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闇夜の京に鵺二匹  作者: 惜本大祐
第二章 平重盛
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懊悩


 平家の後継者である重盛は、すこぶる評判が良い人物だ。


『穏やかで人当たりがいい』

『常に冷静で頭も切れる』

『情に厚くて頼りになる』

『律儀で嘘をつかない』


 など、おおよそ悪い評判がない。

 さらに武勇もある。

 いまの彼の立場も、一つには清盛の子であるという要因にもよるが、彼自身の武者働きによるところも大きかった。

 とくに数年前に起きた兵乱のときは、敵の勢いを恐れる味方たちを


「年号は平治、都は平安、我らは平氏、これで敵を平らげられないわけはない」


 とユーモアを含んだ演説で鼓舞し、みずから敵中に飛び込んで活躍した。

 そういう彼だから、もちろん上皇からの評価も高い。

 去年には、後白河上皇の子が立太子するのにともなって重盛は春宮大夫(とうぐうのたゆう)という皇太子の家政を管理する職についた。

 今年に入ると、権大納言(ごんのだいなごん)という、現代でいうと閣議に参加する役職にもついた。これは摂政、関白、大臣に次ぐ高い地位である。

 さらに、これは内々のことではあるが、近く重盛に


『東山道・東海道・山陽道・南海道の山賊、海賊を追討せよ』


 という旨の宣旨が下ることになっている。

 これは、いま実際に賊がいるから討てというのではなく


『これからはこの地方に賊が出たら、追討はお前に任す』


 という意味の宣旨だ。

 この四道を足すとほとんど日本全国になるから、文章の裏まで読むと


『日本全国の軍事権、警察権をお前に委任する』


 ということになるだろう。

 さらにもう一つ、平家の内においても清盛が太政大臣の職を辞し、京を離れることも決まっている。公的には清盛は政界を引退して、重盛が平家の棟梁になるということだ。


(さて、私はどうするべきか)


 そんな彼は悩んでいた。

 平家の現状と、これからについてである。

 近ごろ平家の評判が芳しくない。

 御所を歩いていても平家に対する陰口を聞かぬ日はなかった。

 それというのも、日宋貿易の推進や宋銭の導入など、先例を重んじる公家たちには理解できぬような政策を多く進めているから、というやむを得ぬ事情があるにはあった。

 しかし、それだけが理由ではないことも彼にはわかっていた。


(平家が驕っているのは紛れもない事実だ)


 彼の子の資盛(すけもり)など、とくにそうだった。

 まだ幼いのに、平家に蔓延するそういう雰囲気の影響を受けてしまったのか、他家の人間を低く見る傾向があるのだ。

 先日、それを叱りつけたばかりであった。


(どうするべきか)


 一族のだれかれ問わず、そういう振る舞いが見えたら自分が叱りつければいい。

 というほど、ことは単純ではない。

 父の清盛は考えがあって、あえてそう振る舞っている節がある。

 何かにつけて先例や血筋を盾にとる公家たちに対しては、つとめて傲然と振る舞わなければ逆にこちらが理の通らない意見を聞かなければならなくなる、ということもあった。


(とはいえ)


 と彼は思う。

 帝と朝廷は、この国の秩序である。

 それを軽んじるのは秩序を軽んじることである。

 それが高じていけば、ついには乱がおこり、平家の栄華も終わりを迎えるのではないか。

 先の兵乱――平治の乱が起こる以前には、ビクともしない権力を持っているように見えた独裁者信西(しんぜい)入道ですら滅んだ。

 平家だけが無事にすむ道理はない。

 しかもその滅亡は、平家が強大な武力を持っているだけに、周囲のありとあらゆるものを巻き込んだ、大きな戦乱のあとに待っているだろう。


(父は「国を変えねばならん」と言う。それはわかる。そのために力が必要というのもわかる。何百年も変わらなかった国を変えるのだ、よほど強い力がいるだろう)


 そしてそれだけの力を持っているのは、この国には平家しかいない、という強い自負は彼にもある。


(だからと言って、このままでいいのか)


 重盛は悩んでいる。



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