃ、見物がてらレッタちゃんの捜索を・・・って、俺たちの目的はなんだっけ」

「人助け」

「まあ違いないけど」


 ケーイチは少し困った顔をした。誘拐から少女を救い出すこと、それは紛れもなく救世の手段として一手だが、そもそも悪党と判明している奴らを叩くわけではない。この大都市に隠されている奴隷を探すのはともかく、もし見世物小屋にいたとしたら。貴重な鳥人族を使う連中なら金も地位もあるだろう。悪党は何らかの形で行政からの庇護や認可を受けているに違いなかった。善人の皮を被って活動する悪党を暴いて退治するというのは、面倒だった。

 口をぽかんと開け思索に耽るケーイチを三人は不思議な顔して見つめていた。彼は突如テーブルにぐるんと目を向けると、開けたままの口で短く息を吐く。


「あ」

「な、なに?」

「スパゲッティ冷めちまった」

「あ、たしかに。早く食べよ」


 やたら長い食事の続きが始まる。終始無言の四人はソースのすっかり固まったスパゲッティを口に運んだ。

 面倒な心配は置いておくとして、娯楽や癒しに満ちたいい街、いい宿だった。街一番の宿で偶然開いていたからちょっとした興味で選んだ宿一番の部屋、まるで邸宅の如くリビングを中心とした幾多もの部屋に分かれ寝室も人数分ある。正直、数日は休養したかった。


「なあ、情報は街々で集めるとして、英気を養わないか」

「賛成。疲れてちゃいざって時何もできないし」

「観光がてらでも得られる情報もあるよね」

「そ。むしろ見世物小屋の線で探すんだから、自然と観光になるさ」

「うん」


 皆異論はなく、気の抜けるように頷いた。その日は風呂に入ってしまうと泥のように眠り、そして、金髪美少年ルシーの華麗に空駆ける姿を夢に見た。嫌な夢であった。

 

 さて、一夜明ければ疲れも取れ、ルシーの死は多少のとっかかりだったが元気に街へ繰り出した。美味い飯に美味い酒、煌びやかな服を始め珍しい物や文化ばかり、心は躍り、どこを見ても歩いても楽しかった。

 少女たちは年頃ちょっとしたアクセサリーなんかも興味があり、男どもも店に連れて行かれる。ケーイチは大学に通っていた頃からアクセサリーを身につけずまるで興味なく、持っていたブランド品といえばジッポライターくらいだったから、早々に退屈になった。宝石のブローチだのネックレスだの見てキャッキャしている横でハルトとじっとしていると、何が似合うかどうかくらいは聞いてくる。退屈でも楽しそうにはしゃぐ二人を見ているのは楽しくて、見せられると声のトーンを上げてみせた。


「これ、どうかな、似合う?」

「とっても似合う」

「これは?」

「かわいいよ」


 こう聞かれるとケーイチは、間違いなく二人とも掛け値なしの美少女、どれだって似合うのは当然と思っていて、またそれは本心から素直に褒めた。少女たちは嬉しそうにして、ハルトにも見せてみる。ケーイチが「かわいい」と連発するよりは言葉少なくて、慣れない女性ばかりの店に些か緊張する様子である。普段とは違う少女たちの姿に頬も染めた。


「う、うん。かわいい」

「照れてるな、ショーネン」

「そんなんじゃないけど!」

「ラスナ、エミリア、化粧の店もある。試してきたらどうだ?」

「うん!」


 普段は化粧っ気のない二人、ラスナのは、ドントール団討伐の際見たことがあるが少々ケバかった。だからこれから好きに化粧して、如何に変わったか見れるのを楽しみにハルトの肩を叩く。


「なあ、どんなに綺麗になってくるのかね。二人とも美少女、化粧しなくても美人だから、きっととんでもなく可愛くなってくるはずだけど」

「そ、そうだね。ケーイチは偉いよ、素直にかわいいって言えて」

「ラスナの私服を俺と一緒に見た時、ハルトも素直に言えてたじゃん」

「ケーイチが先に褒めてくれたから、僕も言いやすかったよ」

「なら、積極的に褒めてやることだ。きっと喜ぶ」

「ケーイチは、なんていうか、女の子慣れしてるよね」

「そう?」

「僕は、女の子の知り合いなんてほとんどいなかったから」


 ケーイチはこれまで、彼女がいたことはあれど大々的にモテたことは一度だってない。ただ女友達は多かった。小さい頃にはよくある男女の対立も彼の学校にはなく、恋愛ゲームのヒロイン顔負けの幼馴染だっていた。そして皆美少女であったし、よくそれを褒め称えた。その女子たちから異性としての好意を持たれたとは必ずしもいえなかったが、親友だと感じている。ラスナやエミリアがいてもそこそこ馴染めたのは、こうしたある意味甘美な経験があったからかもしれない。


「女友達も何人かいたからかもな。かわいいと思って直に伝えることは慣れたかも」

「じゃあ、ラスナもエミリアも、ケーイチに恋をするかもね」

「それは男の浅はかな考えってもんで、そんな簡単に口説ければ苦労しないよ。男は女友達に惚れる、しかし女は男友達を好きにならないものさ。ハルトが言うなんて、当てつけか」

「え、なんで?」

「あの二人が好意を抱くとすれば、お前にだろう」

「ちょ、ケーイチ!ケーイチはたまにそういうこと言うけど、そんなことは」

「悪かったよ、もう。まったく、男と女の間にいるとやりにくくってしょうがない」


 やはり変わらず鈍感男、それか判っていて、いや、そんなはずはない、と信じないのか、ともかく呆れて溜息を吐く。少女たちの心はいうに及ばず、少年だって意識していないわけでもないのは明白で、ケーイチは妬くよりも先に「はよくっつけ」といつも通りじれったい。


「お待たせ!どうかな?」

「お店の人にも手伝ってもらったけど」


 二人の化粧が終わって出てくるのを、ケーイチは賛辞で迎えようとした。だが目の当たりにすると声が詰まる。心臓掴まれるくらい、ラスナとエミリアはより一層魅力を引き出されて可憐になっていた。ハルトも同じで、黙りこくってしまう男たち。


「二人ともどうしたの?」

「言葉が出ないほど綺麗」

「そんな~照れるじゃないの」

「ほんとうにきれいだ、ラスナもエミリアも・・・」


 ハルトが少し詰まって感想を述べると、二人はどこか真剣に受け取りすぎるようだった。赤面の美少女共々固まってもじもじと、目を逸らし合って変な汗をかく。一人素面なケーイチはボケーっと眺め尽くしていたが、綺麗になったらなったで、面倒な連中を寄せ付ける、不穏な男たちの影、軟派の吐息を感じ始めた。集まる人だかりの中から何人か、流行の服着た如何にもな女ッたらしが近づいてくる。


「お嬢さん、俺とそこでお茶でも」

「お茶なら俺を連れてってくれ、いや、茶より酒がいい」

「な、なんだお前は」


 ケーイチは間に入ると嘯いてみせて、隣のエミリアの背に軽く腕を回した。彼女は現実に引き戻されて、初めて群衆に気づいた。


「この子のツレさ。ハルト」

「うん・・・え?」

「ラスナの腕を取れ。恋人のふりをしろ」

「え⁉︎」

「早く。こういう連中、男がいてもそれが友達だと平気で狙ってくるから」

「わ、わかった。ラスナ、行くよ!」

「うぇっへ⁉︎」


 急に腕を抱かれたラスナは変な声が出る。それを恥じる暇も無く足早に歩き出して群衆の輪から脱した。しばらくそのままで、ハルトのお相手から外れたエミリアは少し残念そうに、でも肩を抱くケーイチのエスコートには素直に従っていた。たとえごっこでも、恋人という新鮮な立場を手に入れるのは、道行く人々から特別な存在になった気がして楽しくもある。

 ちょっとした恋人気分、なんだか慣れたエミリアとケーイチは笑いながら、ラスナとハルトは出来たてほやほやのカップルみたいなウブさで、ダブルデート(?)に心踊らせた。


 しかし間も無く、彼らは鳥人族の金髪少女を見つけるのだった。

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