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副・救世主は悩ましく  作者: 小山モーゼル
第二章 救世始
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第16話 混戦

「まったく、なーにがデートよ!こんな時に」

「ふざけたんだ、そう怒るな」

「よくあれだけ殺しといてふざけられるわねえ」


 他の囚人は去って、ケーイチとラスナも警戒しつつ戦場に戻ろうと足を進めた。向かう場所まずは他の牢場で、残っている人質を皆解放する気だった。武器庫の火が牢に回る前にしなければいけない。

 ケーイチのおふざけに文句を言うラスナは、殺害への認識を口にすると彼の表情が一瞬曇ったことに気づく。彼自身、殺害に関しては何か気にしているのかもしれなかった。


「ごめん、気にした?たしかに仕方なかったことだって理解してる」

「別に気にしてない。慣れだ、嫌な慣れだな。一年前とこの前と今日で三回目、一回目も初めて殺した時は夢中で、それ以来ずっと夢中のままだ。だけど解らん、この前は無抵抗の捕虜を本気で殺そうと思ったし、これからだって、冷静に殺す時があるのかもしれない。考えてたって仕方ない、今は殺らなきゃいけないんだから。ラスナは、人を斬ったことは?」

「ないことはない、でも考え方はケーイチと似てるのか違うのか。私は戦士として育ったから、殺すも殺さないも、状況に応じて覚悟を決めてやれって、そう教えられた」

「それが正しい、その覚悟がきっと自分も仲間救うのさ。無理やり慣れるよりはよっぽどいい」


 口で言ったよりも、ケーイチはこうした非常時でコロシを行うことへの覚悟だの迷いだのは、よっぽど感じていなかった。もちろん関係ある人間の死には当たり前のようにひどく心が揺さぶられるが、敵対する者を死に至らしめること、ただの学生だった時は思いも及ばなかったが、今この世界で銃を振り回して生きなければならなくなって、順応したつもりでいる。しかしラスナのように重厚な教育を受けて編み出された覚悟ではないから、初めて殺した人間でもないのにベドーの死体を見た時の不快感は覚えていて、覚悟がない故に時折矛盾した感情が噴き上がるのかもしれなかった。考えている暇もない、また、そんなことを顧みず慣れきってしまうことが一番いいとよく理解している。それはあくまで覚悟ではないのだが。


 モヤモヤとした答えのない思考が始まる前に、新たな敵を撃たなければならなかった。別の牢場の見張り、一人は一発で倒しもう一人はラスナの振るう剣に斬り捨てられる。拳銃の弾はもう一発だけで、ケーイチは見張りの小銃を分捕った。どよめく牢内の悲鳴は多数の女の声である。


「ここは⁉︎」

「女たちの牢だ、なんでこの女たちがいるかは、大体想像がつくだろう」

「この人たちかな、スーミさんが助けてほしいって言ってたのは」

「スーミに会ったのか⁉︎」

「ここを教えてくれたのはスーミさん、私を潜入させてくれたのもスーミさん。今回一番の協力者よ」

「なるほど、ウブな三人にしちゃ思いつき難い手だと思った」

「また余計なことを。みんな!スーミさんに言われて助けに来たの!牢を開けるから逃げて!」


 ケーイチは鍵を拾って錠を開けて回った。出てくる出てくる、娼婦や、おそらくそうでない女も混じっていて何十人と。男の囚人もまだ何人か居るはずで後で解放する予定だが、男全部合わせても女の方が多そうだった。解放された女たちは口々に礼を言い、ケーイチはもとより少女のラスナにも、頬にキスをする者もいた。


「ありがとう!この御恩は一生忘れません!」

「ねえ今度遊びに来て!」

「わかったわかった、行くから早く帰って支度してろ!そうだ、ラスナ、スーミに連れてきてもらったと言ってたが、彼女は?」

「私と一緒に酒の相手してた。でも騒ぎが起きたら隠れて、折を見て逃げ出すって!」

「聞いたな、お前たちの姐さんもいるらしい、早く一緒に逃げろ!」

「はーい!」


 皆が去って残された二人、頬や首筋にキスマークの数々が、ケーイチよりラスナの方が面食らったのか顔真っ赤に肩で息をする。


「女同士でしょうに」

「はあ・・・はあ・・・それでも、こんなことは慣れてないもの。はあ・・・」


 この後、順当に男の牢も解放したが見張りは戦闘に駆り出されているのか姿がなかった。ケーイチの背に装填済みの小銃が二挺、腰に差した残弾一発の拳銃、ラスナの手には粗末な剣、早くハルトとエミリアに再会しなければならない。


「しまった、俺はマスケットの装填を知らないんだ、三発撃ったらラスナ、あとは頼む」

「だらしないわねえ、銃で殴ればいいでしょ!」

「ごもっとも。ハルトたちは、どの方角かな」

「正門側から行くって言ってた、そっちに行きましょう」

「承知!」


 たしかに正門の方から戦闘の音が激しく、逃した人たちの行く方向が手薄になってるのなら都合がいい。ケーイチはしっかり小銃を持ち直して先に走るラスナに従った。


 一方正門から堂々殴り込みをかけた二人、戦うのはハルト一人でも、エミリアの作り出す盾は心強く防衛していた。銃弾に矢は全て跳ねられ、盾越しに打撃魔法に火炎魔法が繰り出されてほとんど敵を寄せ付けない。それでも防備の隙を突き時折肉薄されるのを、白く裾を翻して軽やかに薙ぎ払った。


「二人ともどこかな!」

「ラスナと合流できていればそんなに遠くないはず、やあああ!」


 眼前の敵が刃に倒れるとその廊下の先、広い入口をした部屋から新手がぞろぞろ出てくる。拠点に違いと確信したその場所は、ラスナやスーミが酒の相手をしていた食堂だった。


「いっぱい来る!」

「あの部屋がきっと敵の拠点だ、一気にいくぞ!」


 また、逆の出入口から食堂への突入を試みる二人、ケーイチとラスナが廊下の端から偵察していて、まだ気づかれていない。食堂の中には敵がワンサカいるが武器庫を破壊しておいたためか銃を携えているのは大分少なく、ケーイチは珍しく銃を携える奴と強そうな大男の背に狙いをつけた。


「二発分援護する。あの銃持ってるやつとデカいのを倒すから、他のを頼む。そしたら俺も続くで」

「逃げないでよね、ちゃーんと来てよ」

「わかってるがな。そら、突撃!」


 一気に廊下を駆け抜けてケーイチは出入口で停止、小銃のストックを肩付けすると素早く発砲した。まずは敵銃手、倒れるのと前後してラスナが跳び剣を振りかぶる。突如首から血が噴き出て頭が割られた味方があるとなれば、背後から襲われたことを自覚せざるを得なかった。振り返った大男が雄叫び上げケーイチに突進し、彼はもう一挺の小銃に持ち替えて撃ったが、胸板を貫いたのにも関わらず相手の威勢は衰えなかった。


「わーっ!」


 寸前小銃を逆さにして振り下ろし脳天を直撃、大男の動きは止まったが、一瞬目を瞑っただけで魔の手は喉元に向かった。捩じるように掴まれて絞り上げられ、大男の悪態は耳に入らない。


「舐めたマネしてくれるじゃねえか、ああ⁉」

「し、死ぬ死ぬ死ぬ・・・」

「このまま逝け!・・・がっ!」

「なにやってんのよあんた!」


 だが救いの女神は駆けつけてくれた。ラスナが剣で大男の首を叩きつけ、彼女はそのまま返り血一滴浴びず肩を踏み台にして華麗にジャンプしてみせた。飛び降りざまにまた一人討ち取る。


「ああ女神サマ天使サマ、愛してる!」

「早く戦いなさい!」


 また馬鹿なことを、と呆れた視線が飛んだ。死体を横に退け鈍器となった小銃を構えて、ラスナ程の活躍は期待できないが疲れて弱った敵ならと、息の上がる奴を見つけ出しては殴りかかった。一人、二人と、横殴り縦殴りして戦闘不能程度にはダメージしていき、小銃に付着した大男の血で掌が貼り付く。三人目、同じように殴りかかったが、そいつは拳銃を隠し持っていた。ハンマーを上げるのと同時、ケーイチも拳銃を抜く。


「あっこの野郎!」


 銃声が重なり、敵の銃は耳元だった。左耳がキンと鳴り激痛が走る、手を添えてみると鮮血が薄く掌に着いて、今し方射殺した敵のものではない、おまけに音を拾わずぼやんと麻痺していた。


「鼓膜やられた!」

「なんですって⁉︎」

「左だけだけど、いかん、聴こえん!」

「エミリアに治してもらって!ほら、来た!」


 ラスナに向くと鋒で今入ってきた出入口の対角線上にある扉を指した。見ると扉が光りそこにいた敵は弾き飛ばされ、二人の影が白煙を引き裂き登場した。ハルトとエミリア、こんな再会の仕方だからかラスナを見つけた時より一層懐かしさが増す。エミリアは二人を見つけると嬉しそうに笑い、背負っていた物を投げた。


「ケーイチくん、ラスナ、受け取って!」


 ケーイチのジャケットで作られた包み、投げ渡されて開くとカービン銃に大型自動拳銃、弾帯もちゃんとある。涙が出そうになって、血で固着した小銃を掌から剥がして持ち替えたカービンに装填すると残りの敵を撃った。


「待ってたぜ!オラ、近代兵器を喰らえ!」


 ラスナも大剣を受け取り、また手元にはビキニアーマーもある。まさか今着替えるわけでもあるまいと思ったが、彼女はドレスのリボンを外し始めた。


「おい、そんな悠長な!」

「すぐ済む、あっち向いてて!」

「馬鹿言うな、あっ!」


 また敵を一人倒す。だか着替え中のラスナを狙おうとしたのか一人ケーイチを無視して横に逸れた。着替えを見る見ないどころではなく振り向きざまにカービンを構えたが、その敵はラスナに斬り伏せられていた。当の彼女は既に着替えを終えており、髪まで元のポニーテールがたなびく。敵はもう一人もいなかった。


「どうやったのそれ。着替え速すぎん?」

「家で一番戦いやすい服に瞬時に着替えられるように教えられてる、当然よ」

「あらそう」

「二人とも!無事でよかった!」


 ハルトは額に少しだけかいた汗を拭き再会を喜んだ。エミリアもにこやかに近づいてきて、怪我がないかどうか聞いてくれる。


「大丈夫だった?怪我してない?」

「ご苦労さん、助かったよ。エミリア、さっき耳元で発砲されて聴こえにくい、診てくれないか」

「わかった。見せてみて」

「ん」


 壊れずに残っていた椅子を引っ張り出してきて二人は座り、エミリアは両手をケーイチの頭に添えた。だんだんと耳が暖かくなってきて心地が良い、痛みも感じなくなってずっとこうしていて欲しかったが、診察と治療はすぐに終わった。


「うん、鼓膜は破れてないよ。でも何かの破片か火薬かで耳の中が少し傷がついたみたい。治しておいたよ」

「ありがとう。気持ちいいで、もちっとやってほしいなあ」

「なーに言ってんの忙しいんだから。ハルト、敵はどのくらい倒したの?」

「戦い通しで大方やっつけたみたいだ。ここを制圧してから新手の敵も来ないから、主力はどうにかなったみたい。幹部は?」

「第二幹部は部屋で潰れてる、第三幹部は・・・」

「射殺した。生かしておくつもりだったが、捕まえ損ねてね」

「そうか。第一幹部、団長のドントールは?」

「私が第二幹部の相手をしていた時に、途中でいなくなった。戦闘を指揮していたのかもしれないけど見なかったわ」

「どこに行ったのかな」

「逃げ出す算段が?」

「そうかもしれない。逃げ出す時用に何か取り決めがあるのかも。連れ出されてなければ、第二幹部に聞いてみよう」

「案内するわ」


 ラスナは大剣を鞘に納めるとくるり向きを変え、高く踵を鳴らして先導し始めた。やたらと響く足音には、自身に劣情を向けてきたルーグに対する怒りが滲み出ていて、彼の部屋に近づくにつれ自然と速足になった。

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