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ドレス職人と冬のドレス

◇――――



 「困ったな、困ったな。冬のドレスが仕上がらない……困ったな」


 そこは季節が廻る国から遥か西にある小さな村の小さなお店。

 お店の中では男が一人、腕を組みながら難しい顔をして「困った困った」と頭を悩ますばかり。


 この男の人こそが四季の季節を司る女王様たちの専属のドレス職人だったのです。

 ドレス職人は今までに春・夏・秋の女王様たちのドレスを仕上げてきました。


 今は冬の女王様のためのドレスを考えている最中ですが、まだデザインすら決まっておりませんでした。


 「困ったな、困ったな……」


 ドレス職人がつぶやいていると、外から声が聞こえます。


 「ドレス職人さん、ドレス職人さん。お話を伺ってもよろしいですか?」


 ドレス職人は悩むのをやめて声がする方を見つめました。

 

 見ると窓の外から黒い格好をした女の子がひょっこり顔をのぞかせていました。


 「おやおや、可愛らしいお客さんだね。いいとも! 中にお入り」


 ドレス職人はそう言うと、お店の入り口を開けて黒い格好をした女の子を招き入れます。

 黒い格好をした女の子は手に箒を持ったままお店の中に入りました。


 お店の中は色んな色の生地がたくさんたくさん取り揃えられておりました。

 何の模様もない無地の生地、水玉模様の生地、縞模様の生地、チェック柄の生地、花柄の生地……この地方には存在しないような珍しい模様の生地までありました。


 「色んな模様の生地がありますね! これらは全てドレス用の生地ですか?」


 見習い魔女は目を輝かせながらドレス職人に聞きました。


 「そうだとも。パーティー用のドレスからウエディングドレス用のドレスまで、このドレス職人にお任せあれ」


 ドレス職人は見習い魔女の楽しそうな様子に照れながら答えます。


 「ところで可愛らしいお嬢さん? お嬢さんはいったい誰だい?」


 ドレス職人は見習い魔女に聞きました。

 見習い魔女はハッとしてドレス職人に言いました。


 「申し遅れました。私は遠い国から来た見習い魔女です。ドレス職人さんにお願いがあってやってきました」

 「お願い?」


 見習い魔女の言葉にドレス職人は聞き返しました。


 「はい。どうかどうか冬の女王様のドレスを急いで作ってあげてくださいな」


 見習い魔女はドレス職人にお願いします。

 すると、見習い魔女の言葉を聞いたドレス職人は先ほどと同じように難しい顔をしながら答えました。


 「……悪いね、それは難しい話なんだ」

 「どうしてですか? 冬の女王様が嫌いだからですか?」 


 ドレス職人は首を横に振りましたが、答えようとはしません。


 「冬の女王様はずっとドレス職人さんがドレスを作って持ってきてくれるのを塔の中で待っているのです!そのため国には春が来られません! 国の周りの動物たちはいなくなり、畑の植物も枯れ果ててしまいました! このままでは国は大変なことになってしまいます!」


 見習い魔女は迫る様にドレス職人に言いました。

 ドレス職人は俯きながら答えます。


 「あぁ……申し訳ないことをしてしまった……本当にすまない――‼」


 ドレス職人は語り始めます。


 「僕は今まで春・夏・秋の女王様たちが司る季節をイメージしたドレスを作ってきた。春の女王様は遥か東の国に咲く可愛らしい桜の薄桃色をイメージしたドレス、夏の女王様は清楚に咲く水色の紫陽花をイメージしたドレス、秋の女王様は優雅に咲く薄紫色のコスモスをイメージしたドレス。季節に合わせた色と花を組み合わせてその季節にぴったりのドレスを作ったはずだった……」


 ドレス職人は語り続けます。


 「ところが冬の季節になった途端、僕の頭の中には『白以外の色』が浮かばなってしまった。出てくるのは白、白、白ばかり! 他の季節では色んな色が思い浮かび、その度に色と花を組み合わせるのが楽しかった……それなのに! 何も模様も描かれていない『白』だけ……それではきっと冬の女王様はお喜びにならない……」


 ドレス職人は近くにあった椅子にもたれかかるように座って語り続けます。


 「最初は時間が足りないだけと思った。だからもう少しだけ時間がもらえれば、きっと良いものが思い浮かぶ! そう思って冬の女王様に時間を下さいとお願いした」

 「ではまだ『冬』をイメージしたドレスは完成していないのですね?」

 「……完成どころか、デザインさえも思いついていないさ」


 見習い魔女の問いにドレス職人は諦めてしまったように言いました。


 「冬の女王様や国の人々には多大な迷惑をかけてしまったね……すまなかった」


 ドレス職人は椅子から一言謝ると、椅子から立ち上がって言いました。


 「今から冬の女王様に会いに行って謝ろう。そして春の女王様と交替してもらうんだ。ドレスは他のドレス職人に頼もう」


 ドレス職人はそう言って冬の女王様に会う支度をしようとした時でした。


 「私はドレス職人さんが作った冬のドレスを見てみたいです」

 「えっ?」


 見習い魔女の言葉にドレス職人は目を丸くしました。


 「春・夏・秋の女王様たちにお会いしましたが素敵なドレスを召しておられました。あんなに素敵なドレスを作れるのにもったいないではありませんか! 私は、ドレス職人さんが作ったドレスを召された冬の女王様をこの目で見たいです!」 


 見習い魔女は熱く語りながら続けます。


 「それに、ドレス職人さんは『白』しか思い浮かばないと言いましたが『白』も立派な色の一つです! 冬の女王様は雪のような真っ白が好きだと聞きました。『白』を使ったドレスを喜ばないはずがありません!」


 見習い魔女はドレス職人の手を取りながら言いました。


 「私と一緒に行きましょう!」

 「ど、何処に行こうというんだい?」


 ドレス職人は少し困ったように見習い魔女に尋ねます。

 見習い魔女は笑いながら言いました。


 「『冬』のドレスのための材料集めです! そして冬の女王様のために世界で一番のドレスを一緒に作りましょう!」


 見習い魔女はドレス職人の手を引いて、一緒に箒に跨ります。

 そして、二人一緒に箒に乗りながら雪が降る灰色の雲で覆われた空に向かって飛び立ちました。




 ◇――――



 見習い魔女とドレス職人が箒に乗って灰色の雲の中を突き抜けると、そこは雲一つない青い青い空でした。

 真下には突き抜けてきた分厚い灰色の雲が絨毯のように広がっています。


 「ここが、雲の上……! あぁ……久々に見た照り付ける太陽がこれほどまでに眩しいとは‼」


 ドレス職人は見習い魔女の箒の上で驚きの声を挙げました。


 冬の女王様が塔に籠ってからは空は曇ってばかりで、太陽をあまり見ることはありませんでした。

 ですが、雲の上には常に真っ青な空と太陽はあったのです。


 しばらくぶりに見た太陽に、ドレス職人は嬉しくなりました。


 「まだまだ、上に昇りますよ!」

  

 見習い魔女はドレス職人と共に箒でさらに空高く昇ります。


 「見習い魔女さん! どこまで昇っていくんだい?」

 「冬の夜空は空気が澄んでて綺麗なんです! ですので宝石のような綺麗な星を取りましょう!」


 見習い魔女はそう言うと高く高く空高く昇っていき、ついには星が手に届くところまで来ました。


 すると、見習い魔女は魔法を唱え始めます。


 『綺麗な綺麗なお星さま♪ 宝石のようなお星さま♪ 少し分けて下さいな♪ 素敵なドレスにいたしましょう♬』


 すると、周りに輝く星たちが小さな宝石となりまして、見習い魔女の手に収まりました。

 赤、青、黄色に緑。様々な色の宝石となった星たちは見習い魔女からドレス職人の手へと渡ります。


 「ではでは、次の材料の元へと向かいましょう!」


 見習い魔女はドレス職人を引き連れて、次のドレスの材料を集めに行きました。


 「見習い魔女さん! 次は何処へ行くんだい?」

 「ここより遥か遠くの地、雪のように白いスノードロップが咲く場所があります! ですので白くきれいな花を取りましょう!」


 見習い魔女はそう言うと速く速く鳥より速く飛んでいき、ついにはスノードロップが辺り一面を埋め尽くす花畑までやってきました。


 すると、見習い魔女は魔法を唱え始めます。


 『綺麗な綺麗なスノードロップ♪ 雪のようなスノードロップ♪ 少し分けて下さいな♪ 素敵なドレスにいたしましょう♬』


 すると、辺り一面のスノードロップは白く可愛らしい花の模様の刺繍となりまして、見習い魔女の手に収まりました。

 小さく可愛い白の花。白い花模様の刺繍となったスノードロップは見習い魔女からドレス職人の手へと渡ります。


 「ではでは、最後の材料の元へと向かいましょう!」


 見習い魔女はドレス職人を引き連れて、最後の材料を集めに行きました。


 「見習い魔女さん! 最後は何処へ行くんだい?」

 「冬の女王様が大好きなのは雪のような真っ白! ですので雪が降り積もる国へと向かいましょう!」


 見習い魔女はそう言うと冬の女王様がいる季節の塔へと向かいます。


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