第2話 少年は「レッタ」と遺した
「当たった。ちゃあんと急所も外した。風があるし軽い弾だし、どうなるかと思った。しかしほんとに悪党かあれ」
「相手を二人がかりで追いかけて、墜落させてもなお刃物を出した。しかも悠然と。なにより追いかけられてたのは鳥人族」
「鳥人族の羽根は高値で売れるのよ」
「丈夫で立派な羽根だからね。困窮した鳥人族が遺体から切り取って泣く泣く売りに出すことはあるけど、生きた鳥人を追って羽根を奪う事件が後を絶たないそうだよ」
「そりゃ勉強になった、俺は見るの初めてだから・・・おい、もう片方逃げるぞ!」
「なんで撃っておかなかったのよ!」
「忘れてた!」
人狩りの一人を撃ったのは伏せ撃ちの姿勢でカービンを構えるケーイチ、しかし呑気に話し込んでいて二人目を撃つことを忘れていた。ハルトとラスナが馬に同乗して行ってしまい、乗馬のできない二人が残されてしまった。
言った通り、ケーイチが鳥人族を見るのは初めてだった。存在くらいは、翼や長い耳を持つ種族がいるとかは神から伝えられていたが、ルビヤ村や周辺の街では終ぞ見かけることはなかった。だから、空を飛ぶ人間を発見したケーイチは大はしゃぎで、それが事件の始まりだった。
次の街へ向かって旅の途中、一行は件の追いかけっこに遭遇した。犯罪者を自警団か軍隊でも追っているのかと思ったが、ハルトは鋭く事態を見抜いていた。ケーイチが撃つと言い、人狩りが抜くナイフが光るのと引鉄握られるのは同時。ハルトは尋問に掛けるため殺さないようにと厳命し、ケーイチはその通りにした。逃走を図る人狩りに、ハルトの命令を無視して乱射しても時すでに遅く、仕方なく下馬したまま手綱を手に取った。
「しょうがない追おう。エミリア、乗れ!」
「私も走るよ」
「いいったら、早く!」
「あ、ありがと!」
馬を操縦できなくても(というより馬を扱うときはハルトとラスナに任せっきりでそれが習慣になってしまい、実際乗馬ができるのかどうかすら二人は自分でも判っていない)引いていくことくらいはできる、それならエミリアは乗せてやろうと彼女を跨らせた。100デールは武装して走っていくのに遠い距離で、ザックに密着した背が蒸れる。
「なあエミリア、俺たちどっかで乗馬習わなきゃなあ。あの二人は率先してやってくれるもんだから甘えすぎた」
「そうだね、こういう時に困っちゃう」
「どひー」と間抜けな息を吐いて、顔から噴き出る汗が派手に落ちた。肩に吊るしたカービンを一応外して逃げた方に構えたが、もう遥か遠くに巻き上がる砂塵があるだけだった。ハルトとラスナは人狩りを縛り上げるだけ縛り上げて転がしておき、倒れ伏す少年の横に佇んでいた。エミリアは素早く駆け寄ると彼の身体を膝に乗せ治療を始めた。しかし苦い顔で頭を振ると小さな声で言った。
「もうダメ、飛んでいる間に血が出すぎていて命を伸ばすだけの回復ができない。それに疲労困憊であんな激しく動いていたから・・・」
「私、夢中でハルトの後ろに乗っちゃった。エミリアを乗せていれば」
「もしラスナの代わりに急行していても結果は同じだったよ。私の力不足、せめてお師匠ほどの力があれば」
「誰のせいでもねえあいつらが悪いんだ。あ、おい、目を開けた」
エミリアの救命は成らなかったが、遺言残すくらいの力は湧いたようだった。少年は息も絶え絶えに、空ばかりを見つめて口を動かそうとした。ハルトが口元に耳を近づける。
「カー・・・シー」
「すまない、もう一度」
「カーレの・・・ルシー、妹、攫われて、レッタ・・・助け・・・」
そこが限界だった。最後の「助けて」のテの字も言わず事切れた。しばらくの沈黙、悶々と救い得なかった少年の遺言について思いを巡らせていると、怪我したままの人狩りが呻いた。
「お、おい!こっちも治療を!頼むから!」
「ボケ!」
ケーイチは悪態つき、エミリアが黙って人狩りに近づくと患部に手を当てた。




