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副・救世主は悩ましく  作者: 小山モーゼル
第二章 救世始
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第12話 計略

 ハルトたちが街に戻ると、女主人が色をなして詰め寄って来た。思った通りで、ドントール団のチンピラ共がケーイチの連れを探しているという。宿帳に記入したのはケーイチで、バカ正直に本名を書いていたからすぐにバレた。幸い武器の類は隠して偵察に出かけたから部屋を見られても不審には思われず、後で来ると言ったそうだ。


「面倒はごめんだよ、とっとと出てっとくれ!」


 女主人は言うが早いか宿帳の名前に強く線を引いた。チェックアウトの印である。


「ドントールには出てったって言うからね。あんたたちが支度するまで待つから早くおし!」

「は、はい!」


 慌てて荷物をまとめて、ケーイチのカービン銃も彼のジャケットに包んで宿を出た。外ではスーミが待っていて、予想通りね、と溜息を吐く。


「私の店にいらっしゃい、まだ開店前だから。病気の子がいるってことにして匿ってあげる。まさか、ケーイチさんの連れがドントールがよく出入りする店にいるとは思わないでしょ」

「それもそうだ、じゃあお願いします」

「ベッドは一つよ、二人寝れるけど。毛布は余分にあげるから、誰と誰がベッドで寝るか考えておいてね」

「ふ、ふたり一緒に!」


 ラスナとエミリアは思わず声が合った。赤い顔を見合わせて無言の駆け引きが始まるところだが、ハルトは何も感じずにケロリと言う。


「なら、ラスナとエミリアが寝るといいよ。僕は床で」

「そ、そうね、それがいいわ」

「じ、じゃあラスナと一緒に」


 変な慌て方をする二人にハルトは首を傾げたが、スーミは事情を飲み込んでいて焦ったさに少々苛立って彼を小突いた。


「ねえ、ケーイチさんには言ったけど、ちょっと純情が過ぎるんじゃない?いい歳した男の子でしょ」

「え、何がです?」

「あなたと寝たいんじゃないの、あの二人」

「ま、まままさかそんな!」

「ひょっ、そんなわけないでしょ!」

「ね、ね、ね、寝るだなんて、まだ早すぎますよ!」

「ボーヤがボーヤならジョーちゃんもジョーちゃんね。見ていて呆れちゃうわ」


 スーミは大人が子どもをからかうように笑って、三人は何も言えず額から湯気を出すだけだった。

 案内された部屋はやはり商売の場所、妖艶な雰囲気が醸し出されるように作られていて、色気むせ返る香水で頭がクラクラした。


「汚いだなんて言わないでよね、新品のシーツと毛布を出してあげたんだから。お湯はいる?」

「今夜は結構です」

「それもそうね、互いに裸にならなきゃいけないんだから。じゃ、おやすみ」


 パタンと扉が閉じられて静かになる。静か過ぎるのは先程スーミがけしかける素振りを見せたからで、各々冷汗が数滴垂れて、やっとハルトが口を開いた。


「も、もう今日は寝ようか。着替えるならちょっと出てるけど」

「あ、ああ!別にいいわ!今日はこのままで。ねえエミリア?」

「うん!いいよこのままで!じゃあラスナ、寝ようか!」

「ええ寝ましょ!ほんとにハルトは床でいいの⁉︎」

「もちろん!僕は床で寝るのが好きなんだ!おやすみ!」

「おやすみなさい!」


 それぞれの寝床、とはいえ大した広くもない部屋だからベッドの真横にハルトは身を縮め、ラスナとエミリアは向き合って毛布を被った。爛々と見開かれた目は寝付ける気配がない。その上スーミは、重要なことを言い忘れていた。今夜も店は通常営業なのだ。

 客と従業員の話し声は増えてきて、隣の部屋に笑いが響いていたと思うと、しばらくして()()が始まった。女の作ったような声が大きく、薄い壁を通して三人の耳に入るとガバと跳ね起きて音の方を見た。だんだんと行為の音は大きくなり、視線を感じたハルトが振り返るとラスナとエミリアと目が合った。それを合図に盛大に寝床に潜り込むと、頭から毛布を被って今度こそ寝ようと努めた。容易なことではないけれど。


「起きた?朝食よ」


 翌朝スーミが扉を叩くと、かなり時間差があって開かれた。目の下に隈を作るエミリアで、力なく挨拶をした。


「おあようございます・・・」

「おはよう。どうしたの?」

「夜中まで眠れなくて・・・」

「ああ、ごめんね、お店やってること言っておけばよかった」

「おはようございます・・・トイレはどこです」

「左行って突き当たり。ハルトくん屈みっぱなしでどうしたの?」

「いや、その、お腹痛くて」

「あ、なるほど。お大事に」


 スーミはハルトが屈んでトイレに行く理由を即座に理解した。トイレから出ると、おそらく背筋は伸びているはず。ということは、やはり純情は純情で貫いたのだろう。呆れを通り越して感心した。


「奥手なのもあそこまでくると偉いわ」

「なんのこと?」

「ま、あなたたちにもきっと解る日が来るでしょう。ほら、ご飯食べちゃって」

「ありがと。ふわああ」


 ラスナがあくびをして食事が始まった。そのうち戻ってきたハルトの背筋は、スーミが思った通り伸びていた。

 食事を終えてまた一眠りし、今度は目覚めもスッキリ襲撃案を練り始める。力技だけなら大したことはないが、本拠地ともなれば守りは堅いだろうし、統率のとれた守備行動があれば遂行は難しくなる。


「ケーイチが何か行動を起こしてくれればいいんだけどね。でも連絡もとれないし」

「彼はきっと牢の中だろう。牢に入ってる限り、彼の行動を期待するのは難しい」

「どうしたら混乱を起こせる?」

「堅い守りを崩すには中から攻撃をするのが一番」

「病気と一緒だね。病気の相手なら与し易いよ」

「問題はどうやって中に入るか。それも怪しまれず」

「私たち、なんとか顔は覚えられてないわよね?」

「じゃあ誰かがドントールの人に近づいて、仲良くなれればいいのかな」

「でも、それもどうやって。あ、そうだ。スーミさんなら何かいい案があるかも。あの人はアジトに出入りしたことがあるみたいだし」

「昼食を運んできてくれるらしいから、その時聞いてみよう」


 間も無く昼食だった。スーミが食事を運んできてくれたのを見計らい、彼女にも混ざってもらうことにする。


「なるほどね、中からの攻撃されるのは彼らの頭にないんじゃないかしら。自信ばかりあって慢心してるわ、きっと」

「問題はどうやって中に入るかなんです。何かいい考えはありませんか」


 スーミは三人の顔を見比べて、ついでに身体つきもジロジロと眺めた。そして簡単に言ってのけることに、一同は驚きの声を隠せなかった。


「簡単よ、でもボーヤには無理かもね。女の子なら、酌婦として入り込むならきっと怪しまれない」

「酌婦⁉︎」

「あなたたち、昨日のチンピラはドントールじゃないんだけど、他にドントールと接触したことあった?」

「それはないわ。面は割れてないはず」

「ちょうどいいじゃない。あなたラスナちゃんって言ったっけ。私の店の子におなりなさい」

「えーっ⁉︎」

「で、でもそれは」

「強いんでしょラスナちゃんも。なら大丈夫よ、誰か幹部の相手に付けてあげるから、べろべろに酔わせてコトに及ぼうとした時に、襲われる前に襲えばいいわ。あのケダモノたちでもわざわざアジトの中で人前でヤろうとはしないから、二人だけになれる」

「薬でも盛られたらどうするのよ!私まだ、その、し、処女なのよ!」

処女(バージン)なんて、そんなこと見れば判るわ。私が紹介するんですもの。信頼は得てる、そんなことしないはず」

「やっぱりラスナが心配だ、悪いけど他の方法を」

「あっそ、なら私は何もない」


 しばらく考え込む。しかし特にいい案は出ず、確実に中に入り込めると方法と考えるならば、スーミの言ったことは正しかった。ハルトはもちろんそんなことをさせたくない。それに、荒くれ共に酒の相手をするラスナを想像したくなかった。危険すぎる。


「・・・わかった。私やるわ」

「ラスナ!」

「暴動を起こすのだから、私よりエミリアの方が適任だわ。私なら戦える。酔った相手になら、尚更簡単に勝てるわ」

「でも危ないよ。それに、酒の相手だなんて」

「スーミさん、私はお酒を飲めない女の子ってことにしてもらってもいい?」

「ええ、話し相手くらいできればいいわ。唇くらい奪おうとするかもだけど。キスの経験は?」

「ま、まだよ!悪かったわね!」

「なら大事に取っておきなさい。キスされかけたら、後でとかなんとか言ってごまかすことね。男は大概それで大人しくなるから」

「ご忠告どうも。私を、それっぽく着飾って」

「はいはい」

「待てよ!」


 ハルトは声を荒らげた。ラスナは自らの使命を受け入れたかのように冷静で、スーミと部屋を出て行こうとするとゆっくり振り返った。ハルトの心配してくれる瞳が嬉しく、少しだけ頬を染めた。


「ありがとう、心配してくれて。でもなるべく早く助けに来てね。中で暴れて、ついでにケーイチも解放して待ってるから」

「行かせたくないんだ、本当に」

「わかってる。そう言ってくれるのが嬉しいわ。エミリアをよろしくね」


 扉が閉じられて二人は取り残された。ハルトはその場に座り込むと頭をかきむしって苦悶が顔に浮かび、エミリアがそっと肩に触れた。


「ハルトくん、ほんとうに優しいね」

「でも、もっといい方法が思いつければ。あんなことさせずに済むのに」

「ラスナはきっと大丈夫、強いんだから。簡単にやられちゃうような子じゃないよ。それにすぐ助けに行けばいいんだから」

「それはそうだけど・・・」

「私たちもがんばろうよ。ね?」

「エミリア、君の力にかなり頼ることになる。手伝ってくれるか?」

「もちろん、私には私の仕事があるんだから」


 とん、と胸を叩くエミリアは、ラスナはこんなに心配されていることがちょっと羨ましく思えてしまった。だがハルトの優しさは平等で、信頼を確かめるように手を握った。エミリアの心臓が跳ねて、きっとやり遂げようと、思いを新たにする。

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