悩み事解決します
思いついた設定をそのまま流して書きましたあけましておめでとうございます。
その少年は生まれたころから嘘に慣れ親しんでいた。
親の言葉、周りの言葉、テレビの言葉……聞いてきた言葉すべてが嘘まみれで、自身の言葉もウソだらけになるほどに。
友達など作らず、両親すらも騙し、ただ孤独に飄々と生きてきた彼は、しかし。
学校の帰り道に拉致られ異世界へ来ていた。
そんなことがあったのはつい三週間前。今ではすっかり元の世界のことなど忘れ、悠々自適、自由奔放にこの世界で生きていた。
……戦争真っただ中で、拉致した側と敵対する魔族の領地で。
今日も曇天。魔族の領地内で晴れなんて存在しないので雨か曇り以外の選択肢がない天気。
戦時中ということでピリピリとしているその領地内の首都に近い町に住んでいるのがその少年――脇道廉也。
彼はただの人間である。ただ、異世界人なだけである。
「あー暇だ。戦時中ってやっぱりピリピリしっぱなしだなぁ」
土地の一角に建てた二階建ての家の一階――応接間になっている――のソファに寝そべりながらつぶやく。
しかしながらその呟きは誰もいないので返事はなく、彼も誰もいないのを承知でつぶやいているので返事を求めているわけではない。
と、ここで彼は不意に思い出したのかつぶやく。
「……つぅか俺、人間側どうでもいいからこっち来たんだよな……どうすっかな。そろそろ本腰入れたほうがいいかな?」
そういってからしばらく何かを考えていたようだが、単純に面倒になったのか彼は「面倒くせ」と言って体を起こす。
すると、部屋の中に一人の女性が入ってるのを見た。
女性、といっても人間の容姿をしているが魔族である。力が強いとこういうことを平気で行えるのが特徴だというのを、この世界にきて彼は知った。
見目麗しき女性の姿をしている女性。が、廉也は一瞥してから「別にその恰好じゃなくてもいいだろうに」と指摘する。
「俺の監視役だか知らないけどよ、俺の姿に合わせる必要ないぜ? だって本当の姿ばっちりわかるし」
「……まぁ分かってはいるが、蛮族どもの城に侵入するのだ。このような姿を維持し続けなければなるまい」
「あとお前の下着とか心底どうでもいい」
「!?」
女性は顔を真っ赤にして胸を隠すように手を移動させ、大きく飛びのく。
それを見た彼は「なんだってそんな変なことが知られたくないことなのか知らないが、恥ずかしいのなら考えなきゃいいんだよ」とため息をつきながら言う。
「俺にはその人が一番知られたくないこと、幻術、ウソが視えるし、判る。最初にあんたの正体を見破ったのもこれが原因だって身をもって体感してるはずなんだが……何でここに来たし」
「依頼だ。魔王様直々のな」
羞恥心をもみ消したのか冷静に用件を伝える女性。それを聞いた廉也は顔をしかめた。
「……嫌だな」
「別に断っても構わないが、そうなったら貴様、ここにはいられないぞ?」
「え、別にいいけど。その代り俺が知ってる弱点は世界にばらまかれることになる。人間側のも、魔族側のも、両方な」
「……ぐっ」
「言っとくけど会ったやつ全員の隠し事、ばれたくないもの、知られたら内部崩壊しそうなもの。俺は全部記録してるんだぜ? 俺を追い出して公表されたら、どっちも戦争どころじゃなくなるんじゃないか? そうしたらどっちも困るよな?」
「……」
言い返せないことばかりをついてくる廉也に女性は歯噛みし、握り拳を作って我慢する。
以前にも俺を殺すなら世間にすべて公表すると言われ退散するしかなかったので二の舞にならないように気を付けた矢先、同じ轍を踏んでしまった。
思えば彼はいつも口先だけで行動が伴ってない。そのことに我慢しながら気づいた彼女が言おうと口を開いたその時、彼はわざとらしく声を出して何かを落とした。
「おっと」
落ちたのは手帳。この世界のものではない。
しかしながら表紙に書かれている文字は魔族が使用しているもので『隠し事ファイル』と書かれていた。
その字を見た瞬間、彼女の思考が止まる。
固まった女性を見ながら「いっけね。大事なものだ」と白々しく言いながら廉也はそれを拾い、内ポケットにしまってから「で、魔王様がなんだって?」と質問する。
フリーズから帰ってきた彼女は用件を言おうとして……聞き返した。
「なぜ毎回ひっかきまわしてから素直に聞き入れるんだ?」
「え、嘘つきだから。ひっかきまわすって楽しくね?」
何の曇りもなく堂々と返ってきたその答えにため息をついた彼女は、「まぁいい」と言ってから説明した。
「最近娘が口をきいてくれないのでどうにか橋渡しをしてくれだそうだ」
「それこそ戦争やってる場合じゃねぇだろー。さっさとやめて家族に時間費やしてやれよー」
「いや、口をきいてくれなくなったのはここ二週間ほどらしいのだが」
「……」
何か思い当たったのか黙り込む廉也。それを見た女性は疑いの眼差しを向けながら訊いた。
「……もしかしてお前のせいか?」
「んなわけない。友達の影響じゃないのか? いつまでも親にべったりで気持ち悪いとか言われて」
「……それがもっともらしく聞こえるのが貴様の難点だが。本当のところは?」
「いや知らないっての。メイドさんたちにそれとなく聞けばいいだろうに」
「……本当の本当か?」
なおもしつこく聞いてくるので、廉也は苛立ちを抑えずにポツリとつぶやいた。
「……魔王様の愛人」
「!!?」
ぼそっと言われた機密事項に彼女は顔を赤くし慌てだす。
その隙に彼は彼女を家から追い出して扉を閉め、あっかんべーと舌を出してからカーテンを閉めた。
彼はトラウマも隠し事も、ウソもすべて平等に暴き出し否応なしに解決する冷酷なカウンセラー(もしくは詐欺師)。
その評判は魔族の領地内から端を発し世界中に広まっていくのだが……当面の目標は戦争が終わるまでは魔族の領地でお世話になることらしい。
これ多分、連載になったらただただ主人公が騙しまくる話になりそう。今年もよろしくお願いします。厄年でしたので厄払いしました。