同じ夜の二十創――新しい測定器
追跡九年目、旧市街新聞庫で警部ローレンスは精密測定表を机へ戻した。第404番記録の目的は、複数都市で起きた事件の時刻と移動可能性を照合することだった。捜査の年月は人の顔と役職を変えたが、犯行の条件だけは最初の夜から一つも変わらなかった。
エドガーは医療知識を持つ単独犯を仮説欄へ置いたが、事実欄には移さなかった。傷は必ず二十か所で、幅、形、深さがすべて一致する。槍傷以外の外傷はなく、争った形跡、防御創、拘束痕もない。遺体にも現場にも血液は残らない。一条件でも欠ける事件は、似ていても本物の列から外した。
統計係ミナは古い検視図を写真乾板と精密測定表へ重ねた。技術が進めば、以前は見えなかった誤差を拾える。ところが二十創の均一さは新しい器具でも崩れなかった。それは犯人像を狭める証拠ではなく、理解できない精度を確認しただけだった。
捜査班では退職と異動が続いた。エドガーは若い捜査官へ、仮説より先に除外条件を教えた。新聞の怪物像、目撃者の恐怖、国境ごとに異なる噂を混ぜれば、存在しない顔が簡単に出来上がる。記録は犯人を想像するためでなく、想像を事実に化けさせないために残された。
夜、精密測定表は封印箱へ戻された。被害者の階級、職業、年齢、信仰、旅程に共通項はなく、男とも女とも、単独とも集団とも断定できない。
「分からないことを、引き継ぐのも捜査だ」
エドガーは結論欄を空白にした。犯人の声も顔も目的も現れない。九年目に残ったのは、同じ二十の穴と、血のない部屋と、まだ記録を閉じない者たちだけだった。
新しい薬品でも床や衣服から血液反応は出なかった。血が抜かれた方法も、どこへ運ばれたかも不明であり、不可能という言葉だけは報告書から除かれた。




