第7話 精製スキルで実験しよう
冒険者ギルドから家へ帰る途中。
向こうからリンダさんが歩いて来るのが見えた。
「こんにちは、リンダさん。」
沢山の食材を持ったリンダさんに挨拶をした。
「あんらぁ~、ガルドじゃないの。もう元気になったのかい?」
リンダさんは老舗の宿屋の女将さんで、特に料理が美味しいと評判なのだ。食堂としても利用できるので、俺もちょくちょくご飯を食べに通っていた。
「もうピンピンしてますよ!それにしても相変わらず、すごい量の食材ですね。」
食材が溢れんばかりに入った買い物カゴを俺は見ながら言う。しかも両手に持っている。リンダさんはとってもパワフルなのだ。
「あっはっは、みんながいっぱい食べてくれるからねぇ~、持ちきれなかった分は配達してもらってるよ。」
確かに、リンダさんの所の料理は美味しいからな。ついつい食べ過ぎてしまう。
俺が料理の事を思い出していると、グゥーギュルギュルと俺の腹が鳴った。
そう言えば、朝から何も食べていなかったな。
「あんらぁ~、アンタお腹空いてるのかい?林檎で良ければ食べるかい?」
リンダさんは買い物カゴを一旦地面に置くと真っ赤な林檎を1個くれた。
「リンダさん、ありがとう。遠慮なく頂きます。」
俺はお腹も空いていたので有り難く林檎を受け取る。
「ウチにもまた食べに来るんだよ。大盛りにしてあげるからね。」
リンダさんは再びパンパンの買い物カゴを持ち直すと良い笑顔を見せて帰って行った。
俺は家がすぐそこなのだが、我慢出来ずに林檎を齧りながら歩いて帰った。
家に戻ると、まずは一休みする。
そして買って来た素材を持って工房へと移動した。
早速だが色々とスキルを試してみたいからな。まずは精製スキルで魔玉を作ってみるかな。
袋から魔石の欠片を10ケ、数えながら取り出し作業台の上に並べていく。
魔石の欠片は2センチ程度と小さく、虹色のガラス片の様な感じだ。
並べ終えると一つにまとめて小山を作る。
そして俺は両手を欠片に向けて唱える。
「・・・精製・・・」
すると、欠片が淡く光り出し、小さな煙も出てきた。
煙はすぐに消えていき、そこには小さな虹色の玉があった。
「これが精製スキルかぁ・・・」
俺は出来上がった魔玉を手に取りながら観察する。
小さなビー玉ほどの大きさで欠片よりも虹色が鮮明になっている。魔玉は魔力を使い切ると透明なガラス玉になる。虹色の濃さが魔力の残量の目安となっているのだ。
ちなみに属性魔力の魔玉も存在する。
火系統なら赤、水系統なら青、風系統なら緑、土系統なら橙。虹色は無属性となっている。
属性魔力の魔石や欠片は、その属性の魔物から獲れる事が多いのだが、比較的強い魔物が多く市場に出回る事は少ないのだ。
「これくらいならほとんど疲れないな。」
頭の重さもダルさもわずかにしか感じないので、俺は次に実験をしてみる事にする。
10ケの欠片で同じように小山を作り、今度は念じてスキルを使う。
『・・・精製』
無事にスキルは成功した。
出来上がった魔玉を見比べても遜色ない。
疲労度は念じた方が若干抑えられたように感じた。
「なるほどな、次の実験に移ろう。」
またまた10ケの欠片で小山を作り念じる。
さらに念じる際に、魔力以外の不純物が取り除かれ、煙となって消えるイメージを追加する。
『・・・・・精製』
今回も無事にスキルは成功した。
見比べてみても品質に問題はない。いや、むしろこちらの方が中心部の色が濃いように感じる。
そして疲労度はあまり感じない。
「うむ、やはりスキルは使用する際のイメージが効果や消費魔力に影響するようだ。なかなか良い実験結果が得られたな。」
ちょっと休んだらもう少し実験してみよう。
俺は台所で食事の用意をする。手軽に済ませたいので、パンと干し肉に野菜のスープだ。庶民の食事はこの程度なのだ。しかもパンは固いのでスープに浸さないと食べれないな。
前世の豊かな食生活の記憶がある分だけ、今のこの食生活が少し辛く感じるな。前世の記憶が思わぬデメリットを生んだものだ。
手早く食事を済ませお茶を淹れてから工房へ戻る。
「さてと、続いては。」
袋から20ケの欠片を取り出して盛る。
ちょっと大きな小山が出来たらスキルを念じる。倍の量の素材を1個の魔玉に注ぎ込むイメージをする。
『・・・・・精製』
煙も2倍ぐらい出ている。成功かな?
煙が消えるとそこには2個の魔玉があった。
「あらら、これは狙いが外れたな。」
素材の量を増やせば魔力量の多い魔玉が作れるかもと思ったのだが、そう上手くはいかなかったようだ。イメージもしっかりと出来ていたのだが、結果はご覧の通りだ。
頭がダルい。さっきの2倍以上の疲労を感じる。これはおそらくスキルの使用で無理があると補正がかかるのだろう。そして補正が働くと魔力を余分に使ってしまうのだろう。
お茶を飲んで頭を休ませる。
「これで納品用の魔玉は準備できたな。明日にでも納品に行こう。」
俺は一仕事を終えた満足感を味わう。