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副・救世主は悩ましく  作者: 小山モーゼル
第六章 異世界残侠伝
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第13話 フイズの病床に際し

 昇降装置の上で死んでいた二人は昇降装置を動かす作業員だった。手口はフイズの場合と似ている、喉を突かれて胴にトドメを刺されていた。そして当のフイズは、エミリアの治療により一命は取り留めたが、それも彼女がつきっきりで魔力を送っている生命維持装置となっているからで、絶命も時間の問題だった。

 あれから二日、シャルとジネットの二人も、依然行方不明である。


「楽隊の連中は?」


 付近にいた楽隊、これが有力な情報源となるのだが、ルロットに挨拶を済ませると次の仕事があるからと早々に街を後にしたらしい。ハルトとケーイチが聞き込みに、舎弟たちとレッタは周囲の道を探してくれたが、彼らの姿を見つけることはできなかった。


「だめです、どこにもいないです」

「そうか、お疲れさん。次の街まで大分あるから、どっかにいそうなもんだけど」

「フイズさんの様子はどうなんですか?」

「寝たまま弱り続けて、いつ逝っちまうかわかったもんじゃない。エミリアが魔力を送ってくれてるおかげで、苦しんでる様子はないけど」

「ハルトさんたちの方はどうでした?」

「僕の方もだめだ。確かに血の付いたマントを着ていた男を見たっていう人はいたけど、誰なのかもどこへ行ったのかもわからなかった」

「そうですか・・・」

「おい、ルロットさんとこ行ってみようか」


 三人連れ立ってルロットの寝室に向かった。一番広い彼の部屋でフイズは寝かされている。血気盛んな舎弟たちは却って傷に障ると遠ざけられ、いるのはフイズ含めて四人、ルロットとエミリア、それに彼女のサポートとしてラスナも側に座っていた。ほとんど寝ていないエミリアの顔色は疲労が覆い、ラスナは汗を拭いてやったり食事のスプーンも口に運ばせていた。ルロットは、ほとんどどころか全く寝ずに食事もとらずフイズの枕元に鎮座しているのだが、険しい顔を作ったままに、しかし一切の疲れを見せなかった。


「ルロットさん寝てないんでしょう。少し横になられては」

「お気遣いありがとう、でも眠くないからいいの。それよりエミリアさんこそ少しはお休みになって」

「私はいいんです。さっき寝かせてもらいましたから」

「そうなのかラスナ」

「ほんの少しね。でも、ほんとうに休みなさいよ」

「ううん。私はこれくらいしかできないから」

「しかしエミリアのおかげかね、フイズは気持ちよさそうに寝ておる」


 すっかり冷めた、フイズが起きた時のための食事をどかしてケーイチが座った。苦痛が緩和されているのか穏やかな寝顔を見せるが、弱々しい呼吸に体温は下がっていた。喉の傷は新しい包帯に替えられてエミリアの治療もあり、血を滲ませることはないが、割れる声帯付近の鮮血は記憶に新しい。


「対策しなきゃならんでしょ」


 些かぶっきらぼうにケーイチは言った。フイズが運び込まれた時、彼は大層な確信を短絡的に持ってゲーシン一家が犯人であることを告げたし、舎弟たちも皆思いを同じくしたのだが、ルロットは危険な憶測であると一蹴して殴り込みを戒めた。殴り込みまでをケーイチが主張したわけではないが、実際対立する相手であること、それにシャルとジネットが消えたことに関連しては、数日前の対峙から全く無根拠でもなかった。だのに、目に映る消極的な態度は苛立ちもさせた。


「どうするんです、敵に目途がつかないんしょ」

「ちょっと、ケーイチ失礼よ」

「いいのよ、その通りだわ。目途がつかないからこそ対策は必要よね」

「シャルだってジネットだって行方がわからないんです。あんまり悠長なこともしてられない。調べるくらいしてみりゃいいじゃないすか」

「調べてもらった結果は聞いたわ」

「違いますよ、ゲーシンです。彼の縄張りだけ立ち入ることすら禁じた」

「付け入られる理由は何とでもなるわ。抗争を起こす気?」

「そこまでは言いません。0か1しかないんですか」

「0と半分の良い考え、聞かせてもらおうかい」


 急に怖がらせてくる声、今度ばかりは卑怯だと思った。負けじと睨み返してみるも、責め立てる割にはケーイチにこれといった妙案が考えられたわけでもなく、ぶつかり合う視線がいたずらに空気を重くさせた。ルロットはいからせていた肩を僅かに下げ、溜息吐くように言った。


「何も考えが無いわけじゃないわ。ただ、いつ実行するのかを迷っているの。いえ、実行するかどうかも」

「なんですそれは」

「また、おいおい話すわ」

「そうですか」


 睨み続けた疲れはすぐに出て、それ以上問いただすことはしなかった。何か考えがあるのならいいだろうと、あぐらかいた膝に肘をつく。結果ルロットに責任転嫁したみたいな気で、自分だけ吠えたてていたのが痛々しく思えた。

 くわえようとして止めた煙草を取り落とす。紙巻はフイズの手元に転がり、戯れに指に挟んだ。紙の隙間からこぼれる葉、彼の手が震えていた。


「エミリア、痙攣ってあるもんなのか?」

「今までは確認してない。痙攣もしないほど弱ってるから」

「手が震えてる」

「え⁉︎


 エミリアの驚きと共に薄く瞼が上げられた。ようやく訪れた目覚め時、だが頬からはますます血色が引き始め、死相が現れようとしていた。口元が開き舌が動いている。何かを伝えようとしているのは誰にも判ったが、裂かれた声帯は全然癒えておらず、声の出るはずもない。フイズは指に触れたトマトスープの椀に食指をつける。エミリアの手がさらに光った。


「なんだ、なんて?おい、フイズ」


 随分と長い時間がかかった。彼はケーイチたちには馴染みのない人の名らしき字を床に書いた。ゲーシンではなかった。だが、ルロットはカッと目を見開いてフイズへにじり寄った。


「確かなのね」


 緩い瞬き一つしながらフイズは頷く。彼は弱々しく腕を上げて、ルロットはしっかりと手を握った。


「ありがとうね。あとのことは心配ないからゆっくり休みなさい」


 優しく微笑えまれ、フイズは安心したように目を閉じた。ルロットの掌から指がすり抜けて毛布の上に落ち、旅立ちの合図。エミリアの荒い息ばかりが場を制し、喘ぐように言葉を混ぜた。


「・・・お亡くなりになりました。すみません、私の力が及ばないばかりに」

「いえ、あなたは本当にがんばってくれたわ。お礼のしようもありません。とにかくよく休んでください」

「はい、すみません、ありがとうござ・・・」


 そのままエミリアはフイズの遺体の上に崩れた。ハルトとケーイチがゆっくり立ち上がり彼女を運び出そうとしたが、それよりも早くラスナが抱きかかえ部屋を後にした。退室の直前、瞑目し深々と首を垂れた姿に合わせて日本人二人は合掌する。それはルロットも外にいた舎弟たちも同じくして静かに祈りを捧げていた。


「お酒、供えてあげなきゃ」


 レッタが部屋に入ってきてから初めて口をきいた。彼女は死にゆく人間を前に兄に助けを求めようとしていたのか、ルシーの遺羽のカプセルを握りしめていた。

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