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蝶は月夜に夢を見る

作者: 遊月奈喩多

こんばんは、なろう更新が久しぶりな遊月です!(お待たせしています)

今回は短編です♪

月明かりが綺麗な日に書き始めました。

では、本編スタートです!!

 窓から差しこむ蒼白い月明かりが、部屋の床を静かに照らしている。無機質な光の中で、何の変哲もないはずの家具が装いを変えて、祖父が遺してくれた大時計が立てる振り子の音もはっきり聞こえる。

 そんな静かで、そして暗いようで明るくもある夜には。


 まるで何かに誘われるように外に出てしまう。これはもう、数年続いてしまっている。


 月明かりの下で夜風に吹かれていると、日頃のしがらみだとか色々なストレスを忘れていられる。

 以前は月の光にはルナティックっていう不思議な力があって、人を高揚させる……なんてよく言ってたけど、もしかしたらそうなのかも知れない。

 だって、そんなものがないという証明はされていないから。

「~♪」

 鼻唄しながら、いつも味気なくみんなの足蹴にされている通学路を歩く。

 建設段階で企画が頓挫して、中途半端に組み立てられた鉄骨とかが数mという中途半端な大きさで放っておかれているだけの廃墟を見つめる。

 同級生が「ここほんと怖いから!」とわたしが怖いもの苦手なのを知っていて薦めてきた廃墟の前は、早足で通り過ぎる。

 彼とよく来ていた公園で、足を止める。


「…………」

 ふと気が向いて、『ななくさ公園』という風化しかけた字が彫られている石の柱の脇を通って、敷地内に入る。


 月明かりの中で静かなまま止まっている公園は、まるで役者を待つ舞台に見えたから、思わずその中心に立ってみた。

 その瞬間、待っていたもの。


「わぁ」


 あまりに目まぐるしく感情が動き過ぎて、もうその言葉しか出なかった。

 それほどまでに、強い気持ち。

 解放感?

 逸脱への憧れ?

 歓喜?

 孤独?

 さぁ、よくわからない。

 美術史とか日本史の近現代辺りの範囲で出てくる人を真似て言うなら、感情は爆発だ!……って感じ?

 いろんな気持ちが(はじ)けて、もうそれだけで色々押し潰されそうで、だからわたしは慌てて目を背けた。

 主役気取りの端役の影から、スポットライトだとでも言いたそうな夜空の月から。

 代わりに、2つ並んだブランコの片方に座って小さく前後に揺れているお兄さんを見ていることにした。

 カッチリしたダークスーツ姿に、黒めの髪。黒ずくめ……とか思ったけど、首から下げられた大きな金のネックレスが、ブランコのキィキィいう錆びた音に混じってジャラジャラと少し耳についた。

「……んだよ~、ミカ来ねぇのかよマジ使えねぇ!」

 携帯に向かって汚い罵り言葉を浴びせている姿なんて…………、そんな姿は、

 ……………………

 今、なにと比べようとした?

 そんな不毛なことをする為にわたしここに来たんだっけ?

 ぐるぐる回る頭の中には、奥底まで沈めていたのがどんどん浮かび上がってきている。

 止めたくても止められない感情が声をあげてしまう。それで、何もかもを駄目にしたのに。


 だから、思い出さなくていい。

 そう警鐘を鳴らす理性に反して、記憶はどんどん溢れてきて。


 たぶん「人を好きになる」っていう形そのものに憧れていたあの頃。いろんな人を好きになって、いろんな感情を向けられて。たぶん全然わたしのことなんか見てくれてない人とも付き合ったりして。傷つけて、傷ついて。

 そうやってきたわたしは、たぶん初めて「運命」だと思ったんだと思う。

 学校の先輩……だった人。今年の春に卒業して、今は大学生だ。

 改めて思い返すと、なにか特別なことがあったわけでもない。少なくとも、彼にとってはたぶん誰にでもできる、ごく当たり前なこと。


 だけど、ボロボロだったわたしには、その優しさはちょうどよかった。

 もう全部壊して捨ててしまいたかったわたしには、あまりにちょうどよく突き刺さる優しさだったから。

 だからその優しさに、ほんの少しの間甘えた。

 彼は、優しいけどその分人を拒むことができない、弱い人だったから。疑うことをよしとしない、純粋な人だったから。そういうわたしの感情に気づいていたかはわからない。

 いろんな所に行った。

 遊園地だったり、水族館だったり、時々彼の部屋でゆっくり過ごしたり。

 そういうことを積み重ねたけど、彼にとってはきっと全部が、初めて会った時の延長だったに違いない。


 初めて会った時――前に付き合っていた人からたくさんの言葉を浴びせられて、その中には思い出すだけでどうにかなってしまいそうな言葉もあって、でも全部反論の余地がなくて。

 それでどうしようもなくなった感情を吐き出そうと、立ち入り禁止の屋上に上がった。


 何をしようとしていたわけでもない。

 何をするプランも立っていなかった。

 だから、何をするかわからなかった。


 そんなわたしが屋上に上がる階段を上りきったとき、屋上に通じるドアの前にいたのが彼だった。何をしていたのかはわからない。だけど、彼のかけてくれた『あ、どうしたの?』という心から心配したような表情での言葉に、わたしの何かが溶けた。

 この人なら、きっと話したことを笑ったりしない。

 話したことが翌日クラス中に広がってることもない。

 変に歪められた「わたし」が一人歩きすることもない。

 そういう安心を感じさせてくれる人だった。そんな彼の前だからか、わたしの気持ちは一気に溶けた。いきなり泣き出したわたしに、彼は困った風だったけど、それでも話を最後まで聞いてくれて、慰めてくれて、それから何となく気にかけてくれるようになった。


 あぁ、そうか。

 結局はそういうことなんだよね……。

 だから、彼にほかの大切な人がいたって、わたしには何も言えない。その人との付き合い方について相談されても、何とか考えて、わたしだったらこうしてほしい……そんな風に胸の中に温めていたものを分け与えて、その温度だけわたしの心がどんどん冷えていって。

 それでも、仕方のないことなんだよね。

「……ふふふっ」

 冷えた心が、思わず笑いを漏らす。

 その声が、たぶんブランコのところにいる黒い男の人にも聞こえたらしい。その目がこっちを向くのがわかった。


「あれ? ねぇ、君ひとり? どうしたの、そんなつまんなさそうにしちゃって?」


 わたしに対して、明らかに見下すような視線を送ってくるその人からは、きっとその「ミカさん」が来なくてイライラしていたのかも知れない。少し早口で、そして、わたしに向けてくる視線には絡み付いてくるようなモノがあった。

「よかったらさ、俺の部屋でゆっくりしない? もう夜に外だと寒い時期だしさ」

 どうしてそんな言葉でたまたま出会ったばかりの女の子が付いて来るって思えるんだろう?

 そう思ってしまうけど、うーん、たぶんそれなりにかっこいい見た目だから、そういうことをしたい人はいっぱいいるのかも知れない。

 でも、ありえないよ。

 だってわたし、好きな人が…………、ううん、違う。好きだった人が……いるんだから。


 普段なら、彼のことから意識を逸らしていられる普段なら、たぶん『ありえない』って思える。

 でも、何でだろうね。

 もしかしたら、初めて会ったときにわたしの傷に反応してくれたこと、わたしのありのままを受け入れてくれたことを、それからもわたしの「恋もどき」に付き合ってくれたこと、運命を信じたままでいさせてくれたこと、いろんなことを思い出したからかも知れない。


 たぶん、この人に付いて行ったらわたしはひどいことをされる。抵抗しようとしてもたぶん許してもらえなくて。

 大切にしてた淡い夢も、運命を信じていられる子どもの時間も、ぎりぎりのところで守ってきたものも、たった一息で終わりにされてしまうのだろう。

 怖い、嫌だ、怖い、怖い。

 体が震える。

 でも、もしかしたら、傷付いてしまったらまたあなたに会えそうな気がして。

 そのときにこの気持ちを全部話したらどんな顔するかな、って思って。

 だから、わたしの答えは。


「え、……いいん、ですか?」

 上目遣いで尋ねたわたしを見返す瞳は、蒼白い光を背景に細められた。


 全て吸い込んでしまいそうな夜空の下、握られた手の温度は……。

前書きに引き続いて遊月です。

皆様、十五夜の月は見られましたか……?(遊月は見られていません)


月って、よいですよね……!


また次のお話で!

ではではっ!!

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