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副・救世主は悩ましく  作者: 小山モーゼル
第二章 救世始
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第2話 近代兵器VS

「力、か。いいよ、力を知っとくのはお互いのためだし。ケーイチも銃の腕を見せてくれる?」

「もちろん。エミリアの作った弾も試してみたいし」


 ケーイチの申し出に、ハルトはなるほどといった風に手を叩いた。ならば純戦闘員たるラスナも誘おうと、小さな荷物を外に持ち出すラスナにも声をかける。だが彼女の答えは実にそっけなかった。


「ラスナ、君もだ。剣の腕を見せてほしい」

「やあよ。ご飯食べてから」

「そんな時間?」

「もうお昼を何時間も過ぎちゃってる。ケーイチのお姉さんに作ってもらったお弁当食べよ」


 弁当はネイトが用意してくれたもので、いつも使っていた筒状三段重ねの弁当箱に革水筒も人数分。大木の下に敷物を敷いて青空の下ランチタイムである。簡単な料理だったが舌鼓を打ってくれたようで、エミリアはもとよりラスナも目尻を下げる。ハルトもにこにこソーセージを口に運んでいた。そういれば、ケーイチは昨夜の麺料理について感想を聞いていなかった。


「美味いか」

「おいしい!」

「ふふ、そうだろう、姉さんは料理が格別上手いんだ。昨日の麺はどうだった?」

「あれね、あれ不思議だった。初めての味で。でもこってりしてておいしかった!」

「おもしろいね、麺をスープにつけて食べるなんて」

「故につけ麺という。ハルトは?」

「おいしかったよ。なんだか懐かしい味だった」

「ラーメン屋の料理だからな。そら似てるかも」

「あれケーイチが教えたって本当?」

「ああ、俺の好物を再現してもらったんだ」

「ふうん、変わったのを知ってるんだ」

「気に入ったみたいだな」

「まあ、ね」


 ラスナが味を思い出して一番はしゃいでいたから、彼女の言う「変わった」は幾らか賛辞が含まれていた。

 食べ終わって馭者の火縄で移火を点け、煙草を一服。エミリアは馬の脚の血行を促す馭者を手伝い、ケーイチとハルトは力比べに使う適当な的を探した。大木の側に底の抜けたバケツが放置されていて、これなら使っても構わないだろう、銃床で叩きつけてバラバラにした。


「これを的にしてやってみよう。まずは俺から」


 ケーイチは、元の世界の単位で言えば大体300m先の人形標的にカービン銃で命中させられるように教育されていた。こちらの単位だと、100デールといわれる。1デール約3mくらいだった。それだけの距離に的を置いてくるのは面倒なので、出来るだけ小さな木片を選んで20デールほど先に置いた。ハルト用に少し大きな的を選んでそれも左に置く。


「右の的に俺が撃つ。カービンなら一応100デール先には命中させることができる。ここからだと20デールだ」

「僕は左だね」

「そうだ。ではやるよ」


 弾倉にエミリアの弾薬を詰めて装填した。ラスナが横から見ていて、静かな場所での銃声は苦手なのか指で耳を塞いでいた。ケーイチも、神の部屋ではイヤーマフとシューティンググラスを付けて訓練していたのだが、転移の時は忘れてしまっていた。腰を下ろして膝撃ちの姿勢、.30カービン弾の音軽く、20デール先の木片は飛び散った。


「エミリアの弾も異常ないな。あれでおそらく、防弾の備えがない敵には致命傷を与えられる」

「お見事!」

「ありがとさん」

「意外に音は短いのね。もっと火の燃える音がするのかと思った」

「まあこんなもんだ。ハルトもやってみてくれ。あの、俺を倒した時の光の玉」

「打撃魔法だね。それ!」


 ハルトは直立したまま、まっすぐ腕を伸ばすと直後掌から光の玉が発射された。細い枝を思い切り振るような空を切る音で、木片は宙に舞って派手に弾けた。カービン弾より威力があるのは明白だった。


「強いなあ、この分だと俺に撃った時はよほど加減してくれたんだ」

「力は、相手をちょっと転ばせることから壁の破壊までできる。こんなことも」


 突如掌から火炎が吹き、しかし精密に操られた炎だった。道に生える草は一切焦がさず、木片の残骸に的確に命中させた。と思うと、今度は、燃料を被せて点火したように燃えている残骸に水を発射し消火した。


「すげえ魔法だ!」

「そう、魔法だね」

「しかし何を取っても勝てないなあ。果たして俺が居る意味はあるのか」

「ケーイチの銃もこの世界では最上の性能を持ってるよ。遠くから連続で撃てるし。それに僕の魔法も、エミリアみたいに何かを作り出すことは難しい」

「それだけありゃ十分だよ。今度はラスナ」

「いいわ」

「君に魔法の属性はない?」

「私の本業は剣と格闘術」

「よろしい。しかし俺は剣と格闘はできない。弾抜いた拳銃を持つから、俺が君に襲いかかるという設定でやろう。防いで無力化してくれ」

「お安い御用ね!」


 ケーイチはカービンを置くとジャケットのポケットにあるリボルバーを出した。シリンダーを開放して弾を抜き、食指は引鉄に触れないように伸ばしてフレームに添える。半デールの向かい側にラスナは立ち、剣吊から鞘ごと大剣を外した。


「撃つ時は口で『バン』だ」

「なんか、気が抜けるようなやり方ね」

「弾抜いたって、本当に撃たない時のための癖はつけなきゃな。いくぞ、バ・・・」


 腰に拳銃を当て発砲音の真似を半分口にした。しかし瞬時に肩を引っ掴まれ横に投げ飛ばされそうになる。慌てて体勢を立て直し、距離を取って「バン」。だが射線の先にラスナの一片もなく、翻った彼女のマントのみ。ビキニアーマーの胸が迫る。咄嗟に胸に銃口を当て、その丸みを堪能する余裕はなく、腕は青龍刀のような柄に弾けられ空に「バン」、そのまま押し倒されて、鞘が首に押し当てられた。ラスナの得意げな顔が上気していて、頬に垂れる汗を薄い唇からのぞく赤い舌で舐めた。


「老練な技使うんだな。負けだよ、俺は死にました。まったく、綺麗な顔してるだけじゃねえんだな」

「そ、綺麗な顔はありがと」

「参ったよ、対拳銃の術もあったのか?」

「これは短刀で迫られた時の護身術。この距離なら、その小さな銃でも同じでしょ。ほら」


 ラスナの手に掴まって立ち上がる。土を払うのを手伝ってくれたが、彼女の汗ばんだ身体には砂一つ付いていない。ふむ、と煙草をくわえてハルトの技で火を点けてくれるよう頼もうとすると、突如頬に感じる風、煙草は真っ二つだった。ラスナは剣を収めると太陽みたくカラッと笑う。


「煙草の喫いすぎ、身体に悪いよ」

「・・・そりゃ、悪かった」


 苦笑して煙草を拾い、シガレットケースに戻すのはやめて握り潰す。ルビヤ村では多くが煙草を嗜んでいたから、喫煙を注意されるのはなんだか懐かしかった。

 ケーイチはふと気づく。二人の格闘を眺めていたハルトの腰にもまたサーベルが吊られていた。銀の鞘に吊環二つと護拳が付き西洋剣の装いだが、長めの柄は両手握りらしい。日本刀と西洋剣の間を取るそれは、博物館で見た明治時代の軍刀に似ている。ラスナはハルトに負かされたと言っていたから、彼も相当な剣士であるはずだった。きっと格闘も強いのだろう。


「ハルト、ラスナとやってくれないか」

「え?」

「剣の方も、君たちがどれほどのものか見てみたい」

「やってみる?ハルト!」

「わあすごい!私も二人の対戦は見たことなかったんだ!」


 馭者の手伝いが終わったエミリアも見に来て手を叩いた。ラスナもやる気漲っていて、ハルトはちょっと考え込む様子。ようやく腰からサーベルを外すと二人は相見えた。


「それじゃあやってみよう。お手柔らかに」

「ハルト相手なら、手加減できないわ」


 ラスナも大剣を取り、自信に加えて真剣な表情、口火を切ると振りかかった。


「いくわよ!」

「おう!」


 鞘と鞘のかち合い、鈍い音が出るだけだが熱気伝わってくるみたいで、ハルトは少し押されているように見えた。ほほう、とケーイチは感心してエミリアに尋ねた。


「ラスナちゃんやるじゃないか。あれで負けたの?」

「そうみたい。でもラスナもすごく強いよ」

「剣士見習いってもあれだけやるんだ、相当な一族に居たんだろうね」

「国でも有名なグライス家、お父さんは王家守護の長だったんだって。戦で立てた武勇数知れず、国中から入門者がたくさんいるの」

「それはそうと、鞘ごとあんなに振り回すの、重くない?」

「すっごい重い。私も持ったことあるけど。あっハルトくんが!」


 形勢逆転、ハルトはラスナを弾き飛ばし迫った。ハルトは嬉しそうだったが、それは勝ち始めたからではなくラスナが幾分か強くなったことに対する喜びだった。


「ラスナも強くなったね!」

「まだまだ、これから!」


 ラスナは渾身の力で押し戻す。だがハルトの方が一枚上手で、素早く背後に回り込むと彼女のつむじに軽く鞘を当てた。


「・・・負けちゃった」

「ううん、ラスナはよくやったよ」

「あのまま家に入門して、剣士としての出世の道もあったのに」

「僕は色んなところで戦わなくちゃ。それに出世には興味ないし」

「欲がないのね、ハルトは」


 負けたもののラスナの態度は気分がいい。ケーイチは拍手をしながら水筒を渡してやった。


「まだハルトには力及ばずか。彼は、まあ、全能らしいからな」

「変な慰め方。でもいつか勝つんだから!」


 馭者が呼ぶ声がする。彼は鞭を持ちいつでも発車の用意ができていた。四人は声を揃えて返事をすると、それぞれの荷物を持ち荷馬車に乗り込んだ。

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