追放
この世界は、魔法がある。複雑怪奇で摩訶不思議、そんな力だ。
そして、これが世界を終わりへと導いた少年の話。
「ラウ、お前をルウラ家から追放する。」
父に唐突にそう言われた。突然だった。夕食後に部屋に来なさい、そう言われ部屋に来ると言われたのだ。
「・・・・・・え?」
「聞こえなかったか?二度も言わせるな。お前をルウラ家から追放する。荷物を持ってこの家から出ていくといい。」
「何・・・・・・で・・・・・?」
「ふん、お前にはルウラ家の人間としての自覚が足りんのだ。何故その歳で雷魔法が使えない?他の者は使えるのに。」
そんなの僕に言われても知らない。僕は魔法が使えない。雷魔法で名門であるルウラ家にいながら。精霊と契約はしたのだ。なのに、魔法が使えない。魔力が無いわけではない。なのに、どうして。
「兄や姉、妹はもう魔法を使えるのに、どうしてお前だけ使えんのだ。」
「そんな・・・・こと・・・・・僕は・・・知りません・・・。」
「喋るな。貴様はもうこの家の人間ではない。さぁ出ていくといい。」
「そんな!父さん!僕頑張るから!だから追放だけは・・・・・!」
「たわけ!そうやっていつまで待たせる気だ?えぇ?」
そう言って父さんはドアを叩きつけるように閉めた。
その間僕はずっと無言だった。静寂の中、呆けるように。
その後、僕は死人のように部屋を出た。廊下から、使用人達の声が聞こえる。
「いなくなればいいのに。」「さっさと消えろ」「ルウラ家の恥さらし。」
しかし、その声も聞こえなくなってきた。
途中、妹に会った。彼女は僕を暫く見ていた。瞳から涙を流している。今まで一緒にいた妹も、あの日からは僕を避けるようになっていた。彼女は下を向いたまま「もう・・・私にかかわらないで・・・。」そう言って自分の部屋に向かった。彼女のいた場所には涙の跡があった。
荷物をまとめ、門まで歩いた。外は雨が降っていた。そんな中、傘を指して立っていた姉さんがいた。眉間にシワをよせ、僕を睨んでいた。そして、こう言った。
「やっと出ていくのね。このクズ。あんたなんかさっさと消えて!」
そう言って僕に魔法を放ってきた。だが、痛みさえ感じなかった。
姉さんはそのあとすぐ家に戻った。
僕は門をくぐり抜け、振り返った。すると、二階の部屋にいる兄さんと目があった。だが、兄さんは顔を歪ませ僕を見た。
もはや感情はなかった。どうでもよかった。
だが、悔しさだけはあったのかもしれない。
どのくらい歩いただろうか。雨は一向に止まず、僕の体を打ち続けた。そして、目の前に人が見えた。すると、その人は幾つかにわかれ、僕を囲んだ。盗賊だ。
「なんだぁ?このガキ。随分落ちぶれてやがるなぁ?」
リーダーらしき男がそう言うと、周りの奴らも笑った。そんな笑い声も、雨に打ち消される。
「最近暇だしな、このガキいっちょ殺るか。」
そう言うと、男は腰にぶら下げてる鞘から剣を取りだし、僕の金色の髪を掴んだ。
ーーーーーあぁ、僕はここで死ぬんだな。そう諦めたが、何処か心の中で悔しさが芽生えた。見返したい、殺してやりたい。
そう思った時、何処からか声が聞こえた。
ーーーー個々で死ぬのか?
嫌だ。
ーーーーあいつらを見返したいか?
見返したい。
ーーーーたとえどんな力を得ようとも?
構わない。
ーーーーーそうか。
そこで声が途切れた。男は剣を振り上げ、僕を切ろうとしたそ刹那。
僕の手が男の心臓を貫いていた。
男の顔が苦痛に歪んだ瞬間、男の体から僕の腕に赤色の電気が流れた。
力を、生命力を吸う感覚がした。
男はそのまま地面に伏せた。他の奴らは何が起きたのか分からなかった。仲間が少年に心臓を貫ぬけられ、電気が少年に流れ、仲間が死んだのだ。悲鳴を挙げようとした。だが、その時気づいた。少年の体が赤黒く、かつ紅蓮の雷を帯びていた。そしてーーーーーー
体からなにかが出ていくのを感じた。決して心臓を貫けられているのではない。
視界の先には、空に胴体を向けている少年だった。そして気づいた。この少年は自分達の生命力を吸っているのだと。
だが、遅かった。気づけば何も見えなくなり、体が崩れるのを感じた。
辺りを見渡すと、雨に打たれながら死んでいる盗賊達だった。そして、僕は僕自信の体に何かが溜まっているのを感じた。
そして、目の前に小さな黒い服を着た女の子がいた。
「やっと力が目覚めたか、わが主。」
女の子に似合わない口調で語りかけた。
「君は・・・・誰?」
見覚えがなかった。精霊だろうか?しかし、僕が契約した精霊はボルトという精霊だ。
「そうか、主はボルトと契約したと思っているかのか。」
女の子は雨に濡れていない。やはり精霊である。だが、一体この女の子は誰なのか?
「主、我はルシファーという魔王である。」
ーーーーーーー魔王。
冥界に君臨する魔属達の王。またの名を魔神ともいう。
「我は、人間界の様子を見るため、ボルトに憑依した。そこで偶然出会ったのが主じゃ。じゃが普通、魔王である我と契約できる人間はいなかった。主が現れるまでは。」
「主は見事我との契約を果たした、のだが主はまだ幼き故、魔力の限界も小さい。我は生きていくには、主から魔力を分けてもらうしかなかった。だがその結果、主の魔法が使えなくなってしまった。」
「すまぬ、主。詫びに、我を殺してくれても構わない。主の願い、我が聞き受ける。」
ルシファーの目は真剣だった。真っ直ぐな瞳が僕を見つめた。そして、僕は嗚咽がでながらもこう応えた。
「だった・・・ら、僕に・・・・・力を・・・・与えて。」
その言葉が、終わりへと導く終焉の始まりだった。
なんかちょっと展開が・・・・・・。