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副・救世主は悩ましく  作者: 小山モーゼル
第二章 救世始
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第15話 脱獄

 爆発と同時に牢内の囚人は皆飛び起きた。天井が甚だしく揺れ埃が落ち、金貸しが盛大にくしゃみをする。


「な、なんだ⁉︎」

「地震か?」

「いや、爆発だ!」

「調理場か、それとも」

「あの大きさじゃ武器庫だろうよ!」


 事情を知っているケーイチだけは冷静にラスナが来るのを待った。恐乱する牢内で顔色一つ変えないのは不思議で却って目立ち、気づいた町長が詰問した。


「あ、あんた何か知ってるのか!」

「いやまあ知ってるといえば、まあ」

「どうやったんだ!ただじゃすまん、こっちまで殺されちまう!」

「ちょっと待て、勝算はあるんだ、俺はずっとここにいたのに武器庫の爆破なんて、できるわけないでしょ」

「じゃあ協力者が?」

「そのうち来る。待ってんですよ」

「勝算があるだって?聞かせてもらおうじゃないか」

「始まったんだ、聞かせてやりましょう。これは・・・」


 いよいよ計画を話そうと身を乗り出したがそれより早く、廊下を駆ける足音があった。ラスナかとも思ったが見張りが暴行される様子もなく複数の音で、見てみると顔色変えたベドーと見張りであった。


「なんだ、違った」

「イシヅカ!この銃お前のだろ、使い方を教えろ!」


 そう言って取り出したのは奪われていたケーイチの拳銃だった。銃口を向けられていて一瞬ギョッとしたが、知らない武器を扱う注意はあるのか引鉄に指は添えず、また推測通りシリンダーには弾が残っていてるのが判り安心した。ラスナが来る前にここを出られるかもしれない、好機だった。


「俺の拳銃は武器庫で灰だ!だからお前のを使う、見たところフリントも火皿もない、どうやって撃つんだ!」

「じゃちょっと貸してくれ」

「渡すかバカ!」

「持ち去らないよ、撃てるようにするだけだ。持ったままでいいから」


 ベドーは恐る恐る格子に銃を近づけた。ケーイチは、まずはそっと手を触れると全体を撫で、シリンダーをなぞるように両側を指で挟んだ。もったいぶった手つき、ベドーは警戒心より苛立ちが膨れ上がって悪態をついた。


「早くしろよ、なにやってんだ!」

「もうできますってば、ほら!」


 シリンダーを掌で掴みいきなり腕を引き込んだ。思わずベドーの指が引鉄に掛かり力が入るが、ハンマーの上げられていないダブルアクションリボルバーの拳銃はシリンダーを掴まれると動かず、発砲できないまま手首を捻られてケーイチの許に帰した。


「早くこの野郎の腕を!早く!」


 ベドーの額に銃口を押しつけ仲間に叫んだ。町長と宿主が反射的にベドーの腕を押さえるのと同時に見張りも小銃を構える。ケーイチは見張りにも吠えた。


「このまま撃てるんだ!動くんじゃねえ、鍵だ、そら鍵をこっちに投げろ!」

「いてててて!お前ら!言う通りにしろ!」


 見張りは素直に鍵束を出すと牢内に投げ込んだ。庄屋は足下に落ちた鍵束を戸惑いながら拾い上げ房の鍵を探す。開けられたはいいが皆まごまごしていて、小銃を奪うことも指示せねばならなかった。


「銃を取り上げろ!そんで奴らを狙っておくんだ!やいチンピラ、動くな!」


 金貸しと官吏が銃を拾い、官吏の方はちゃんとハンマーを上げていた。発砲動作ができるあたり銃の心得があるのかもしれない。金貸しも真似してハンマーをコックし、銃口を見張りに向けながらケーイチに寄った。


「ど、どうするんだこれから」

「決まってんでしょ逃げ出すんだ」

「しかし大勢の賊がいる、無理だ」

「武器庫の爆破は俺の仲間だ。そんでもっと仲間がやってきて、もう暴れてるはずだ。さっきはこれを言おうとした」

「じゃあこいつらは」

「もういいだろ!離せ!」


 ベドーの悲鳴が上がり、ケーイチは拳銃のハンマーを上げるとより強く銃口で額を突いた。生々しい憎悪、瞳にルビヤ村の火が燃えている。今すぐにでも引鉄を握りたく食指が震えた。


「黙れ!さんざコケにしやがって、生かしておくと思うか!」

「降伏する!許してくれ!」

「死ね腐れ外道!」

「イシヅカ、ほんとにそいつを殺すのか!」

「後で殺す、いや、俺の隊長に判断を委ねる。今はこの牢に」

「そ、そうだ!俺を牢に入れてくれ!」

「嬉しそうに言うんじゃねえタコ!おっさんたちここ出て退路を塞げ。いいか、腕離すからヘタ打つな、おとなしく入れ、ええ⁉」

「わかった、言う通りにするから離してくれ」

「そっとだ、いいか、そっと動け」


 銃口は額を狙ったまま、町長と宿主が少しずつ力を抜いた。やがて格子の隙間にはベドーの右腕が残り、また左腕は片腕掴まれた時の反動で宙にあるまま固まっている。

 その左腕が曲者だった。解放されたベドーは素早く背に隠してあった短剣を左手に抜くと、引っ込めた右腕と入れ替えで凶刃を突きつけた。格子に突っ込まれた短剣はケーイチの前髪を僅かに切り取り宿主の頬を切り裂いた。だがベドーの誤算、誰にも致命傷を与えることはなくケーイチを激昂させただけで、左腕を格子から抜く前に掴まれると、もう容赦はされなかった。


「らァ!」


 銃口が再び額を小突かれるとそのまま発砲、脳天を貫かれた。ベドーは夢中のまま即死して、幹部の死を目の当たりにした見張りは恐怖に身体を動かされる。廊下に立ち塞がる金貸しを突き飛ばし一目散に逃げた。


「逃すな殺れ!」


 ケーイチがベドーを離すと死体は格子にべたんと張りつきずるずると血の跡が辿った。廊下に躍り出て牢場を抜けようと角を曲がる見張り、ケーイチが二発撃って銃声に呼応した官吏が引鉄を握った。かくして、倒れる見張りはベドーの後を追った。


「う、撃っちゃった・・・死んだのか?」

「官吏のオッさん、よくやったよ。クソ、手間ァかけさせて」


 ケーイチは格子の側に戻り死体を蹴り飛ばした。横倒しにされたベドーはこめかみから夥しく出血していなければ生きているかのように目を開いたままで、ケーイチは今更ゾッと悪寒に震えると目を背けた。


「ケーイチ・・・わっ!」


 牢場に走り込んできたラスナが見張りの死体に足を取られ素っ頓狂に叫ぶ。抱えていた小銃や装備が放り出されて、官吏は慌てて再装填を始めた。ラスナは持ち物を拾い上げると敵意がないことを示し、手を振りながら近づいてくる。


「あ、あの子は!」

「落ち着け、味方だよ。あの子が武器庫をやった」

「あ、あんな女の子が」

「女の子だからって甘く見ないで!ケーイチたちがこれやったの?」

「そ」

「惨いことになってるわね」

「生かしておいてやろうと思ったのに、このスカタン、裏切りやがったんだ。しょうがねえだろ!死体が珍しいか!」

「そうよしょうがないことだって解ってる!怒んないでよ、死体だって見たことあるわ。これ、お土産」


 差し出された武器を検め装填済みなのを確認すると町長と庄屋に渡した。武器を持たず残ったのは頬の傷を襤褸(ボロ)で押さえる宿主で、彼にはつい今さっき自らの頬を切り裂いた短剣が渡された。


「そういうことだ、まずあんたたちだけで脱出してくれ。銃が扱える者は?」

「わ、私が。戦争には行かなかったけど軍隊にいたことが」

「やっぱり官吏さんは、そういう経験があると思った。皆に撃ち方を教えてやってくれ。ただできるだけ使わずに済む方がいい、こっそり行くんだ。あっこから中庭に出たら、対角線上の扉に入って、そこから裏口に行けるはずだ。火はなるべく使わず、賊のフリして行け。上手くいったら街に戻り、ドントール団残党がいれば皆殺しにするか捕まえろ」

「あ、あんたは」

「俺はこの子とデートだ」


 ラスナの肩を戯れに抱いてみせると、彼女は驚いて弾き飛ばされた。


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