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副・救世主は悩ましく  作者: 小山モーゼル
第二章 救世始
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第7話 ドントール団第三幹部

 翌日昼近く、まずエミリアの目が覚めて最後ケーイチが起こされた。朝食が供される時間でもなく宿を出て、市場で適当にパンやら果物やら買い求めて食べた。主武器は携帯せずケーイチだけ肩掛けの鞄に拳銃を忍ばせただけ、しかし格闘術巧みなハルトとラスナに護身程度の武器は必要なく、エミリアも、防御用の器具くらいならすぐ製錬できるという。

 ハルトがリンゴの欠片を飲み込み全員の食事が終わった。


「じゃあ、昨日話した通りに」

「うん、私はエミリアと一緒に、この市場でドントールらしき人物を探すのよね」

「僕は家々の路地裏を回る。ケーイチ、一人で大丈夫?」

「昼はあの店に連中は来ないだろう。スーミ、昨日の女を探して話を聞いてみる」

「頼むよ。でも、もしドントール団がいたら無理せず戻ってラスナとエミリアと合流して。拳銃持ってるけど、使わないように」

「騒ぎは起こさないようにするさ」

「それじゃ2時間後に」


 各々頷き合って、ハルトとケーイチはそれぞれの目的地に散った。振り向くとラスナとエミリアが市場の店を巡り始めるのが見えて、心なしか楽しそうに見えた。


「女の子がショッピングモールに来りゃ、そりゃウィンドウショッピングの始まりってか」


 ケーイチはシグ煙草をパイプに詰めて一服、この香りをきっかけに、スーミだけでなく他の煙草喫みたちからも話ができたらと思ったが、道行く人々に反応はない。しかしそんな安易な考えを持っていたのは当初だけで、夜は見えなかった街並みに次第に心奪われていった。思えばこの世界に来て以来休日以外で街を歩いたことはなかった。

 平日午後、大学の授業がない日に歩いた名古屋伏見、よく晴れた日、外回りの営業マンがまばらに、静かだった。ビルの影にぽつんと置いてある、どこの管理下かも判らない灰皿の側でくわえる煙草、雲が一点の空に煙が消えていった。この街の影になった白壁にも、同じ心地よい冷たさがあって、夏の日によくやるみたいに背中をつけて熱を逃した。

 これでミリオン座があれば完璧なのにと、小さく笑うと昨日の店に着いた。もちろん開店前であろう、娼婦は一人も立っておらず窓から中を覗いた。酒場の装いを持つロビーのカウンターに親しみある女の背があった。変に安心したケーイチは扉をノックする。

 

『はい。どなた?』

「俺だ、昨晩のケーイチ」

『まあ!』


 スーミの声で扉が開けられるかと思ったがそうではなく、自分で押しても開かない。開店時間以外は開けたくないのだろうか。しかし声を潜める態度が不自然だった。


「裏口、に回ろうか?」

『帰って』

「そ、そう邪険にしないでも。違うんだ、客としてじゃなくて、ちょっと聞きたいことが」

『違うの、今はだめ。あなたは来ちゃいけないの」

「どういうこと?とにかく顔を出してくれないか」

『だめったら、とにかく・・・あっ!』

『スーミ、誰が来たんだ』


 もう一つ声がした。聞き覚えがあって、間違いなくドントール第三幹部と名乗った男のもの。なら、今は話を聞くわけにはいかない、しかし慌てて踵を返そうとするも手遅れで、乱暴に扉は開いた。


「あら、あらあら」

「お前、昨日の客か」

「その節は随分失礼を。あのロマン利益集団大ドントール団幹部の方とはつゆ知らず、お見それいたしました」


 こうなってしまえばヤケで、取り入って情報を引き出すしかない。適当なゴタク並べて媚びへつらい、男はおかしな顔しつつ笑ってケーイチを招いた。


「解ってればいいんだ、入んなよ。開店時間前だが何の用で来た」

「はい、その、私は彼の国の貴族王族領主老中藩主の息子でして、実に国際的な事業を行う商社を任されております」

「よくわからんが、とにかく地位は高いんだな?」

「おそれながら、経済的にかなりな地位を獲得していると自負しております。ここには休暇で参りましたが、数々の貴重な品をドントール団様がお持ちになっていると耳に挟み、是非ともそのいくつかをお譲りいただき輸入したいと思い立った次第です」

「見込んだ通りだ。残していったシグ煙草で、そうなんじゃないかと思ってたよ。ちょうどいい、俺もあんたの経済力を睨んで頼みたいことがある。奥の部屋で話さないか」

「願ってもないことです、是非とも」


 手を揉みながら男の後をついていくと冷たい視線、スーミが腕を組み蔑んでいた。冷汗垂らして彼女の方を見るとつんとそっぽを向き、みっともない男の姿に呆れかえっている。痛々しい態度に胸まで弁明がつっかえて、より身を縮めて部屋に案内された。スーミの部屋で、男はベッドに座るとケーイチに椅子を勧めた。


「名乗ってなかったな、俺はベドー。あと昨日言った通りドントール団第三幹部だ。団長の二個下の地位だ」

「それはそれは、力の有るお方でいらっしゃるのですね」

「あんたの名前はスーミから聞いてるよ、イシヅカ・ケーイチってんだろ。変わった名だ」

「お名前を覚えていただいて恐悦至極。名前のことはよく言われます」

「どこの国から来た?」

「ええと、それはですね、ミカワという国です」


 自分で言っておかしくなる。相手が日本という国を知るわけがないのだから正直にそう言ってもいいようなものを、地域名三河を国に格上げして口走った。ベドーと名乗った男は不思議な顔をする。


「聞いたことないな。シグ王国連合諸国か?」

「諸国外の新興国でございます」


 シグ王国には、直轄領の他連合の名の下に幾つかの国を配下に置いていた。昔のソビエト連邦のようなものである。その他有名無名の国々は数えきれぬほどあるというから、知らない国があっても不思議ではない。


「そうか、なら俺が知らないことはあるだろうな。輸入となれば、新興国の方が割がいい」

「今は国を挙げての文化施設の設立に動いていますから、もし輸入を許していただけるなら相応の見返りも」

「まあ飲めよ」


 ベドーは机にある酒瓶を取りグラス二つに注いだ。まず彼から口をつけたから毒の心配はなさそうで、懐柔せんとケーイチもグラスを掲げた。


「ドントール団の安泰を祈って」


 口に含むとウィスキーの如く強い酒、喉を焼いた。焼けた後は上気して身体が軽くなり、やはり普通の酒だった。やけに注いでくるのを断っても悪印象を与えかねないから酒量は増えていく。

 情報といえるような言葉を自然に引き出すため多少遠回りに会話を進めた。どんな品物を持っているかという事が中心であるが、ベドーが時折調子に乗って、如何にして街や村を襲撃し調度品を略奪していったか具に語る様は不快で、いつ自分の顔つきが豹変しやしないかと抑えるのに苦労した。酔いも手伝って罵倒が飛び出そうになるのにも困った。まざまざと思い出されるルビヤ村襲撃の夜、煮えくり返るハラワタもこの連中を滅ぼすためと、ぐっとこらえる。いい加減フワフワしだして、目的果たさぬ前に潰れてはたまらぬといよいよ重要な情報を聞き出さんと声を上げた。


「ベドーさん!いかに貴重な商品を持っていらっしゃるかよっくわかりました。つきましては、そのお品物を是非ともこの目で拝見いたしたいと思うのですが」

(ブツ)はアジトだ。連れていってやろう」

「そうですか、ありがたい、じゃあ早速そのアジトへ!」


 ケーイチは思い切り立ち上がり鞄を肩にかけた。首尾上々、偶然だがこうも上手くいくとは思わなかった。油断させておけばこっちのもの、あとはアジトに乗り込んで位置と悪行の数々を記録して、持ち帰り策を練る。ハルトたちの力を使えば討伐は容易いだろう。ザマアミロ、皆殺しにしてやると、ほくそ笑む。しかしベドーは立ち上がらず、歪んだ口元で立てた指を振った。


「でもなあイシヅカさん、物を見せるために連れて行こうとは思わねえんだ。それに売るつもりもない」

「なんですと?」

「おい、やれ」


 ここまで散々商談めいたことをしてきたのに今更全否定、そして「おい、やれ」とはどういうことなのか、強張る身体は酔いに任せて斜めに傾いた。やれ、とは少なくともケーイチ自身に向けられた言葉ではないはずだった。何をやられる?間違っても楽しいことではないだろう。

 危機が迫りくることを理解して鞄に手を突っ込み、やっと拳銃を探し出して掴むと羽交い絞めにされた。ベドーではない、幾人かの男がケーイチを取り押さえた。完全に罠に掛かったと、気づくのには遅すぎる。見知らぬ異国の商人名乗る若造相手に易々と取引するほど甘くはなかった。拳銃は発砲する前に取り上げられ、頭上の影を見上げるとベドーがぼやけて見えた。直後顔が踏みつけられる屈辱を味わい鼻が潰れてくしゃみが出る。


「みっともねえなあ、昨日はすごすご引き下がって今は媚び売った癖にこんなザマで。しかも物はもらえず金だけは出てくことになるんだからな」

「て、テメー、俺をどうする・・・」

「うるせえ」


 踏みつけていた顔を、今度は頭を蹴り上げる。身体が上から下に、急に泥酔したケーイチは気絶同然にノックアウトされた。朦朧とする意識の中、手足縛られて頭の上から爪先まで袋が被せられた。

 ケーイチは袋のまま裏口から運び出されて幌馬車に放り込まれた。その様子を中からスーミは目撃していて蒼ざめ、引き留めようとするもタッチの差で馬車は出発してしまった。慌てて部屋を確認すると、ケーイチもベドーも、ドントール団のチンピラもなくモヌケの空。


「大変だわ・・・」


 ケーイチをみっともない男と見損なったばかりだが、それでも良質の客であったことは確かで、余分に金をくれた恩もある。助け出してやりたかった。スーミは途中の掃除も投げ出して表に出て、市場と宿場通りに走った。街には、昨晩迎えに来たケーイチの仲間がいるはずだった。

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