十年分の空白――同じ深さ
追跡十年目の春、聖堂裏の共同墓地で鉄道警官バートは血液反応のない衣服を開いた。三都市同時事件は単独犯説を壊したが、複数犯説を証明しなかった。捜査班は人数を決めず、成立条件だけを一つずつ確かめた。
エドガーは被害者自身による入室を仮説欄へ置き、事実欄とは線で分けた。本物の事件は必ず槍による二十創で、幅、形、深さがすべて一致する。それ以外の外傷、争った形跡、防御創、拘束痕はない。遺体にも衣服にも現場にも血液は残らない。十年を経ても、この条件は一度も崩れなかった。
記者クララは十年間の新聞を初版、校正刷り、翌朝版に分けた。非公開だった創の深さや血液消失を示す言葉は、記事本文ではなく見出しの修正記号へ散っていた。誰が入れたかは不明で、同じ記号を使う植字工も記者も複数いた。
模倣犯の遺品には、その修正記号を写した紙があった。本物は模倣犯を殺したが、なぜ偽物だと判別できたのかは残されていない。直接会った証拠も、命令を受けた証拠もない。模倣犯が新聞だけから条件を盗み、届かなかった部分を本物に見抜かれた可能性も仮説のままだった。
エドガーは犯人からの手紙という呼び方を禁じた。紙に声を与えれば、書いた者の性別も年齢も性格も想像で埋まる。確定したのは、警察しか知らなかった情報が報道工程のどこかへ現れたことだけだった。
夜、血液反応のない衣服は封印箱へ戻された。エドガーは分からない欄を埋めず、明日できる確認だけを欄外へ書いた。犯人の顔、声、性別、人数、目的、選定基準は依然として不明だった。
鉄道警官バートは進展のない報告も遺族へ伝えた。確証のない希望は渡さない。その代わり、次の予告が届けば被害者候補の保護を捜査より先にする、と約束した。十年目の班は、死体から犯人へ向かうだけの組織ではなくなっていた。




