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副・救世主は悩ましく  作者: 小山モーゼル
第二章 救世始
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第17話 親玉追跡

 ラスナにコテンパンに叩きのめされたルーグは、気絶したままに眠りこけ、全ての危機を忘れて高鼾だった。夢の中で酒池肉林、高い酒を浴びてスーミやラスナを取っ替え引っ替えに抱き散らし、寝顔が下品に笑った。

 ラスナの案内でルーグの部屋に来た一行は、眠ったままの彼をがんじがらめに縛りつけ、ケーイチが自動拳銃の銃口で頬を叩く。


「おい起きろこの野郎」

「ぐへへへ・・・」

「アホめが、いい気で眠りやがって」

「ドントールには置いていかれたみたいだな」

「薄情な団長だ。いつまで寝てんだ馬鹿野郎!」


 ケーイチは汚い寝顔に御守りが当たらないように房ごとグリップを握り込むとランヤードリングの結合部で殴りつけた。脳天に打撃を喰らったルーグはようやく目を覚ますと、前にケーイチがいるのにまず目に入ったのは少女たち。


「キリエじゃねえか、それに美人がもう一人・・・名前何てんだ、こっちゃ来て混ざれ」

「殺したろか、俺が見えんのか、おい!」

「なに・・・誰だお前は、ああ、イシヅカとかいう商人、なんでここに」

「悠長にくっちゃべるな馬鹿!」


 怒りを隠さないケーイチは発砲して、ラスナがルーグを殴るのに使ったウィスキー瓶を割り弾は壁を貫通していった。いきなりの銃声にエミリアが驚く。


「わあ!びっくりした!」

「もうちょっと大人しくやりなさいよ!どっちが悪党だかわかったもんじゃない!」

「いや、ちと手荒にいくぜ、このクズどもにはそうするしかない」

「ラスナ、エミリア、ここは僕たちで聞き出す。ちょっと出て外を警戒していてくれないか」

「わ、わかったわ」


 これから更に荒れ狂うであろうケーイチを思って少女二人は外に出された。ようやくのっぴきならない状況に置かれていることが理解できたルーグは、漂う何種類もの火薬と焼ける臭いに、襲撃されてしかも大方の味方は滅ぼされたのだと、恐怖に怯える。ケーイチよりは幾分穏やかなハルトが屈み込んで一応の状況説明とドントールのことを尋ねた。


「僕たちはこのアジトをほぼ全滅させた。第三幹部は斃れたし、お前の味方もほとんど無力化されてる。見当たらないのは団長ドントールだ。どこにいるのか、何か知らないか?」

「なんてこった、このアジトが・・・。団長は?どこにいる!」

「こっちが聞いてんだよ。答えんかい!」

「俺を殺すのか!助けてくれ!」

「殺しはしない。だから早く答えてくれ」


 殺さないと聞いたルーグは急に不敵な笑みを浮かべた。殺されなくてどこかに捕まっていても、逃げたドントールがそのうち助けてくれると、置いてきぼりにされたのにまだ信じている。次の言葉は挑戦的だった。


「へっ、殺さねえのか。だから甘ちゃんなんだよなあボウヤは。知るか、団長が逃げる方便なんざ」

「こいつ・・・」

「殺されねえだと、まだ夢見てんのか!」


 躊躇なく引鉄が握られいきなり膝頭を撃ち抜かれた。もう醒めてしまったしまった酔いは痛みを和らげることはせず、激痛がモロに神経を貫いた。ケーイチは荒い呼吸を繰り返しながら傷口に指を突っ込み中を抉った。


「ぎゃああああああ!」

「てめえこれ以上ナめたこと抜かしてみろ、腿の動脈にブチ込むぞ!そしたらな、そしたらな、何分か経ってテメーは死ぬんだ!俺ァ村の子をてめえたちに殺されてんだ、貴様ら皆殺しても殺しても飽き足りんのだぞ、おい、聞いてんのか!」

「き、聞いてる聞いてる!なんでも話すから助けてくれ!」

「ヤロー言い澱んでみろ、こうだ!」


 親指を曲げ骨の欠片を押し込む。ルーグは耐えきれず顔中から液体という液体を出して、悲鳴は自然と敬語に変わる。


「あああああああ!ちゃんと言います!言いますからやめてください!」

「よーし包み隠さず話せ!」


 それから驚くほど素直にルーグは白状した。団長が如何にして逃げたか、どの辺りにいるのか、手勢は幾ら連れているのか。全て吐いてしまえば暴力を振るう理由もなく、ハルトはシーツをちぎって傷口に巻いてやった。


「この後街の人間か僕たちが来る。そこで大人しくしていてくれ」

「もちろんだ、もう手向かわない。しかし、その後の処遇は・・・」

「一応改心して協力したって言っておくよ」

「罪一等減じられるってわけさ、クソ!」


 縄が硬く解けないように、次いで本人の希望で下着まで脱がし股下にバケツを置いてやった。酒で尿意甚だしいのだろう。大の男が垂れ流しなのは、ケーイチもその点についてだけは殺すよりも少々哀れに思い同意した。

 外ではラスナとエミリアが待っていて外や廊下の端を警戒していた。扉が閉められる音で二人は振り返り、ラスナはどこから持ち出したのか、濡れた布を差し出した。


「血がたくさん付いてる」

「ありがとう、さっきから臭くてたまらんかった」

「ねえ、銃声したけどあいつ殺したの?」

「まさか。ケーイチは膝を撃つだけでなんとか耐えてくれた。かなり罵ったけど」

「こうやって、一件が終わるまでは汚くしか生きられないから。しかし怖い」

「なにが?」

「殺すのはさっきも言ったけど嫌に慣れた。しかし罵倒することは、殺すよりもひどく疲れる気がする」


 ケーイチの吐く溜息は震えていた。今まで夢中だったから省みることもなかったけれど、人生で一番罵倒した数日だった。殺害という行為よりも言葉で叫んだ方が気に重く、罵倒で疲れることは、誰かと口喧嘩したことはあって多少知っていたから尚更だった。そして殺傷の方がまだマシと感じられるのは、無理やりこの世界で慣れてしまった麻痺だからか、罵倒は心苦しいという中途半端な見せかけの優しさを伴う弱さに、自身でも吐き気がする。

 ハルトはどうなのだろう?条件は同じのはずだが、彼に内在しているであろう悩みは一滴たりとも溢さずして、解らなかった。三人の、心配してくれていると判る瞳がむしろ辛い。


 震えを抑えるべく煙草に火を点け一服煙を撒くと、ハルトが団長の行方を伝えた。


「やっぱり団長は逃げた。各幹部の部屋には地下を通る穴が掘ってある。そこから逃げたらしい」

「じゃあアジトの外に?」

「うん。よっぽどじゃないとそこは使わないらしいから、まだ遠くへ行ってないはずだ。穴を出て南東の方に向かうと言っていた。追おう」

「そこしか追える場所もないか。よし」


 ルーグの行った通り、団長の部屋の床には人が通れる大きさの穴が空いていた。急に掘ったのではなく枠て補強してあるしっかりしたものだった。中を照らすと土に数人分の足跡があって、火が風に揺れるのは出口が塞がれていないことを意味していた。


「まだ風が通ってる。そんなに長い距離じゃなさそうだ」

「すごく暗いね」

「ハルト、この移火に点火を・・・あ、ハルトの火を使えばいっか」

「僕はランプじゃないよ」


 ハルトの掌に拳大ほどの火玉を作り穴に降りた。ハルト、ラスナ、エミリア、最後にケーイチが拳銃を構えて殿に付き中を進む。30デールくらい先に月明かりが照らされていてそこが出口だが、大分遠くに見えた。


「ぐえ」

「どうしたの⁉︎」

「背負ったカービンが引っかかった。しっかし狭い穴だな」

「もう終わりみたい」

「梯子がある、みんな気をつけて」

「あ、ちょっと、エミリアお尻押さないで!」

「だってケーイチくんの銃が当たるんだもん!」

「マジ?なんかつっかえると思ったら」

「そんなにお尻大きくないって!そっと来てケーイチくん!」


 いや、エミリアの尻はデカいだろと、どうでもいいことを思いながら最後ケーイチが外に出ると平原に建っている小さな馬小屋があった。馬が二頭繋がれて残されている。背後から武器庫の燻る臭いが鼻について振り返るとアジトは全焼はしておらず、気の利いた団員が戦闘の最中鎮火しておいたようだった。この馬小屋に繋がれていた馬で逃げおおせたらしい。


「エミリア、南東は?」

「あっち。あっ!」

「ありゃ馬車だ!」


 平原を月明かりに照らされて駆けていく影があった。ケーイチが詰め込まれたのと似たような馬車で、遁走する荷車には団長といくらか持ち出された盗品が載せられているに違いなかった。ハルトは腕を伸ばし目を細めた。


「あの距離、当たるか?」

「やってみる。はあっ!」


 打撃魔法が飛び、打ち出された大きな光はだんだんと小さくなる。ケーイチは知らなかったが、射程が延びるほど威力は衰えていくものらしい。馬車はかなり離れていたから命中が危ぶまれたが、光は消える寸前車軸に当たった。盛大に車輪が外れると馬車はひしゃげて中から巨大な影と三人の影が現れた。ハルトは「馬だ!」と叫ぶと跨り、後ろにエミリアが乗った。


「ラスナ、乗馬はできるか⁉︎」

「なんとか!」

「俺はできない、乗せてくれ」

「ヘンなとこ触らないでよ!」

「バカ!しかし腹に腕は回させてもらう!」


 ラスナの後ろにケーイチが飛び乗る。マントの端から腕を突っ込んで背に抱きついたものだから、首元のマントが風をはらみ顔を覆った。


「顔が!顔が!」

「我慢して、もう着く!ちょっと、あんまり脇の上掴まないで!」

「弱いんか、俺も弱いけど!」

「着いた!このまま突っ込む!」

「じゃ降りる!」

「あ、ちょっと!」

「うわ!」


 ケーイチは腕を離して鞍に手を突くと、揺れる馬上から落ちた。蹄が勢いよく擦っていき、危うく蹴られて即死するところだった。痛みを和らげている間も無く、もう目の前には崩れた馬車があって、手勢の一人がラスナに切られた。まだ一人残っていて拳銃を抜き射殺する。もう一人居たのもハルトに倒されていた。


「ドントール!もう逃げ場はない、出てこい!」


 当の団長は馭者席の影に身を潜めていた。彼はゆっくり立ち上がると影から半身覗かせて媚びた笑いを見せた。

 ケーイチが初めて見る悪党の親玉、ルビヤ村を襲い子を殺した元凶、自然と銃を握る掌に力がこもる。

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