第67話 黒幕
「う~ん。むにゃむにゃ。」
「師匠!!そろそろ起きないと会議に遅れますよ!」
「うん。分かってるよ、うん。」
「早く支度してくださいよー!」
寝惚けた頭を覚醒させていく。
どうにも朝は苦手だ。これは前世から変わらずなのだ。朝が得意な人と何が違うと言うのだろうか?
どうでも良い事を考えていると。
「師~匠~~!」
「はーい!もう起きたよ。すぐに準備するから!」
どうにも、うちの弟子は口うるさい母親のようだ。
まぁ、それだけ面倒見が良いと言う事かな。
身支度を整えたので、冒険者ギルドへと向かう。
「サラは今日もスミスさんの所へ行くのか?」
「はい。会議が終わった後にお邪魔する予定です!」
「迷惑にならない程度にしとけよ。」
「はーい!」
冒険者ギルドに到着すると、クラナが出迎えてくれた。今日は3階のギルドマスターの部屋で話し合うそうだ。
クラナに案内してもらい部屋に入ると、メンバーは既に揃っていた。俺が最後のようだ。
「これで揃ったのう。では早速だが皆に集まって貰ったのは、報告したい事があるからじゃ。」
「荷馬車襲撃の件ですね?」
ゴードンさんが片眉を上げて見やる。
「そうじゃ。実行犯に尋問した結果、この件には黒幕がおったようじゃ。」
「やっぱりそうか。」
スミスさんがポツリと呟いた。
やはりあんな小悪党の犯行だなんて誰も思っていなかったんだな。
「爺さん、それで誰が黒幕なんだい?」
「尋問の結果、出てきた名前なんじゃがのう。かなりの大物じゃった。」
「爺さん、勿体つけずに教えてよ。」
「あぁ、その黒幕とはのう。サン・ジューク男爵じゃ。」
周りの皆は目を見開いて驚いている。
「さんじゅうく?誰それ?」
どうやら俺だけそいつを知らないようだ。
「し、師匠。サン・ジューク男爵と言えば王都でも名家の貴族ですよ!?」
「そうじゃ。それに洗礼を受けた教会の関係者としても高位の人物じゃ。」
「へぇー、有名人なんだね。」
「そうじゃな。知らない方がビックリじゃ。」
「それにしても。そんな大物がなんで荷馬車なんか襲わせたんだろうね?」
「そうじゃな。その辺りは下っ端共には知らされてなかったようじゃ。」
「それは厄介ですね。原因が分からねば対策も立てようが無いですよ。」
ゴードンさんが頭を抱えてしまった。
「それにのう。更に問題があるんじゃ。」
「えぇ、まだあるんですか?」
普段は冷静なキリカさんまで取り乱している。
「うむ。昨日なんじゃが、北側の森でダンジョンが発見された。」
「えっ!ダンジョン!!」
俺は思わず食い付いてしまった。
異世界と言えばダンジョンでしょう!
やっぱり1度くらいは行ってみたいと思っていたのだ。
「それはまた厄介だな。冒険者ギルドとしてはどうするおつもりで?」
「うむ。幸いにも発見が早く、まだ若いダンジョンだそうじゃ。」
「では、魔物の氾濫の危険性は低そうですね。」
「そうじゃな。なので冒険者ギルドとしてはダンジョンの攻略を優先し、ボス討伐はしないつもりじゃ。」
「そうですね。その方が魔石や素材など、ダンジョン資源が手に入りますからね。」
爺さんとスミスさんの話についていけない。
どうするかは見識のある人達に任せよう。
「では、ダンジョンは冒険者達に内部の攻略を。森周辺の調査は狩人達に依頼を出すとしよう。」
「問題はサン・ジューク男爵ですね。」
苦い顔をしてゴードンさんが呟く。
「相手の目的が分からないなら調べるしかないんじゃない?」
「ガルド、相手は貴族様じゃぞ?」
「それなら同じ貴族様に相談するしかないよ。ゴードンさん、ウィルへ手紙を用意して貰える?」
「あぁ、それは構わないけど。なんて書くんだい?」
「ロック商会の大旦那と面会をお願いして欲しいんだ。」
「ガルド、大丈夫なのか?相談しても味方して貰えるとは限らんのじゃぞ?」
「うん。それは分かってる。」
「むしろ貴族同士の関係性次第ではお主の身が危うくなるんじゃぞ?」
「うん。だから俺が行くよ。俺なら世間知らずの若造が暴走したって事で片付けやすいだろ?」
「ガルド・・・」
「それに、俺にも考えがあるしね。」
「ふむ。無理はしてくれるなよ?」
「うん。大丈夫だよ。」
「ならば、そちらはガルドに任せよう。ゴードンはウィルとの連絡を頼むぞ。」
「分かりました。」
今日の会議はこれで終了。
お昼をかなり過ぎてしまったな。
でも、爺さんにはまだ相談しないといけない事もあるし、ダンジョンについても教えて欲しい。
「爺さん、この後に昼飯でもどうだい?たまには奢ってよ!」
「なんじゃ?珍しいのう。別に奢ってやらん事もないが。」
「よし、じゃあ決まりね。」




