第10話 案内
スーミの案内でドントール団アジト付近まで来たのは夕方近くになっていた。馬を借りての回り道、ハルトの後ろにラスナ、スーミの後ろにエミリアが跨がる。丘陵の影に馬を置いてスーミの指差す先、300デール程の向こう側に小集落があって、全体がアジトと化しているという。
「あそこよ。きっとケーイチさんは人質と同じ場所にいる」
「どのあたり?」
「さあ、一度行ったことがあるくらいだから。そう、大きな門が見えるでしょ、あそこから入って左の突き当たりを曲がって家に入って、そこの廊下どれかを辿ると幹部の部屋。実は私の店の子で捕まってる女の子がいるんだけど、その子の牢屋の窓は中庭に面してた。男の牢もきっと近いはず」
「うんうん」
ハルトはスーミの話を聞きながら頭に図を描いていった。そして如何にしてケーイチを救出しドントール団を殲滅するか。幸い件のアジトが本拠地で、ここを壊滅させればそれぞれの地区で暴れる残兵は統率を失って散り散りになるはずだった。
横に立っていたラスナがハルトを肘で突つく。ついでに怪訝な目をスーミに向けた。
「ハルト、ちょっと」
「なに?」
「来て」
袖を引っ張られてエミリアも一緒に馬の所まで戻る。屈むと耳に唇を寄せ小声で言った。
「勢いで来ちゃったけど、あの人信用できるの?」
「ドントール団の幹部がスーミさんの店に出入りしてたんだよね」
「そう。ケーイチだってあの人に嵌められたのかもしれない。私たちだって、今まさに罠にかかってるかもしれないのよ」
「でもこれで本拠地が判った。それにケーイチが今日訪ねることは知らなかったはずだよ」
「数人がかりでケーイチを襲ったんでしょ。計画的じゃない」
「私のこと、怪しんでるみたいね」
知らぬ間に、スーミは馬の背に身体をもたげて上から三人を覗き込んでいた。ギョッとした弾みで立ち上がり、特にエミリアがオタオタと弁解を試みた。
「ち、違うんです、そういうわけじゃ」
「いーえ、そういうわけよ。当然よ、アンタはドントールと繋がりがあるとしか思えない」
「ケーイチさんは話したのね。昨日のことを」
「ええ。幹部がいたって」
「ま、怪しまれるのは仕方ないかもね」
「ハルト、エミリア、下がって!やっぱり罠よ!」
ラスナは昼間ナンパされた時のように、今度はハルトも背に守って身構えた。冷汗が一滴垂れて乾いた地面を濃く色づけ、スーミは神妙な顔でラスナを見つめていた。ハルトは、これまで襲撃の兆候も気配もなくやはり罠とは思えなかったが、いやに張り詰めた空気に緊張せざるを得ない。数秒、数十秒経ったか、急にスーミが吹き出してひらり馬を飛び越えた。
「違うのよ、私は味方。私のせいでお客さんになった人に何かあったら、それこそ申し訳ないわ。私の店に幹部が出入りしてるってだけで、何も協力関係にあるわけじゃない。むしろ、さっきも言ったけど私の店の従業員が囚われてる。幹部は店まで来て遊んでいくけど、きっとヒラの賊の餌食にするためね。私は何の力もなくて、危ない橋を渡れなかった。でもあそこに囚われてる子に、助けるって約束してる。だからあなたたちに協力するの」
「なぜ?僕たちはただの旅人かもしれないのに」
「ハルトくんっていったっけ、あなたの市場での大立ち回り、見事よ。力のある勇者でなくて?お嬢さんたちも何か力があるって感じた。そう確信したから、本当はケーイチさんが連れ去られた後どう振る舞ったらいいかを教えるだけにしようと思ったけど、あの悪党どもの討伐を、ううん、人質の救出だけでも、今お願いします」
深々と頭を下げて、彼女は感極まったのか涙を落とした。ラスナも、自身に詰めの甘さがあるとは感じつつ、目の前で助けを求める女性を信じるようになった。臨戦態勢を解き、三人はスーミに歩み寄った。
「わかりました。必ず助け出します」
「仕方ない、信じるわ」
「スーミさん、疑ってごめんなさい。でも、あのまま宿にいて安全かな。ケーイチくんの連れ、私たちをドントール団が探していたら」
「私は街のことならなんでも知ってる、隠れる場所も用意するから任せておいて」
スーミはパッと笑い涙を弾いた。広々とした月が昇り、街へ戻る騎兵隊を映し出した。




