同じ夜の二十創――三都市の夜
追跡九年目、ベルク市検視所で巡査ノアは封印された検視原本を机へ戻した。第418番記録の目的は、複数都市で起きた事件の時刻と移動可能性を照合することだった。捜査の年月は人の顔と役職を変えたが、犯行の条件だけは最初の夜から一つも変わらなかった。
エドガーは被害者に共通する未発見の過去を仮説欄へ置いたが、事実欄には移さなかった。傷は必ず二十か所で、幅、形、深さがすべて一致する。槍傷以外の外傷はなく、争った形跡、防御創、拘束痕もない。遺体にも現場にも血液は残らない。一条件でも欠ける事件は、似ていても本物の列から外した。
新人捜査官リディアは古い検視図を写真乾板と精密測定表へ重ねた。技術が進めば、以前は見えなかった誤差を拾える。ところが二十創の均一さは新しい器具でも崩れなかった。それは犯人像を狭める証拠ではなく、理解できない精度を確認しただけだった。
捜査班では退職と異動が続いた。エドガーは若い捜査官へ、仮説より先に除外条件を教えた。新聞の怪物像、目撃者の恐怖、国境ごとに異なる噂を混ぜれば、存在しない顔が簡単に出来上がる。記録は犯人を想像するためでなく、想像を事実に化けさせないために残された。
夜、封印された検視原本は封印箱へ戻された。被害者の階級、職業、年齢、信仰、旅程に共通項はなく、男とも女とも、単独とも集団とも断定できない。
「分からないことを、引き継ぐのも捜査だ」
エドガーは結論欄を空白にした。犯人の声も顔も目的も現れない。九年目に残ったのは、同じ二十の穴と、血のない部屋と、まだ記録を閉じない者たちだけだった。
時刻表と宿帳には疑わしい名が並んだが、犯行時刻へ結びつく者はいなかった。疑わしさは証拠ではない。赤線を引いた名も、反証が出れば消された。




