天から降る雷・地に堕ちた雷
ドッという生々しい音と共に聞こえた声。あの日に聞いた声。声の主は誰なのだろう。
そう思った時、昔兄さんから聞いた事のある昔話を思い出した。
かつて、この地に天才と呼ばれた男がいた。彼は雷を操る男。蒼き雷を使い、人々を助ける彼の蒼き雷に人々は‘‘天から降る雷‘‘といい、‘天雷‘と呼ぶようになった。
天雷は、怪我を治し、不治の病とも言われた病気さえも治した。彼は人々に尊敬され、英雄とまでうたわれた。
だが、彼には弟がいた。天才という兄とは違い、劣等者として呼ばわれた弟。虐げられるのが当たり前だった彼は、ある日その生活に嫌気が指し家を抜けた。
それからどれくらいの月日が経っただろうか。
家を出て、そのまま死んだと思われた彼がある日人々の前に現れた。そして、人々は彼の顔に見覚えがあった。劣等者の顔にーーー。
人々は兵を呼び、彼を捕まえさせようとした。兵は完全に油断していた。奴は劣等者であり、自分は彼よりも強い者だと。
しかし、それはつかの間の杞憂に終わった。
彼は不思議な雷を操った。紅き雷。それは時に弓矢になり、時には槍に、剣に。
まるで燃え盛る地獄の炎のように。その場にいた人々は死に絶えた。その情報を聞きつけた兄はすぐに弟の所に向かった。
だが、時すでに遅く。弟の姿は消えていて、変わりに人々に死体があった。
その日から、人々は彼の雷を‘‘地に堕ちた雷‘‘といい、地獄を表すかのようなその紅き雷を‘獄雷‘と呼んだ。
その力の前に人々はあまりに無力。さらに弟は‘創者‘の力を手に入れていた。
創者とは、魔力を必要とせず、自分の最も得意な属性を使う事のできる者の事をいう。
だが、弟はある日志半ばで兄殺された。兄も創者の力を持っていたのだ。そして弟の力は、人々の歴史から消され、今では主力貴族にだけ語り継がれている。
「グフゥ!?」
短髪の男が口から大量の血が飛び散る。
「ザンザ!?」
女が叫ぶ。ザンザという男は女の方に首をゆっくり動かした。・・・その顔は恐怖に染められていた。
「メリア・・・お、俺・・は・・ここ、で・・し、死ぬのか・・・?・・・嫌だ・・・死にたく・・な・・・い・・。」
男のその言葉に僕は怒りを覚えた。
「弱者は滅びるべきだと言ったのはお前だ。なのに死を目の前にしたら死にたくないだと・・・ふざけるな。」
僕は腕に力を入れる。するとザンザの心臓を貫いた部分から紅い電気が腕に流れる。そして電気が消えた時、ザンザは力なく崩れる。
「ザンザァ!」
メリアが悲痛の叫びをあげる。そして彼女は涙を浮かべ、憎しみを込めた目で僕を睨み、詠唱を始めた。
「うおおお!ノーザン・ランス!」
その瞬間、氷の槍が僕を襲う。だが、僕は腕に螺旋状の様々な文字を宿らせたまま氷の槍を受け止める。その光景に、さっきまで驚愕のあまり固まっていたガイアさんの口が開く。
「あ、あれは詠唱古代文字!?なぜあんなものを彼が・・・!」
その言葉にアレストさんが問う。
「詠唱古代文字・・とは・・・?」
「魔力を宿らせた文字のことだ・・・その力で空を浮くことも、魔法を受け止めたり消すことも可能な魔法だ。だが、それはルウラ家だけが可能の魔法の筈だが・・・?」
僕はその間にも攻撃に入る。まず、槍を反対の方向に向け、メリアに投げる。そして、メリアはそれを手に持っていたロッドで壊す。その瞬間にも、僕はメリアの目の前に移動していた。
「は、速い!?」
驚愕の目。それを無視し、無意識に‘‘雷で槍の形を創った‘‘。そしてその槍でメリアの胸を貫く。
「アグァ!?」
激痛のあまり叫ぶメリア。だが、残酷にも槍は奥へ奥へと貫いていく。そして、レムが槍を強く握ると雷の槍は凝縮されていたのを抑えきれないように爆発し、雷の柱ができる。その雷が彼女の体を焼き尽くす。そして、ドサッという地面が地面に響く。もはや彼女の面影は無い。そこにあるのは黒く焦げた何かだった。
身長の細い男はすでに恐怖に支配されていた。
「ひ、ひぃ!何なんだよその力はぁ!?」
そう言って背を向けようとした瞬間、レムの手が彼の顔面を覆う。あの文字がある腕で。そしてレムが手に力を入れ、男を後ろに吹き飛ばす。男の額には時計のようなアザがる。しかもそのアザのようなものは動いていた。本当の時計のように。それに気づかない彼は、体制を立て直し逃げようとする。
「さよらな。」
レムのその言葉と共に、男の額の時計が12時を指した時、男の体から雷が溢れ彼の腕を、足を胴体を吹き飛ばす。血が飛び散る。そこはまるで地獄のようだった。
「・・・あの力はまさか・・・創者!?」
ガイアが驚きの声をあげる。その言葉に誰もが反応する。
「創者とは・・・?」
「・・今は説明する時間は無い。だが、目の前の光景がその言葉の意味だ。」
その間にもレムはゼアンの目の前にいた。
「く、来るんじゃない!何なんだその力はぁ!?あああ悪魔なのかぁ!?お前は!」
「・・・・クスッ。」
レムは不気味にも微笑を浮かべる。
『悪魔というのもいい響きだな。だが、ただの悪魔というよりかは・・・魔王かな?』
彼の声では無い。彼が喋っている筈なのに、彼の声ではないのだ。
「だ、誰だ!?お前は・・・!?」
『俺か?そうだなぁ・・・‘‘堕ちた雷の覇者‘‘とでも言おうか?』
レムが微笑を浮かべたまま首を左上にそらす。その様子にゼアンは焦った様子だった。
「な、何がおかしい!」
『後ろ。』
ゼアンが後ろを向くと、黒い服を着た小さな女の子がいた。少女は、その小さな体に似合わない大きな剣を手に持っていた。
「油断だらけだぞ、お主。」
そう言って剣を振るう。そして、ゼアンの首が吹っ飛んだ。
『中々楽しめたな。だが、もう俺は現れることはできなかもしれんがな・・・。』
そしてその声が聞こえなくなる。それと同時に意識が途切れた。
意識が途切れる中、ルシファーが笑顔で「またな、主。」という声が聞こえた。
意識がない中、ある光景が見えた。
赤黒い髪と金髪が混じった髪の男が、貧しそうな人達や、腕がない戦士など様々な弱弱しい人達を見下ろして何かを言っている。
「弱き者達が虐げられるこの世界を壊して、俺は新しい世界を創る。人間から人を見下すという考えを消去し、皆平等という考えを植え付ける。そして俺は新世界の人達に文明を与え発展させる。そうすれば敗者はいなくなる。俺は、そんな世界を創る。」
そんな言葉を言っている男の顔は決意に満ちていたーーーー。
「・・・厶。」
声が聞こえる。
「・・・厶。」
安心する声だ。
「・・・レム。」
誰だろう?僕を呼ぶのは。
「・・・レムッ!」
その叫び声と共に目が覚めた。そして僕の顔の目の前にシアがいた。彼女は目から大量の目を流していた。僕の顔に雫が落ちる。
「・・・シア?どうしたの?」
その言葉を聞いて、彼女はさらに涙を流す。だが、さっきとは違う涙のようだが。
「良かった・・・!心配したんだから・・・!」
そう言って笑顔になるシア。だいぶ心配をかけさせてしまったようだ。僕は体を起こし、右手で彼女を抱きしめる。すると彼女はボンッという音を立ててそのまま僕の腕に倒れこむ。僕は彼女の様子に困惑する。
「ふみゅぅ・・・///」
僕がその様子に困惑していると、ドアが開きセリアが入ってくる。
「シアさんどうですか?レム様の・・・様子・・・は・・・。」
僕がシアを抱きしめている様子を見て、彼女は固まった。なぜかな?ていうかさっきから体が痛い。
「ふ、不潔です!レム様!抱きしめるならばシアさんではなく私を・・・!」
急にセリアが慌てるように言う。何言ってるんですか。ついでに僕はセリアが僕に様付をしている事に気がついた。
「えーと、セリア・・さん?どうしたんですか?」
とりあえず彼女はお偉い方なので敬語で聞くも、彼女は顔を真っ赤にしながら
「お父様がお呼びです!後で客室に来るようにと!」
そう言ってセリアはドアを少し乱暴にして出て行った。僕何かしたかな?
とりあえずシアが目を覚まさないとベッドから出られないレムであった。
うーむ・・・少し残酷すぎますかね・・・。