第2話 目が覚めたら現状を確認しよう
コンコンコン
ノックの後にガチャリと部屋の扉が開いた。
「よー、ガルド。目が覚めたか。」
渋く俺に声をかけながら部屋に入って来たのは、ジャックさんだ。
彼はこの町で唯一の医者で、俺の父親とは仲の良い酒呑み友達だった人だ。
俺はまだ頭がぼーっとしていた。
「なんだぁ?まだ意識がハッキリしてないのか?」
ジャックさんが俺の顔の前で手をヒラヒラとさせている。
「あっ、ジャックさん。おはようございます。」
俺は慌てて返事をした。
「おう、具合はどうだ?」
ジャックさんはそう言いながら、近くの椅子に腰掛けた。
「はい。身体の方は大丈夫そうなんですが、何がどうなったのか・・・ゴブリン達に襲われそうになったのは憶えているですが。」
俺は手足が問題なく動く事を確認しながら返答した。
「あぁ、どうやらお前はその直後、落雷に巻き込まれたみたいだな。ゴブリン達と倒れていたそうだ。たまたま運良く冒険者が通りがかってお前をここまで運んでくれたんだとよ。本当に幸運だったな。」
ジャックさんは優しい目を俺に向けてくれている。
心配をしてくれていたようだ。
「そうだったんですか・・・その冒険者の方は?」
「ああ、森で狩りたい魔物がいるらしくてな。早朝から森へ入って行ったらしい。しばらくは戻らないそうだぞ。ふあぁ。」
ジャックさんは小さく欠伸をした。
もしかして、俺の看病で寝不足なのか?
「お礼を言わないとですね。ジャックさんもお世話になりました。」
「俺は仕事だからな。冒険者はリンダの所に宿を取っているらしい。狩りから戻ったら知らせるように言っておいてやるよ。」
欠伸で溜まった涙を拭いながら、ジャックさんは答えてくれる。
「ジャックさん、ありがとうございます。」
「ガルド、お前。何か変わったか?」
ジャックさんが訝しげな顔を向けてくる。
ヤバい!前世の記憶が統合されて、俺の人格に差異が出来てしまったか?
ここは惚けておいた方が良いよな?
「そ、そうですか?雷に打たれたからですかね?」
俺は全力で惚けた。上手くいったか?
「話し方も変わったと思うがなぁ」
ジャックさん、なかなか鋭いな。
「そ、それは、俺もそろそろしっかりしないとな!って思いまして・・・成長ってやつですよ!!」
むふふ、俺の機転もなかなかのものだな。
「ほぉー、そうなのか。それは良い事だが、もうお前もいい大人だ。もうちょっと早くにそう思うべきだったなぁ。」
ジャックさんはニヤリと悪戯に笑っている。
ぐふ・・・さすがは医者。的確に痛い所を突いてきやがるな。
俺が心のダメージに耐えていると。
「まぁ、具合が悪くなったらまたすぐに来い。とりあえずは大丈夫そうだからな、もう家に戻ってもいいぞ。」
どうやら上手く誤魔化せたようだ。
「はい。お世話になりました。」
俺はベッドから下りて、お礼を言う。
「おっとそうだ、治療費を払うの忘れるなよ?」
ニヤリと笑いながら彼は部屋を出て行った。
ジャックさんも抜け目ないなぁ・・・
今の持ち合わせは・・・無いな。
後で払いに来よう。
とりあえず俺は自宅に戻った。
自宅の場所も町の人達のことも問題なく記憶にあったので助かった。
さてと、俺はお茶を淹れて居間で寛ぐ。
まずは状況を整理しないとな・・・
これからの生活もあるし、正直に言うと、まだこの現状を完全には把握できていないのは些か不安なのだ。
俺は淹れたてのお茶を一口啜る。
ずずずっ
「あっち!!」
そうだ、現世の俺は猫舌だった。
前世ではアツアツのコーヒーでも平気だったのだが・・・まぁ別に大した問題でもないな。
体質もだが、現状についてしっかりと確認しておかないとな。
現状の俺は天涯孤独の身だ。
祖父が高名な魔具師の家に生まれ、俺も魔具師の仕事をしている。
幸運にも、住む家と仕事はあるのだ。
家と職があるのはとても心強い。
魔具師と言うのは、魔法の力を利用して便利な道具=魔導具を作る職人さんの事だ。
この世界では、光を灯すランプや火を起こす竃の魔導具などが一般家庭でもよく使われている。
それらの魔導具を修理したり、魔導具の動力源となる魔玉を作って今までは日銭を稼いで暮らしていた。
自分の中にある魔具師や魔導具の知識を確認していく。
「うーーーむ。」
どうやらガルドの俺は魔具師として知識も技術も持っていたのだが、それらをうまく活用できていなかった様だな。
簡単な仕事で日銭を稼ぎ、それで満足をしてしまっていた様だ。
しかし、さすがは爺ちゃんが高名な魔具師なだけはある、俺の中には多くの魔具師の知識と技術がしっかりと受け継がれている。
爺ちゃんは若い頃に王都でも活躍していたらしく、その後にこの町へ移ったそうだ。そんな感じの事を酔っ払った爺ちゃんから聞いた記憶がある。
確かに、我が家の魔導具は爺ちゃんの作品が多いのだが、どの品も質の高さが分かる一級品ばかりだ。
そんな爺ちゃんも3年前に亡くなってしまっている。
生前の爺ちゃんは珍品好きだった。
我が家の工房の奥には、爺ちゃんが集めた珍品と言う名のガラクタが放置してある。
「あの珍品たちは、確かまだ置いてあったよな。今度漁ってみようかな!」
俺はうーんと伸びをする。
「最初は不安だったけど、家も仕事もあるし、なんとかなりそうだな!」