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副・救世主は悩ましく  作者: 小山モーゼル
第二章 救世始
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第21話 手を振り合って

 報酬の手続きが済んで、ロド金角貨の、はっきり言って何ヶ月も遊んで暮らせるだけの金が手に入った。翌日出発することにして改めて宿を取ろうとすると、初めに泊まった宿の主人が名乗りを上げた。今度は夫婦揃っての歓待で、一番良い部屋に通される。しかも一人一部屋ずつ、数日前に泊まった部屋よりも広かった。いわゆるスイートルームというやつで、代金はいらないと言って受け取らなかった。


「なんならあの時、もっと良い部屋にお通しすればよかったですよ。主人がまあ世話になって!」

「世話も何も、私も同じく繋がれてただけでしたから」

「いえいえ、あの煙草から始まったご恩、忘れちゃいませんよ。さあさ、宴会の準備ができておりますから、ぜひ。町長もお出でになられて、お礼を申し上げたいそうです」

「せめて今夜だけでも、楽しんでいってください」


 四人は食堂に引っ張られると街の有力者たちが家族ぐるみでズラリと並び、美男美女の給仕が支度を整えている。久々に腰を落ち着けてのご馳走、断ることもせず席についた。

 ケーイチの席には、共に人質となっていた親近感からか有力者のオッさん夫妻ばかりが訪ねてきたが、他の三人はめちゃくちゃにモテていた。有力者の若い息子娘、給仕まで、席の四方八方を囲み褒める褒める、そんでもって口説く。


「お父様を救ってくださったお強い方!是非ともお付き合い致したいわ。ここを発つ前には、私のお家へ」

「ずるいわ!ハルト様、私の家、いえ、お部屋に、二人きりでお話しいたしましょう」

「踏み込みすぎではなくて?がっつくのは、たとえ女でも嫌われるのよ!」

「なんですって!」

「ねえ、ほら、ねえ、喧嘩しないでよ、仲良く仲良く・・・」

「エミリア様、ほんとうにお美しい。僕は一目あなたを見た時から心を射抜かれました!偶然僕も魔練術について勉強をしている身です、是非とも我が家で共に民のために働きましょう!」

「え、え、そんな」

「お前が魔練術について勉強してるなんざ、初めて聞いたぜ。それより()()()()()、俺と一緒になってくれ。君がしたい研究、魔練術の仕事、なんでもしたいことをさせてやる」

「そんな、そんな、えー・・・」

「ラスナお姉さま!助け出してくださった時、白馬の王子様が駆けつけて来てくれたと確信いたしましたわ。素敵!抱いて!」

「な、なんで女のあなたたちと!それに私はみんなのお姉ちゃんじゃないって!」

「あらお姉さま、愛に性別は関係なくてよ。ただそこに愛があれば・・・」

「私にはなーいっ!」


 ハルトとエミリアはともかく、ラスナに関しては牢から助け出した婦人からもモテていた。困惑する彼女に取り付く麗しき女たち、身体中に触れて、しかし場合が場合だから突きはねるわけにもいかず、ケーイチに助けを求めようとする。


「ちょ、やめ、どこ触ってんのよ!あ、あ、あの男、アレだってあなたたちを助けたのよ。行かなくていいの?」

「お姉さま、私は可憐で強いお姉さまがいいの!」

「ちょっと〜ケーイチ〜なんとかしてよ〜」

「ええじゃんかモテるって。しかし、俺はお先に失礼するぜ」

「そんなあ!」

「そういうわけで、先におやすみさせていただきます。どうも疲れて。お礼なら、ハルトたちにも伝えてやってください。今夜の祝宴、感謝します」

「おおそうですか、では私どもはもう少し」

「ええ。おやすみなさい」


 席を立ち、三人に手を振るとケーイチは会場を出た。部屋に戻るまでは誰とも会わず、静かな中でこの数日を思い返す。


 長かった、長かったような気がする。救世の始め方、物語の登場人物に不釣り合いに混じっていたかの如く、このお伽噺は歪だった。だけど、これからやっていくことを掴めた感じもする。それが良いのか悪いのかは判らないけれど、とにかく、カミサマが言った「世界を救え」とは、これも含まれることには相違ないだろう。

 しかし、救うとはなんだ?ドントール団でなくともああいう悪党共は掃いて捨てるほどいるだろう。それだけじゃない、戦争だって、この世界じゃ当然あるのだ。どちらとも合っていてどちらとも間違っている主張のぶつかり合いが。それを解決するのは政治家であって実働部隊である自分たちではないと思う。それか、そうした問題の数々の根源となる存在がどこかにいるのか?そ奴を倒せばユートピアが現れる、そんな存在が。しかしユートピア論は破綻している。ケーイチの世界ですらそうだった。誰かが幸福になれば誰かが不幸になって、何かを食い潰しながら自身が求める幸福に邁進する。ケーイチが娼婦と遊ぶのだって、見方が一つ違えば不幸の元凶にもなり得た。文化は違えど人心に大した変わりはないと、この一年肌で感じ取って来た。だとしたら、だとしたら、救うとは?


「・・・いいじゃないか、悪い奴がいて、誰かの不幸になってるなら、それを正していくことで。不幸をできるだけできるだけ少なくして、残った最低限世界を回すための不幸は順番に代替わりできるようにして。しかし、それも誰かに不幸を押し付ける結果になるんだろうか。それは救ったといえるのか?・・・俺には判らん」


 部屋に用意されていたバスタブの湯に浸かり、パイプの煙を吐いた。納得した気でモヤモヤを吹き出し、きっと、少なくとも誰も貧乏せず仲良く暮らせるくらいの世界は作ることができるのだろうと、気の長い話を考えて口からパイプを取った。目を瞑り、今難しいことを考えるのはこれで最後にしようと、石塚恵一が生まれた世界に渦巻く不幸を思い巡らせた。


「あの世界でどんな不幸も解決し得ていない、俺が?」


 ノックが聞こえる。答えのない思考を止めると返事をして風呂から上がった。急いで身体を拭き腰に布を巻いて、ジャケットを羽織ると扉を少し開いた。


「おやすみじゃなかった?ケーイチさん」

「やあ、スーミか。久しぶり。こんな格好ですまないけど、どうぞ」


 ノックの主はスーミで、ケーイチは彼女を中に招き入れた。服を着替えると部屋に置かれてあったワインを取りグラスに注ぐ。


「ラスナがお世話になったみたいで、礼を言う。協力してくれて助かった」

「お礼を言うのはこっちよ。あなたたちのおかげで、ドントール共に好き勝手使われていた女の子たちが助かった。ありがとう」

「なに。いくらセックスが商売でも、無理に手篭めされるというのは恐ろしいことだ。助け出せてよかった。しかし、ちょっと親しくなれたのに、別れるのは寂しいなあ」

「私、移動しながら仕事をすることに決めたの。偶然ってたくさんある、きっとまた、どこかで会うわよ」

「そうだな。じゃ、その時にこの前の超過分遊ばせてもらうとしよう」

「あら、だめよ」

「だめか?そうか、見送りのキスで帳消ししたんだっけな」

「そうじゃないの。みんな、来て!」


 スーミは扉の方に向くと手を叩いた。すると廊下を歩いてくる何人もの足音、部屋の前まで来ると中に入ってきた。並ぶ数人の美女たちは、なんとなく見覚えがあった。そう、ラスナと一緒に牢から救った娼婦たち、彼女たちは一度礼をすると服を脱ぎ去った。顔を赤く言葉に詰まるケーイチを前に、スーミもまた裸になる。


「助けてくれたこの子たち、お礼をしに来たの。でも人数が多いから、超過の分は、これに当ててもらおうかな」

「わかった、わかったけど、しかしこんなに楽しめるかな」

「長く何度も楽しませてあげる。気のゆくままに」

「参ったね、すごいお礼だ」


 ケーイチはワインを飲み干すと全て服を脱ぎベッドの真ん中に座った。そこを女たちが囲んでぴったりまとわり付き、夢の花園。まずはキスから始めた。

 ただ一つ、さっき考えていたこと、誰かから無理にこの仕事に就かされている天使が、スーミの店にはいないことを祈って・・・


 翌朝、自分を呼ぶ声で肉体のベッドに目覚めたケーイチは、腰をふらつかせながら窓に立とうとした。皆情が厚く、寝ながらも離さじと手を絡ませる女もいる。頭を振りながら窓から首を出すと、叫んでいたのはラスナだった。


「なにしてんのー行くよー!」

「もう一日、休ませてくれ」

「ケーイチ行くよ!町長さんが馬車を用意してくれたんだ!」

「わかったあ。ちょっと待ってて」


 足取りおぼつかなく下着を履きズボンに脚を突っかけるが左右間違えたりして上手くいかない。ドタバタやっていると皆起きてきて、着替えを手伝ってくれる。


「ごめんもう行かなきゃ」

「寂しくなるわね」

「どっかでまた会ったら、その時はロド金持って参上するさ」

「お待ちしてます。身体大丈夫?」

「腰から下がひどくふらつく。支えてくれないか」

「はーい。あと、サービス」

「ん」


 世話になった女たち皆からキスを受け、最後スーミがしっとり口づけしてくれた。昨晩から数えきれないくらい唇交わしていて、身体中楽しく腫れ上がりそうだった。

 スーミに尻を押してもらって、転がるように馬車に乗り込んだ。その様子をラスナがぶすっと眺めている。


「やーらし。よっぽど夜はお疲れだったみたいね」

「そういうお前はなんだ、あんなにモテたくせして」

「バカね、普通に寝たわよ」

「ほら、出発だ」

「みんな見送ってくれるよ。さよーならー!」


 町長をはじめ、街中の人々が出発を見送ってくれた。三人は腕がちぎれんばかりに手を振り、ケーイチもだらんと窓から身体を垂らして手を振った。だんだん街は遠ざかり、賊の支配から脱した姿はさっぱりと佇んでいた。


「次はどこに?」


 ラスナが隣に座るハルトに身を寄せて尋ねた。彼は地図を見ながら少し考え、都市を指差した。


「ここに行ってみよう。僕たちみたいなのを求める情報が手に入るかもしれない」

「次は下品な男たちがいないとこならいいなあ。ね、ケーイチ」

「当てつけか。お前に手を出したわけでもなかろうに。そうだ」


 ケーイチは鞄から備忘録の手帳を出して鉛筆を握った。昨晩考えた救世のことを書き留めておこうと黒鉛をページに当てて、考えをまとめようとする。一行目、日本語で「身の振り方について」と綴って手を止めた。


「ケーイチくん、何を書いてるの?」

「・・・やっぱいいや。なんでもない、エミリア」


 ケーイチは備忘録を閉じると鞄にしまった。別に、何となく思いついただけのこと、書いておいても仕方ないし、書けばそのことに縛られるとも限らなかった。こんな世界、できるだけ柔軟にしていなければ。


 煙草をくわえて火を点ける。煙は街の方に流れて消えていき、一つだけ書いておこうと再び備忘録を出した。


「スーミという女。街の名、トグール」

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