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クラッシャー  作者: モリエッタ
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クラッシャーとは?

いろいろなものを見てみたい。ただただ、見知らぬものを見てみたい。

いつしかそう思うようになっていた。







「え~明日は自由行動日だが、ほかの人の迷惑にならないよう、我が校の生徒であることを忘れずに行動するように。それでは、解散」


先生の話が終わる。今日は修学旅行一日目。廻った場所はどれも真新しいものばかりで久々に心が潤った一日だった。森林の中にある神秘的な神社、たくさんの土産屋、ついには趣のある街路まで、俺は内心ウキウキしっぱなしだった。まぁ他のやつらはそうでもないようだが。


「なぁ彼方、明日の自由行動日な、美紀と被ってるらしいぞ?」


こいつは東宗介、自分の幸せよりも人の幸せを優先しがちな危うい奴。まぁそこんとこを除けば普通にいいやつだ。

両親はすでに過去の災害により他界しており、その時から親戚にお世話になっているらしい。いつか必ず育ててもらった恩を返したいと常々言っている。俺の尊敬する友人でもある



「おお!なんという奇跡!それなら合流しないって選択肢はねぇな!」


美紀・・・西乃美紀というのは俺たちの幼馴染のことだ。何人もの優秀な医者を輩出している・・まぁ名家みたいなところの生まれだ。

それだから俺達よりも頭のいい学校に通っている。彼女自身も当然医者になるべく勉強を頑張っているが、時々家の重圧に耐えられず

俺達(主に宗介)泣きついている姿を見る。どうやら奇跡的に修学旅行の場所と日程が被ったらしい、今回の修学旅行が良い息抜きになるといいのだが。


「だろ?それじゃあ明日を楽しみにしてそろそろ寝るよ。」

「それもそうだな、楽しみすぎて寝不足になるなよ?」

「小学生じゃないんだから、そんなことにはならないよ、おやすみ」

「おう、おやすみ」


こうして運命の日の前夜は、その予兆すら現さずに過ぎた






「ふむ・・・この二人ならどうでしょうか?女のほうが背負っているモノはまぁまぁ及第点といった所ですが、このソウスケという男、この男が背負っているモノは見どころがあります、いかかでしょう?」


広くもなければ狭くもない、そんな石造りと思わしき部屋の中、怪しげな老人と高貴な若い男が部屋に設置されているモニターらしきものを見ながら会話している。


「ほう・・・悪くない、この二人ならば我々を救う力を持つだろう。もしかしたら我々の悲願も叶うやもしれん。ところで、このカナタという男はどうなんだ?」

「こやつめは特に何もない平凡な男ですよ、平凡に生き、特に背負っているモノはありません。このまま召喚術式を作動すれば間違いなく範囲に入ってしまうでしょうが、召喚はされないでしょう

・・・間違いなく召喚の影響で死ぬでしょうがね」

「我々の事情で殺してしまうのは非情に気の毒だが、我々も手段を選ぶ段階をすでに超えている、必要な犠牲と思うしかあるまい・・・」

「仰る通りであります、気に病むことはございません。さぁ!召喚の合図を!」

「よし!勇者召喚術式作動!」


部屋の中心部にある魔法陣のようなものが淡い光を放つ。と同時に、モニターの映像にも変化が起こる。男女3人組の足元に同じような魔法陣が展開され、一瞬、その三人組はモニターから消え、代わりに二人が魔法陣の中心に現れる。


「ここは・・・?」

「いったたぁ・・・なによこれぇ・・・」


二人は状況を把握していない


「やりましたぞ!成功です!!」

「あぁ!そうだな!成功だ!」


状況を呑み込めない二人と、異常なまでに喜び合っている二人、奇妙な空間がそこにはあった。

一方死ぬはずだった彼方はというと・・・








「いてて・・・いったい何が・・・?」


確か宗介と一緒に美紀と合流した後、少しだべってそろそろ出発しますかってときに急に変なのが足元に出てきて・・・


「そうだ!二人は!?」


周囲を見渡すが人影らしきものは見えない・・・それどころか


「いったいなんだ・・・ここ」


少なくとも俺のいたところにこんな場所は存在しない。あるのは刀、刀、刀。普通のサイズの刀もあれば、10mはあるだろう大きな刀(もはやそのサイズは刀なのか?)もあり、それらが草原の広がる緑の丘や平原のいたる所に無作為に突き刺さっている。

広く見渡してみても草原と丘しか広がっておらず、それ以外のものを発見するのが困難だった。


「いったい何が起きた・・・?宗介は?美紀は?」


今いったい何が起きているのか、何が起きたのか認識することができない

そうして混乱しているとふと カン・・・カン・・・と何かを打つような音が聞こえてきた。

音のする方向を向くと確かに何もなかったはずの場所にいつの間にかレンガ造りのような小屋があった。

頭が混乱して見落としていたのか・・・?

なんにせよ人がいることは間違いない、俺は草を踏みしめ、ほほをつねり夢でないことを確認してから小屋に向かった。




コンコンとノックをするが返事がない


「すいませーん」


もちろん返事はない、仕方ないと思ったおれはしぶしぶ木製のドアを開ける。


「あのーすいま・・・」


ドアを開けると同時に、俺は固まった。

赤・・・いや緋色とでもいうべき艶めかしい長い髪に、仄かに強気な性格を思わせる美しい顔立ちと、ハンマーを握るにはあまりにも華奢な細腕を持つ、美少女がそこには居た。

俺が美少女に見惚れていると、(おそらく)刀造りにひと段落でもついたのだろうか、少女はハンマーを打つ手をやめ、ふぅとため息をこぼした後こちらを振り返った。


「ッ!・・・・」


思わず(美少女と目が合ってしまった緊張で)心臓が跳ねる、そんな俺の状態を知ってか知らずか、少女は口を開いた。


「生憎とこの世界は造りかけだ、何の目的をもって異世界を渡っているかはわからないが、少なくとも、ここでその目的が果たされることはないだろう、早々に立ち去れクラッシャー」


あまり歓迎しているとは言えない口調と内容に俺は思わず後ずさってしまうが、立ち去るにしたってどこに行けば帰れるのか皆目見当もつかないし、見つかっていない二人のことも心配だ

何より『この世界は作りかけ』とか『異世界』とか『クラッシャー』とか急に訳の分からないことも言っていた。多分頭のねじが1ダースほど飛んでしまったかわいそうな人なのだろう。

そう思ったとたん後ずさってしまった自分を奮い立たすことができた。情けない話ではあるが。まずはここがどこなのか聞いてみよう


「あーその帰りたいのはやまやまなんですが・・・その・・・ここはどこなんですか?」

「さっきも言ったが造りかけの世界だ、そうとしか言いようがない。」


緋色の美少女は怪訝な表情を浮かべて答える。

・・・頭のねじ、10ダースほど飛んでるのではなかろうかと思った矢先、先ほどの刀の針山を思い出す。目覚めたときは混乱しており現実感がなくあれを見ても驚かなかったが少し冷静になった今

振り返り、改めてあの光景を見ると異質、異質の塊であると認識できた。外国にこんなスポットがあれば間違いなく一度は耳にするか、テレビなどで見る機会があるだろう。次の質問は少し趣向を変えてみるか。


「あーじゃあ、ニホンという国の名前に聞き覚えは?もしくはジャパンでもいいです。」


そう質問を投げかけた時、彼女はますます、何を言ってるんだこいつ?という表情を強めていった。(多分俺もそんな表情をしていた)そうして彼女が唸っていると。


「・・・質問を質問で返して悪いが、お前、もしかして自分に何が起こったか把握してないのか?」

「ええ、だから第一村人であるあなたにこうして話しているわけです」


すると彼女はその美しい顔を崩して(といってもその顔も十分美しいのだが)笑い始めた、おなかを抱えて、盛大に、床に転げまわりながら。

俺の多少イラっとした顔に気づいたのか、はたまた笑いのツボが収まったのか、彼女は立ち上がった


「あー、全く、運も少しは私に向いてきたということかな?」

「・・・?」

俺が?顔をしていると。

「おっとすまない、君は自分の身に起きたことが知りたいんだろう?私の名は・・・ラーナとでもしておこう。今から君の身に何が起こったか、それを教えてあげよう。」

偉そうなのに、なぜかイラつかない口調で、ラーナは語りだした、俺の身に何が起こったかのかを。









私が自分の世界をクラッシャーによって跡形もなく破壊された後、私はまた一つの世界を作った。しかしまだ我が子たる人の子はいない。そんな造りかけの世界を完成させようとしている最中、またしてもクラッシャーが来た。




クラッシャーというのは、簡単に言うと全異世界が生み出したバグだ。

最初のきっかけは些細なものだった、神というのは原則として、自ら作りだした人の子の世界に干渉できない、それじゃあ意味がないからな。干渉できる場合というのは、創世記、あるいは神話時代と呼ばれる時に神の子たる人々を創るときか、信仰の篤い者に

多少の加護を与える(その加護も人の子が努力しなければ意味をなさない儚いものである)くらいなものだった、神託というものもあるが、それができる場合というのは人の子の魂の質が神に近い者がいる時にしかできず、そんな人の子も滅多にいない。


そんな状況では、人のこの世界が発展するのに長い時間がかかる。無論、神達にとってはさほどの時間でもないので皆気にしていなかった。とある二柱の神が互いに協力し、召喚システムを開発するまでは。


開発されたシステムは、瞬く間に様々な神、そして様々な世界に急速に広がっていった。そうして異世界交流が盛んになっていくなかで、不思議な人の子が現れるようになった。いわく、魂の受け皿である肉体が傷一つつかない、いわく、死ぬと魂までもが消滅してしまう、

いわく、強い感情を世界に強く反映させる。まるで魂と肉体が反転、もしくは両方の性質が混ざってしまったような存在、それがのちにクラッシャーと呼ばれる者となった。さらに厄介なことに、こいつらは召喚システムによって生まれたものゆえなのか

ランダムに異世界間を渡ることができる。





「強い感情を世界に反映する、例えば世界を亡ぼしたいという感情を強くすると、本当に世界は滅びる。実際に滅ぼされた世界はいくらでもある。」


忌々し気に彼女は語る。


「だからクラッシャー・・・?」

「そういうことだ」


はっきり言おう。


「信じられるか!そんな与太話。異世界?神?なんだそれ」


流石に、中二病もたいがいにしろこの頭残念女!という罵倒はぐっと飲みこんだ。神とか、世界を滅ぼすとか、俺の頭は混乱で埋め尽くされていた。そうしていると


「なら試してみよう」


そういった彼女はいつの間にか手に握っていた抜身の刀で俺に切りかかってきた


「は?」


確かに斬られた感触そして痛みとともに、俺の意識は途切れた


「精神的に限界が来たみたいだな…」


そんな声が聞こえた気がした







意識を取り戻した後、改めて徹底的に攻撃されたが、切られた感触はある。衝撃もある。かなり痛い(痛みで何度も気絶した)、しかし体は何ともない。何とも気持ち悪い。服は破けたけどね。あぁ…俺の制服が…スマホが…。

さらに先ほど説明しきれなかったことを説明してくれた。


「あなたの話、全部とはいかないまでも、ある程度は信じないと先に進めないみたいですね…」

まとめると

1、クラッシャーは基本的に物理攻撃では死なないが、精神的な攻撃は死につながる可能性がある。そして魂は消滅する。

2、強い感情を現実に反映させることができる。が、かなり難しい。

3、クラッシャーは何故かその世界特有の(例えば魔法、スキルといった)ものが一切習得できない。

4、精神的な成長は望めるが、肉体的な成長は完全にストップする。

5、異世界間を自由に渡れる。しかしランダム。

他にも細かいことはあるが、主なのはこの5つだ


俺はしぶしぶ、この非現実的な説明を認める。ていうかもともと目が覚めたら全く知らない場所にいた、というのがそもそも現実離れしている現象だし、もうここまで来たら時の流れに身を任せるしかあるまい。

魔法とかスキル、使いたかったなぁ…

などとうなだれていると


「そうだ、お前はこの先どうするんだ?お前は世界を滅ぼす力を得た、異世界間を自由に渡り歩くこともできる。…お前は何をしたい」


ただならぬ雰囲気で質問された。先ほどの様子を見るにクラッシャーに何かされたのであろうことは明白である。その覚悟を見極めるような質問に俺は…


「いろんなものが見たいです」


そう簡潔に、しかし真剣に答えた


「クラッシャーの力をうまく使いこなせれば、思いのままだぞ?使いこなせるまでが大変だとは思うがほとんど不死身のようなものだ、いずれは使いこなせるようになる。本当にそれがしたいことなのか」


信じられないといった感じだ。俺はまた答える。


「正直いまだに自分の身に起こったことが整理できてないんですよね、現実感がないんですよ、だからとりあえずはいろんな世界を見て回って、いろんなものを見たいんですよ。それに…」


俺は羨ましかった。とても不謹慎だけれど、家族を失い他人のために尽くせるようになった東宗介が羨ましかった。家族の重圧に負けず、必死に己を高めることができる西乃美紀が羨ましかった。俺だけが何も持ってなかった、何も背負ってなかった。これで俺もアイツらと並べる。そんな歪な思惑が俺にはあった


「それに…なんだ?」

「いえ、何でもないです。」

「・・・そうか、ならもうこの世界から去れ、私はお前等が嫌いだ、あともう少しでお前を切り倒したいくらいにはな・・・だが折角の客人だこれを持っていけ」

「うおっと!?」

そうして乱暴に渡されたのは刀だった。

「これは・・・?」

「私お手製の刀だ、壊れないし刃こぼれもしないまぁ言ってしまえばそれだけの簡素なものだ」

「いやそれ全く簡素じゃないと思うんですが…もらっちゃっていいんですか?」

「この世界に初めて来た客人だ、気に食わんが何のもてなしもしないのであっては神の名折れだ、遠慮なく持っていくがいい」

不機嫌を隠しもしない様子だった。刀とかいう中二アイテム、俺が喜ばないはずもなく。

「ありがとうございます!!」

今日一の笑顔と声で感謝を表す。

「暑苦しいなさっさと私の前から消えろ!」

「ハイ!ぃよろこんでぇ!」

いよっしゃー!!刀だ、かっこいい!異世界への渡り方はさっき教えてもらってるし、行くぜ異世界、待ってろ異世界見知らぬもので俺をもてなせええええええええええええ

とルンルン気分で部屋を出ようとしたとき、俺は重要なことに気づく、今後の異世界ライフを左右しかねないとても重要なことに。

「あの…服ありません?」

俺は先ほどの斬撃実験により、全裸だったのだ。






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