第38話 王都到着
2日目の馬車の車内はとっても空気が悪かったです。
3人組は俺をめっちゃ睨んでくるし、お尻は痛いし。
おまけに雨が小降りだけど降ってきたので、昼食も車内で済ませないといけなかった。
息が詰まるこの状況を社畜時代に培った耐え忍ぶ心で、何とか乗り切ったのだ。
馬車は雨でスピードが落ちたのか、中継点に到着したのは夜になった頃だった。
ここの中継点は宿場として宿屋も食堂もしっかりとあるので、今晩はベッドでゆっくりと眠れそうだ。
お腹も減っているので先に食堂で夕食を済ませてしまおう。
「ガルドくん、私も夕食を一緒にして良いかしら?」
「ええ、良いですよ。」
「今朝はごめんなさいね。私のトラブルに巻き込んでしまって。」
「いえいえ、そんなお気になさらずに。災難でしたね。」
「同じ冒険者として恥ずかしいわ。お詫びに今日は私にご馳走させてね。」
「そんな悪いですよ。俺は何もしていませんから。」
「でも、絶対にあの3人組の恨みを買ってしまったわよ?」
「あぁー。それは面倒ですねぇ。でも仕方ないですよ。」
「本当に申し訳ないわ。だからせめて夕食ぐらいはね。この食堂はチキンが名物なの、一緒に食べましょう。」
「わぁー!私、チキン大好きです。」
「そいつは楽しみですね!」
名物のチキンは丸焼きだった。丸々1羽なので3人でシェアしても十分なボリュームがあった。
味もスパイシーな仕上がりになっており、とっても美味しかった。
そう言えば、鶏肉ってサイモンの町ではあまり見ないな。
使っている香辛料も違うみたいだし、やっぱり旅の醍醐味はグルメだよね。
美味しい食事に満足したので今晩の宿を取る。
用心をしてラブラさんも同じ宿にするそうだ。
1人部屋が空いていたので、サラとは別々の部屋を取ろうとしたのだが、サラが怖いなどと言い出した。
ラブラさんにも同じ部屋にした方が安全だと言われたので、仕方なく2人相部屋にした。
流石にこの夜は特に何も起きなかった。
朝起きると、隣のベッドでサラが寝ている。
寝巻きが乱れていて白い太ももが露わになっている。
朝から大変な事になりそうなので、見ないようにして身支度を整えた。
天気は昨日と変わり快晴だ。
早朝の清々しい空気を味わおうと外に出ると、御者のおっさんがランニングをしていた。
「おはようごぜぇまーす!」
「おはようごさいます。走っているんですか?」
おっさんは俺の前まで来ると、その場でスクワットしながら話し出した。
「そうだす。朝の鍛錬だす。ご一緒にどーだす?」
「あー、じゃあ少しだけ。」
おっさんは俺のペースに合わせてくれて、話をしながら一緒にランニングした。
宿場の周囲を3周した所で俺は息が上がってしまったので休憩する。
おっさんは俺の前で杖を使って素振りを始めてしまった。
素振りの間も俺がおっさんに色々と質問をした。
おっさんの名前はルドルフと言うらしい。
そして、素振りをしている姿を見ても只者では無いように思えてしまう。
「ルドルフさんは何者なんですか?」
「今は馬車屋で御者をしとりますだ。」
「昔は何を?」
そこから少しだけ昔の話をしてくれた。
若い頃は王国軍に所属し、辺境警備隊として各地を回って魔物や賊を退治していたそうだ。
だから変な訛り方をしているのだろう。
しかし戦いに明け暮れた歴戦の戦士の腕前は今も錆び付いていないようだ。
「そんなら、そろそろ朝飯にして、食ったら出発しますどー。」
「はい。お邪魔しました。」
食堂に行くとサラとラブラさんが食後のお茶を飲んでいた。
俺も軽めの朝食を済ませて出発の用意をする。
今日の夕方には王都に到着だ。
そう思えばお尻の痛みにも睨まれるのにも耐えられそうだ。
案の定、相変わらず恨みの視線を送って来る3人組。コイツらは飽きないのだろうか?
王都に着いても何か問題が起きそうな、そんな不安を抱えながら遂に王都へと到着した。
馬車は城下町の外で降りなければならない。
城下町へ入るのにも検問があるのだ。
門兵の詰所へと歩いていると、予想通り3人組に絡まれた。
「おい、坊主。こないだは大層な口を叩いてくれたなぁ!」
「もう、あの男もいねぇからな!逃がさねえぞ。」
「観念するんだなぁ。」
ラブラさんがマントの下で武器を構えた。
俺は手でラブラさんを制してから前に出た。
「貴方達も飽きないですね。まだ何か用があるんですか?」
「おうおう、相変わらず舐めた口を利きやがるなぁ!」
「痛い目を見ないと分からねえみたいだな!」
「やっちまえよ!」
3人組が不快な笑みを浮かべて近寄って来る。
「それならコレをあげるよ。」
俺も笑顔を作り、懐から小さな鉄球を3つ取り出して3人へそれぞれ投げ渡す。
それを3人が受け取った、その瞬間。
3人は気絶して倒れていった。
「え?え?何が起こったの?」
ラブラさんは困惑してキョロキョロしている。
「あれは師匠の魔導具ですよ!」
サラが自慢気に解説している。
俺は3人から鉄球を回収してから詰所へと歩き出した。
「それじゃあ、行きましょうか。」
いよいよ王都だ。
もう面倒なトラブルはごめんだよ?




