封印箱を受け取る者
追跡八年目、中央署封印庫でエドガー・ハルトは封鎖配置図を机へ戻した。第400番記録の目的は、新旧捜査官が全事件を同じ基準で測り直すことだった。捜査の年月は人の顔と役職を変えたが、犯行の条件だけは最初の夜から一つも変わらなかった。
エドガーは新人捜査官リディアへ最初の検視原本を渡した。答えではない。誤差を隠さず、分からない欄を空白のまま残すための記録だった。老いた者が去っても、事件を都合よく完成させない基準だけは残せる。
エドガーは警備側への内通を仮説欄へ置いたが、事実欄には移さなかった。傷は必ず二十か所で、幅、形、深さがすべて一致する。槍傷以外の外傷はなく、争った形跡、防御創、拘束痕もない。遺体にも現場にも血液は残らない。一条件でも欠ける事件は、似ていても本物の列から外した。
検視官エレノアは古い検視図を写真乾板と精密測定表へ重ねた。技術が進めば、以前は見えなかった誤差を拾える。ところが二十創の均一さは新しい器具でも崩れなかった。それは犯人像を狭める証拠ではなく、理解できない精度を確認しただけだった。
捜査班では退職と異動が続いた。エドガーは若い捜査官へ、仮説より先に除外条件を教えた。新聞の怪物像、目撃者の恐怖、国境ごとに異なる噂を混ぜれば、存在しない顔が簡単に出来上がる。記録は犯人を想像するためでなく、想像を事実に化けさせないために残された。
夜、封鎖配置図は封印箱へ戻された。被害者の階級、職業、年齢、信仰、旅程に共通項はなく、男とも女とも、単独とも集団とも断定できない。
「分からないことを、引き継ぐのも捜査だ」
エドガーは結論欄を空白にした。犯人の声も顔も目的も現れない。九年目に残ったのは、同じ二十の穴と、血のない部屋と、まだ記録を閉じない者たちだけだった。




