見習い魔女のお願い
◇――――
見習い魔女が冬の女王様と約束してから半日。
すっかり暗くなってしまった空からは止まない雪が降り注ぎ、今も辺りを白一色に塗りつぶし続けています。
冬の女王様は部屋の窓からすっかり暗くなってしまった外の景色を眺めていました。
「すっかり暗くなってしまったわ。もう……諦めましょう」
冬の女王様が一人呟いて窓のそばを離れようとした時でした。
「冬の女王様! お待たせいたしました‼」
窓の方から見習い魔女の声が聞こえました。
冬の女王様が窓を見ると、箒に乗った見習い魔女が窓の外に姿を現しました。見習い魔女の後ろにはドレス職人もいて、二人はほんの少し雪をかぶっております。
「まぁ! なんということでしょう! とにかく中へお入りください」
冬の女王様は窓を開けると、見習い魔女が来た時と同じように部屋の中へと二人を招き入れます。
見習い魔女とドレス職人の二人は箒から降りると、部屋の中へと入りました。
「それでそれで? 冬のドレスはどうなりましたか?」
ドレスを待ちわびていた冬の女王様は早速二人に尋ねます。
ドレス職人は手に持ったドレスの材料を見せながら言いました。
「冬の女王様、ここにドレスの材料がございます」
ドレス職人の手にある星の宝石とスノードロップの花の刺繍を見た冬の女王様は喜びました。
「なんて綺麗なんでしょう! それでそれで? 肝心のドレスの生地は何処にあるのですか?」
冬の女王様の問いかけに見習い魔女が答えます。
「それを今から女王様の目の前で作りましょう!」
すると、見習い魔女は魔法を唱え始めます。
『白くて美しい雪たちよ♪ 地上に降り積もった雪たちよ♪ みんなみんな集まって♪ 素敵なドレスにいたしましょう♬』
すると、国に積もっていた雪が、今も降っている雪が……女王様の目の前で……真っ白なドレスの生地へと変わりました。
雪は純白のドレスとなり、見習い魔女の手に収まりました。これには冬の女王様もビックリです。
「材料は全て揃いました。ドレス職人さん、どうですか?」
見習い魔女はドレス職人に尋ねます。
「あぁ! 素晴らしい! 今までにない最高の材料だ! どんどんデザインが浮かび上がる!」
ドレス職人は嬉しそうに答えます。
「ではではドレス職人さん。あなたが思い浮かんだイメージをそのままにドレスの材料を持っていてくださいな」
見習い魔女は純白のドレスの生地をドレス職人に渡すと、魔法を唱え始めました。
『雪からできた純白ドレスに♪ スノードロップの可愛らしい刺繍を入れまして♪ 星の輝き瞬く宝石♪ 素敵なネックレスへと早変わり♪』
すると、ドレス職人の手にあった材料たちは見る見るうちに変わっていき、やがて『冬』をイメージしたドレスへとなりました。
「ドレス職人さん、どうですか?」
「これだ! 思い浮かんだデザインそのままだ! 控えめな純白の中にあるこの美しさ! 目立たないけど存在感のあるスノードロップの可愛らしさ! そして宝石の色褪せない輝き!」
「ドレス職人さんが思い浮かんだイメージが、そのままドレスになったんです!」
ドレス職人のイメージ通りとなった『冬』のドレス。
ドレス職人は大喜びです。
「冬の女王様はどうですか?」
「素敵! 今まで見たこともない最高のドレスよ! これを私が着られるなんて嬉しいわ‼」
冬の女王様も大喜びのようです。
冬の女王様とドレス職人。
二人の大喜びの姿を見た見習い魔女もなんだか嬉しくなりました。
「私も、お二人の喜んでいる姿が見られて嬉しい限りです‼ 頑張った甲斐がありました――‼」
見習い魔女は嬉しさのあまり涙しました。
見習い魔女の様子を見たドレス職人は言いました。
「ありがとう見習い魔女さん! 君のおかげで世界で一番のドレスができた! 本当にありがとう!」
ドレス職人がお礼を言うと冬の女王様が言いました。
「ありがとうドレス職人さん! ありがとう見習い魔女さん! あなたたちのおかげでこんなに素敵なドレスが着られるんですもの……私、幸せよ――‼」
冬の女王様はお礼を言うと早速出来上がったばかりのドレスに着替えます。
――数分後。部屋の外で着替えを済ました冬の女王様は扉越しに尋ねます。
「お披露目してもいいですか?」
「「ぜひ、その素敵なドレス姿を見せてくださいな!」」
見習い魔女とドレス職人は口を揃えて言いました。
開いた扉の先にいたのは――それはそれは美しく、見る者全てが一度見ただけで見惚れてしまうほど綺麗なドレス姿の冬の女王様でした。
「どうかしら? 私、ドレスに負けていませんか?」
冬の女王様は恥ずかしそうに照れくさそうに嬉しそうに二人に尋ねます。
見習い魔女とドレス職人は顔を見合わせて自信満々に言いました。
「そんなことはありません」
「とても似合っておいでですよ」
冬の女王様は二人の言葉を聞いて言いました。
「本当に――、」
『ありがとう』
◇――――
長く寒い冬の季節の末、冬の女王様の元にはドレス職人と見習い魔女の手によって作られた、世界に一つしかない最高のドレスが贈られたのでありました。
そして翌日、冬の女王様は200と46日ぶりに塔の外へと出ました。
塔の外へと出る冬の女王様を、ドレス職人と見習い魔女は後ろから見守ります。
もう、夜が明けていて灰色で覆われていた空も真っ青な空になっており、降り積もっていた雪は跡形もなく、植物たちが一斉に地面から顔を出し始めていました。
塔の外では王様と春・夏・秋の女王様たちがお気に入りのドレスを着て冬の女王様を暖かく迎えます。
「おかえりなさい! 次は私と交替よ!」
と、春の女王様が言いました。
「お久しぶりね。顔を見るのは何日ぶり?」
と、夏の女王様が言いました。
「……元気そうで何より。で、その純白のドレスはどうしたの?」
と、秋の女王様が言いました。
「これはドレス職人と見習い魔女さんが作ってくれた最高のドレスよ!」
と、冬の女王様が言いました。
「冬の女王よ、よくぞ戻られた!」
王様が冬の女王様に言いました。
冬の女王様は王様の方を振り向いて言いました。
「王様、そして春・夏・秋の女王、国民の皆様には大変ご迷惑をおかけいたしました。謹んでお詫び申し上げます」
「僕からも、冬の女王様だけでなく国民の皆様に謝らなくてはなりません! 申し訳ございませんでした!」
冬の女王様が謝るとドレス職人も前に出て一緒に王様たちに謝りました。
「よいよい。女王たちのためにこんなにも素晴らしいドレスを作ってくれたのじゃ。むしろ礼を言わねばならん――ありがとう!」
王様はドレス職人にお礼を言うと、後ろの方にいた見習い魔女に向かって言いました。
「そしてドレス職人を手伝い、冬の女王を塔の外に連れ出してくれた見習い魔女よ! そなたには感謝の限りを尽くさねばならない。何かほしいものはないか? 何でも用意しようではないか」
冬の女王様を外へと連れだした見習い魔女。
王様はお触れ通り、褒美を取らせるのだと言っておりました。
「何でも……何でもよいのでございますか?」
「できる限りなんでも取り揃えようではないか!」
見習い魔女は少し悩むと、王様に向かって言いました。
「欲しい物はございません。ただ、叶えたい願いがあります」
「それはなんじゃ? 申してみよ」
見習い魔女は言いました。
「私の、願いは――――」
見習い魔女は言いながら冬の女王様の元へ駆け寄って手を取ります。
「冬の女王様とお友達になりたいです!」
◇――――
こうして冬の女王様は春の女王様と交替し、国には暖かい春の季節が訪れました。
畑には植物たちの芽が生えて、国の周りには再び動物たちが姿を現すようになりました。
国民たちは外に出ては懸命に働き、子供たちは元気よく外を駆けずり回りました。
それからずっとその国では季節は廻り続け、国に住む人々は長く長く幸せに暮らしましたとさ。
◇――――おしまい――――◇
ここまで読んでくださった方々、ありがとうございます。
この物語はここで終わり――ません!!
「えっ、『おしまい』ってありましたよね?」と思う方もいらっしゃいますが、ここまではあくまで絵本としての童話に過ぎません。
本当の童話は最初から始まっています。
冒頭で気付いた方もいるかもしれません。ではでは、次のエピローグへ