第39話 不思議な出会い
とりあえず詰所に行って入場料を払った。
サラだけは市民なので身分証の提示だけだった。
一応だけど外に3人組が倒れている事だけは伝えておいた。
兵士の人達も都市の外で起こった事については管轄外だ。
保護するかどうかはお任せするとしよう。
もう暗くなっているので早く宿を決めよう。
サラは自宅があるのでお勧めの宿を教えてもらったが、ラブラさんが言うにはそこは高級な宿らしい。
そんな贅沢はできないので、ラブラさんが泊まった事のある宿に俺も泊まる事にした。
運良く空いた部屋を2つ取れたので、ラブラさんとはお隣の部屋だ。
腹ペコなので宿の近くの食堂で夕食を済ませた。
「ガルドくん、さっきの魔導具はガルドくんが作ったの?」
「さっきの3人組のやつですか?そうですよ。」
「そうなんです。師匠は雷属性を使いこなしているんです。凄いのです!」
「まぁ!複合属性を使いこなすなんて本当に凄いわ。」
「サラ、簡単に情報を言ったらダメじゃないか。次やったら破門ね。」
「そ、そんなぁ。」
「ふふふ、サラちゃんの実家はどの辺りなの?暗くなったから送ってあげましょうか?」
「あ、少し離れてますけど大丈夫です!」
「じゃあ、俺が送ってあげるよ。ついでにご両親に挨拶ぐらいしとかないとな。」
「いえいえいいえ、本当に大丈夫です。」
「やっぱり危ないと思うわ。近くまでは送ってもらった方が良いわよ?」
「じゃあ、そろそろ行きましょうか。俺が送って行きますんで。」
「え~。」
渋々のサラを連れて道案内をさせる。ラブラさんは先に宿に戻ってもらった。
王都の中心街の方向へ歩いて進む。
中心街の大通りに出るとサラがここまでで良いと言い出した。
実家まで送って行くと言っても聞かない。
もうすぐそこだと言うので、仕方ないのでここで見送った。
大通りには街灯があるので大丈夫だろう。
ちなみにこの街灯は俺のじいちゃんのガルバン式ライトが採用されている。
しかも辺りが暗くなると自動で灯りだす回路まで組まれている。
俺も早く宿へ戻ろうと近道をしようとしたのだが、どうやら道に迷ってしまったようだ。
そこの角を曲がればさっきの道に出ると思ったのだが・・・全く知らない道に出てしまった。
そんな事を繰り返している内に、遂には現在地が分からなくなってしまった。
暗い小道を抜けて、少し開けた倉庫前のような場所に出てしまった。
「やあ、お兄さん。こんばんは。」
背後の方から声をかけられた。
振り返ってみたが、誰もいない。
「こっちだよ。」
声が聞こえたのは大きな木箱が積まれた上の方からだ。
目を向ける月を背にした人影が1つ。
そしてサッと音もなく着地するとこちらへと近づいてくる。
マントとフードで正体は分からないが、月明かりに照らされ美しく輝く銀髪が少し見えた。
「お兄さんはどこへ行こうとしているの?」
「それが、道に迷ってしまったんだよ。三日月亭って宿に行きたいんだけどね。」
声と口調から、相手は少年のようだ。
なんともミステリアスな雰囲気の少年だなぁ。
「それはお困りだね。三日月亭ならこの道を真っ直ぐ行って、大通りに出たら左の方面だよ。」
「あ、そうなんだ。ありがとう、助かったよ。」
「お兄さんには暗い道は似合わないよ。明るい道を進んでもらいたいなぁ。」
「ん?そうだね。大通りなら街灯もあるし、そこからなら分かると思うよ。君も、もう遅いから早く帰った方が良いよ?」
「うん。そうする。」
「それじゃあ、有難うね。」
「うん。じゃあね。」
歩いて少し進んだが、少年が去った気配も音もしない。
まだ帰らないつもりなのか?と振り返ると、少年の姿は既に無かった。
いつの間に帰ったのだろうかと疑問に思いつつも、俺も早く宿に戻りたいので教えてもらった道を急いだ。
宿に戻った頃にはすっかりと遅くなってしまっていた。
部屋に入り、明日に備えて早く寝ようかと思っていると。
隣の部屋からシャワーの水音が聞こえてくる。
この宿は各部屋にシャワーが完備されているのだ。
昔に来た時には無かったのだけど、さすがは王都、サイモンの町に比べれば文明が発達しているなぁ。
ベッドも柔らかいし、今夜は良く眠れそうだ。
シャワーの水音と一緒に鼻歌も聞こえてきた。ラブラさんだ。
ラブラさんがシャワーを浴びながら鼻歌を歌っているようだ。
シャワー中のラブラさんをちょっとだけ妄想してから、俺もシャワーを浴びた。
シャワーから出て寝巻に着替えた時に、部屋の扉がノックされた。
「ガルドくん、戻ってる?」
「あ、ラブラさん。今開けます。」
扉を開けると湯上りのラブラさんがワインを持って立っていた。
湯上りに寝巻姿がとってもセクシーです。
「少し付き合ってくれない?」
「いいですよ。どうぞ。」
部屋の小さなテーブルで乾杯する。
ラブラさんは1人で既に飲んでいたようだ。
近くで見ると少し赤ら顔でいつもより陽気だ。
しばらく飲んで談笑していたが、ラブラさんがケラケラと笑うと、その度にノーガードの胸が揺れている。
どうしても視線が奪われてしまう。
「ふふ、ガルドくんも好きね。」
「え?」
「ガルドくんはきっと凄い人物になるわ。」
「え、そうですか?」
「手を見せて。」
手を差し出すと両手で持って手相を見るようにマジマジと観察された。
「やっぱり、そうね。」
「なんで分かるんですか?」
「女の勘よ。」
不意に手を引かれて唇を奪われた。
驚いて目を見開く。
目の前には美しいラブラさんの顔があるだけだ。
さらにラブラさんは持っていた俺の手を自分の胸に押し当てる。
深く柔らかな谷間に包まれて俺の思考は停止した。
唇を離したラブラさんは悪戯っぽく笑っている。
「もっと凄い人になったら、今度は君から口説いてね。」
ウインクをするラブラさんがこの日の最後の記憶だった。




