たっくんとゆかいななかまたちシリーズ<4>リサイクルクルクル
リサイクルクルクル
ここは基地のたっくんのハンガーです。
「ねー,ねー,父ちゃん,バービーの新しい服買っていいだろ?」
たっくんは一応大人の現役の戦闘機なので決して安くない給料はもらえますが無駄遣いをしないようにジェイムスン中佐と整備チーフのケビンがあずかってお小遣いだけ渡しているのです。
だからほしいものがあれば2人のどちらかにおねだりします。
「だーめだ。人形の服ならたくさん持ってるだろう」
「でもぉ,もう飽きちゃったんだもん。新しい服ほしい!」
「だめだったらだめだ。新しいおもちゃがほしけりゃ自分で小遣いをためるか,子供の日まで待つんだな」
「ちぇっ」
たっくんはふてくされてハンガーの外へ出ました。
F5タイガーじいちゃんとF4ファントムばあちゃんのハンガーの前を通ると,ちょうど縁側にファントムばあちゃんが座っていました。
ファントムばあちゃんは『ペ』トナム戦争と冷戦時代に活躍した第2世代の複座型の大型戦闘機です。
現在は現役を引退して年金で生活しています。
「あら,たっくん,いいお人形を持ってるわね」
するとたっくんは嬉しくなって,
「そりゃそうだよ!俺のバービーはいつも最新鋭のファッションなんだ」
といばって答えました。
「なつかしいねぇ。私も子供の頃は人形で遊んでいたものだよ」
「ばあちゃんも人形を持ってたの?」
「そうだよ。私の頃はもっと粗末なセルロイドの人形だったけれどね,でも私の大事な友達だったよ」
そこへ頭の禿げあがった小太りのお爺さんがやってきました。
このお爺さんはウィルソンさんといって長年ファントムばあちゃんのパイロットで『ペ』トナム戦争や冷戦時代を戦ってきましたが現在は退役して基地の近くに住んでいて自治会長をしています。
「久しぶりねぇ」
ファントムばあちゃんはにっこりして言いました。
「今日はこれを持ってきたんだ。基地に貼っていいって言われたんだよ」
とウィルソンさんは大きなポスターを見せました。
「これはなんのポスターだ?」
たっくんは字を読むのがめんどくさいので質問しました。
「食べ物や衣類を集めてホームレスの支援施設に送るお知らせだよ。基地に住んでいるみんなに協力してもらおうと思ってねぇ」
「素敵なアイディアねぇ」
ファントムばあちゃんが言いました。
「私が子供の頃はみんな人間もよく兄弟や家族のお古を着ていたのよ。まだ着られるきれいな服が捨てられるのはもったいないねぇ。ここのハンガーの前は人通りが多いから貼っていきなさいよ。そうすればみんなの目に留まって持ってきてくれるかもしれないよ。場所はここがいいかしらねぇ。それらを集める回収ボックスが必要だね」
「協力してくれてうれしいよ」
「ところでばあちゃんは何をしていたの?」
たっくんはファントムばあちゃんがミシンの前にいたことに気付きました。
「古いタオルを再生して工業用のウエスを縫っていたんだよ」
とたくさんのタオルを裁断して縫い合わせた物をファントムばあちゃんが見せてくれました。
「う,え,す?」
「みんなが毎日お風呂に入ったときに体を拭いたり,基地の機械や乗り物を拭く布だよ」
と,いつの間にか整備クルーのケビンがやって来て教えてくれました。
夕方なのでたっくんをお風呂に入れるために探しにきたのです。
ファントムばあちゃんは実戦の戦闘機としては引退していましたが基地で使うウエスや雑巾を縫ったり基地の布の備品の修復をしたりしてミシン仕事をして基地に貢献しているのです。
「なぁんだ,ばあちゃんもウィルソンさんも古いタオルと同じでリサイクルなんだね!ウィルソンさんも」
「こら,たっくん,失礼なことを言うんじゃないよ」
ケビンが注意しましたがファントムばあちゃんは
「うふふ,そうねぇ。何もしないで年金だけもらって引退していてもいいんだけど戦闘機としては動けなくなっても何かお役に立つことがあればお手伝いしたいね」
と笑いました。
ウィルソンさんも
「はっはっは,確かにそうだ。私も隠居しっぱなしよりも町内のために動き回る方が毎日生活に張りがあるってもんだ。しかしリサイクルとは坊や,面白いことを言うな」
とカラカラ笑いながらたっくんのインテークをポンポン叩きました。
次の日たっくんは先週ケビンが古くなったコンテナを捨てていたのを思い出してそれを拾って自分のハンガーに戻りました。
机の引き出しから折り紙と糊とハサミとお絵描きの道具を出しました。
「服の寄付の回収ボックスを手作りするんだって張り切ってるみたいですよ」
ケビンが報告するとジェイムスン中佐が,
「まぁいいじゃないか。実際にどれくらいの服が集まるかは分からないけどあいつが夢中になって作業してるんだからいいじゃないか。少なくともその間,新しいおもちゃをねだったりはしないんだから」
と腕組みをして答えました。
たっくんはコンテナにキラキラの紙を貼ってさらに折り紙のパーティーモールも作って付けました。
そして仕上げにペンで大きくこう書きました。
『衣類
ホームレスの支援施設にプレゼントします』
そして完成した回収ボックスをファントムばあちゃんに持って行きました。
「あら,たっくんが作ってくれたの?ずいぶん豪華な箱ねぇ」
「大事なプレゼントだからね。きれいにラッピングしないと」
たっくんはウィルソンさんが貼ったポスターの横に回収ボックスを置きました。
「俺,ウィルソンさんの自治会に負けないくらいたくさんの服を集めたいな!」
ところがなかなか誰も服を持ってきてくれません。
たっくんは演習の行き帰りや遊びに行くときも毎日回収ボックスの中を開けましたが中身はほとんどありませんでした。
とうとう締め切りの日がやってきました。
結局集めることができたのはセーターが3枚と子供用のズボンが5枚,男性用のジーパンが3本,Tシャツが5枚,ソックスが12足でした。
どれも新品でしたがとてもこれでは足りません。
たっくんはがっかりしました。
「ごめん,ばあちゃん,これだけしか集められなかったよ」
「そんなに悲しまないで。一緒に自治会の公民館へ持って行きましょう」
ファントムばあちゃんがなぐさめてくれました。
そこで基地のすぐ近くの公民館へ飛来しました。
ファントムとラプターの2機編成はとても珍しい組み合わせです。
公民館の中にはたくさんの回収ボックスがあり,たくさんの服がうずたかく積み上げられていました。
たっくんは自分の持ってきた回収ボックスの中身がとても少ないのですっかり落ち込んでいます。
ところがたっくんと同じくらい,いやそれ以上落ち込んでいる人がいました。
ファントムばあちゃん?
いいえ,違います。自治会長のウィルソンさんのことです。
「ああ,君達」
いつも明るく笑うウィルソンさんなのに今日は本当に元気がありません。
「どうしたの?元気がないようね。何か困っているのなら話して御覧なさいよ」
ファントムばあちゃんは冷静にたずねました。
「これをみたまえよ」
ウィルソンさんは大量の回収した服を指差しました。
たっくんは
「なんだよう,俺よりいっぱい持ってきてんじゃないか!」
とすねましたが,ファントムばあちゃんが自治会の回収ボックスの中を覗いて
「ああ,これはだめだわ」
と呟きました。
「たっくん,これらの服をごらんなさい」
たっくんも回収ボックスを見ました。
中は穴の開いたものや汚れた服でいっぱいでした。中には洗濯をしていないものもあります。
「これ,着られないの?」
「そうねぇ,着るだけなら着られるかもしれないけど受け取った人は悲しいかもしれないわねぇ」
「街中のあちこちに回収ボックスを置いたらみんなが服を入れてくれたんだけどこんなボロボロの服ばかり,寄付するわけにはいかないよ」
とウィルソンさんは頭を抱えて悔しそうに言いました。
「でもこの中には新品の物や使える物もあるんでしょう?だったら選別しましょ。みんなでやればすぐにできるでしょう」
ファントムばあちゃんが言ったのでたっくんは
「俺も手伝う!」
と言い,さらに自治会の役員の人達も集まってきました。
そこでみんなで汚れている物,穴の開いている物を分けて,綺麗な服だけを選んで整頓します。
たっくんが綺麗な服だけ,ときいてドレスや浴衣も寄付用の箱に入れようとしたらファントムばあちゃんが
「それはだめ。プレゼントにはならないね。日常で着るものではないからね」
と言いました。
全部の服を仕分けて寄付できる服をかき集めると回収ボックス1箱分になりました。
それと基地から持ってきた服を入れたたっくんの手作り回収ボックスが支援センターに運ばれることになりました。
しかしウィルソンさんはまだ暗い顔をしています。
「この残った廃棄の服をどうしようか…回収するにも金がかかる…」
するとたっくんは
「ねぇばあちゃん,この服は『うえす』にはできないの?」
と聞きました。
「そうねぇ,伸縮性のある物はできるかもしれないね。伸びない生地は使い捨ての雑巾になると思うよ」
と言いました。
そこでファントムばあちゃんは使えそうな生地を選んで持ち帰り,大量のウエスと雑巾を縫いました。
雑巾のほとんどは自治会の備品として使ってもらうことになりました。
ウィルソンさんはファントムばあちゃんにお礼を言いました。
「ありがとう,また一緒に協力して仕事ができるとは思わなかったよ」
ファントムばあちゃんは,
「私も自治会のお手伝いができてうれしく思うわ」
と言いました。
その日の晩ごはんのときに(たっくんのハンガーではなるべく夕食くらいは人間のフライトチームもそろって食べることにしています)たっくんは疑問に思っていたことを質問しました。
「どうして自治会が置いた町中の回収ボックスに大量のぼろ服が入っててどうして基地の回収ボックスには少ない新品の服が入っていたんだろう」
「えーとそれはね」
ケビンが説明のやり方に困っているとジェイムスン中佐が缶ビールのプルトップを開けながら言いました。
「まず,誰だって捨てたいぼろ服はたくさんあるけど新品で誰かにあげてもいい服は少ないというのは分かるな?」
「うん。でも基地にはぼろ服は入ってなかったよ」
「そこなんだ。基地というのは確かにたくさんの人間が住んでいるが全員が軍関係者とその家族しかいないから調べれば全員の素性がすぐに調べられる。同時に基地の外から簡単に関係ない人間が入ってくることはできないから,回収ボックスにガラクタやごみを入れたらすぐに入れたやつを特定しやすい。でも普通の町はそうじゃない。町が大きくなればなるほど住んでいる者同士は知らないし他の町から誰かが入って来て回収ボックスにごみを捨ててもなかなか犯人が特定されないってことだな」
「じゃあ誰かが見てなくて犯人がばれなかったら悪いことでもしていいのかよ?たとえばステルス機の奴がおおもちゃやたべものをお金を払わずに持ち帰っても絶対に見つからなかったらそれでいいのか?」
たっくんがさらにつっこんだことを言ったのでジェイムスン中佐はうーんと言って
「それが難しいところだよな。誰も見てないからと言って悪いことをすると誰かに迷惑がかかるわけだし…迷惑をかけてしまうその人のことをじっくり考える余裕があるかどうかだよな」
「ああ,だからファントムばあちゃんが言ったんだ。寄付をされてもらった人が悲しむかもってことを考えてって」
とたっくんは納得しました。
次の日,ファントムばあちゃんがたっくんのハンガーにやってきました。
「昨日はお手伝いしてくれたお礼にごほうびをあげようと思ってね」
ファントムばあちゃんがもってきた袋にお人形の服がたくさんと,お人形用のおふとんが入っていました。
昨日服を仕分けたときに綺麗だけれど寄付はできないドレスや浴衣の生地で作ってくれたのです。
「うわぁ,ありがとう!大事にする」
たっくんは大喜びでおもちゃ箱の全部のバービー達の服を着せかえはじめました。
「かえって気をつかわせて悪いな」
ジェイムスン中佐が言うと
「自治会のみんなも喜んでたし私1人じゃとても手に負えなかったからね。中佐だって新しいおもちゃをねだられずにすむでしょう?誰も困っている人はいないんだからあなたが悪いなんて思うこと自体がおかしいね」
とファントムばあちゃんに言われてジェイムスン中佐は頭をかいてから奥の部屋にいるたっくんに大声で呼びかけました。
「おおい,ばあちゃんにもらった服,大事に使うんだぞ」
<おわり>