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2-2

氷河は一年中氷と雪に閉ざされた氷竜の峰から永久凍土を抜けて流れ込んでくる。ゆっくりとゆっくりと氷結海に向けて流れ込んでくるのだ。そして、この氷結海もまた、一年を通じて凍りに覆われているが、そこには様々な生物が生息する。氷鳥、白熊、そして一角魚に白鯨。そう、氷結海は決して死と氷の地獄などではなく、彼ら氷結海に生きる生き物たちにとっては豊かな恵みをもたらしてくれる大切な生活の場なのである。


 ~ファルド帝国風土記より氷結海に関する記述より抜粋~


 ◇


 翌朝。

 吹雪いたのは昨夜だけ。今日は雲一つ無い快晴だった。


「ミーナ、荷作りも終わったことだし、そろそろ出発しようか」

「うん」


 エリアスは動物の腱を束ねて作った縄を手にソリを引く。腰に佩いた魔剣の柄に、作り物のうさぎが揺れる。

 ミーナはソリを押す。

 つるりと動き、ソリは走り出した。ミーナは縄を手にソリの前方、つまりエリアスの隣へまわる。


「行こう、ミーナ。南へ向けて出発だ」

「うん」


 エリアスが号令し、ミーナが続く。

 二人のソリは白銀の大地を今日ものんびりと。

 雪原が煌く。

 辺りは見渡す限り、太陽の光を反射し白い輝きに溢れていた。


「ねえミーナ」

「なに?」


 ミーナは槍を杖代わりにしてエリアスへ顔を向ける。


「ミーナはこれから向かう"帝国"のこと、どれだけ知ってる?」

「んーと、ほとんど知らないかな」

「そうなんだ」


 ミーナは一瞬だけエリアスと視線を逸らし、また視線を絡ませる。

 頬は緩んでおり、未知の場所への期待に溢れていた。


「うん。でもエリアスがそんなに行きたがってるということは、きっと素晴らしい場所なんでしょ?」

「これは俺の父さんが話していたことなんだけど、村よりも、もっともっと多くの人がいて、たくさんの物で溢れていて、美味い食事があるらしい」


 ミーナの笑顔が煌いた。


「美味しいご飯?」

「そうそう」

「楽しみ!」


 ミーナが遥か遠くへ目をやる。

 エリアスも遠くに目をやった。


「だろ? 俺も楽しみだよ」


 二人はソリを引いてゆく。


 ◇


「エリアス、上から来る!」

「爪に気をつけてミーナ!」


 黒く巨大な影が二人を染める。

 太陽と二人の間に入ったそれは、蝙蝠の翼を思い出させる。鋭い嘴、巨大で鋭利な鉤爪。黄色と青のしま模様が見える。


「ねぇ、あれが伝説のドラゴンなの!?」

「わからない。違うと思いたいよ!」


 剣を抜いたエリアスは、敵の滑空に備えて正眼に剣を構えた。

 英雄ヴァルトの剣はその刃から、揺らめく紫色の影を濃密に放っている。


「来るぞミーナ!」


 エリアスは剣を握りなおす。失敗は許されない。


ユマラ様、英雄ヴァルト様、どうか私とエリアスを助けてください!」


 ミーナの祈りは光球の生み出した。炎の種を圧縮した玉だ。


「奴が急降下した! 突っ込んで来る!!」


 黄色い外殻に青の縞模様のある細い体は思ったよりも身軽そうだ。

 急降下後の敵は翼を雪の大地と鋭角に──風圧で雪が爆発した──いや、翼と雪原が平行になるよう強引に保ちつつ、砂塵ならぬ氷雪の上の粉雪を巻き上げながら二人目掛けて真正面から飛び込んでくる。


ユマラ様!」


 ミーナの祈りと共に光の玉が敵に吸い込まれ──火球ファイアボールが轟音と共に炸裂し火達磨となる。

 だが炎など何とも思わないかのように、その怪物は爆発の中から悠然と姿を現し、炎を全身に纏わり付かせながら二人の前へ躍り出る。

 

「ダメ、火球ファイアボールが効かないなんて!」


 怪物の鉤爪が目と鼻の先に迫る。ミーナの表情が恐怖のそれに固定され、エリアスがミーナの肩に手をかけると、


「きゃぁ!」

「伏せてろミーナ! うぉおおおお!」迫り来る怪物目掛けて跳んだ。

 怪物がミーナの鼻先を捕らえようとしたその瞬間、エリアスは重い剣を振るう。だが硬い。彼は腕の痛みに耐えつつ、両手で剣を支える。

 ──怪物は圧倒的だった。力任せの突入は怪物の全体重を乗せていたのだ。エリアスの剣は圧し返され、彼は怒りに任せて吼える。


「畜生、俺だけの力では駄目なのかよ! チッ! 英雄ヴァルトよ、俺に力を貸してくれ!」


 剣から紫の光が迸る。

 すると今までの苦労はどこへ去ったのか、熱したナイフがバターを切るかのように、軽い剣は化け物の両足を切断する。

 紫の軌跡が弧を描き、怪物の赤い血が雪原に舞う。

 氷雪を散々巻き上げながら、敵は悲鳴を上げつつ雪原に落ちた。


「なあ英雄ヴァルト……」


 エリアスは最早痙攣を繰り返すのみとなった怪物に歩み寄り、魔剣でその首を刎ねる。


「俺は駄目なのか? 俺だけでは駄目なのか!?」


 その、最早動かぬ屍骸を眺めつつエリアスは一人、魔剣に聞いていた。


 ◇


「翼竜?」

「翼を持った大蜥蜴ダイナソーの仲間だよ。たぶん」


 ミーナは翼竜の炙り肉に噛み付きながら聞いてきた。


「炎を吐かなかったろ? それに、腕や脚らしきものも小さくて。胴体も細い」

「エリアス凄い! どうしてそんなこと知ってるの?」


 エリアスは溜息一つ、


英雄ヴァルトの力を借りた瞬間、英雄ヴァルトの知っていた事が頭の中に流れ込んで来たんだ」

「それ凄い! なにそれ!!」


「落ち着け、話すから落ち着けよ」

「うん、落ちつく落ちつく」と、鼻息荒くミーナ。


 エリアスは翼竜についてミーナに話した。翼を持つ巨大な大蜥蜴ダイナソーのことを。


「全部俺の知らないことばかりだった」

「うんうん、でもそれって今後、エリアスがうまく使っていけるといいね!」

「そうだな」

「私がユマラ様を受け入れることが出来たように、エリアスも早く英雄ヴァルト様と仲良く出来たら良いね!」


 エリアスも肉を齧る。

 噛むと塩味の効いた肉汁が染み出る。翼竜の肉は鳥の肉に近い味がした。


《俺の中の英雄ヴァルトを認めろ、か。ミーナの奴、知ったような事を言いやがって。でも、そうなのかもしれないな》


 エリアスは肝をむ。翼竜のきもは苦かった。


 ◇


 何度、太陽と月は昇ったのだろう。そして幾たび、太陽と月は沈んだのだろう。

 エリアス、そしてミーナはその日、朝焼けと共に目を覚ます。

 呪文の光源を挟んだの隣には、今日も「うーん」と伸びをするミーナがいる。

 彼はテントの外に出る。今日もまた昨日と変わらぬ、しかし新しい光が彼の目を射る。

 今朝もまた、太陽はまためぐってきたのだ。


「おはようエリアス」


 エリアスには、なにもかもが眩しく見えた。

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