表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無限マチアプ〜ヤリモクで登録したんだが、無限に同じ男とマッチングする〜  作者: 鳥羽ミワ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/11

エピローグ:そして日常は続く

 こうして、春海は光由と付き合い始めた。今のところ、順調だ。

 そのためシュンポロンを退会することを、工藤へ伝えた。夏の金曜日の夕方のことだった。

 工藤は椅子から転げ落ちて、快哉を叫んだ。


「やったー!」

「え、何。なに」


 工藤の奇行に慣れている春海は、彼を助け起こしてやる。書類の雪崩は、竹村が片付けてくれた。

 身体を起こした工藤は、ずれ落ちたメガネを掛け直す。よかった、よかった、と何度も頷いていた。


「やっぱり僕の『アンドロギュノス』システムは最高だ!」

「そこで自画自賛がはじまるのが、工藤だな」


 呆れた口調で言ったものの、春海は笑っていた。工藤はメガネを得意げに、くいくいと上げ下げする。


「おめでとう。君は、運命の相手……魂の片割れに出会えたんだね」

「魂の、片割れ?」


 少し耳馴染みのない言葉の選び方だ。首を傾げると、工藤は「アンドロギュノスさ」とにやりと笑う。


「プラトンの『饗宴』にて披露される一節だ。人間は昔、頭が二つ、腕が四本、足が四本の生命体だった。男と男、男と女、女と女がひっついていたんだ。その状態をアンドロギュノスと呼ぼう」

「え、キモ。なに……? 人間二人でひとつ、ってこと……?」

「そうだ。それでな」


 戸惑う春海を置いて、工藤はべらべらとしゃべり続ける。相変わらず、自分の世界に入った途端、おしゃべりになる奴だ。春海は生ぬるい目で見守った。


「ある時神の怒りに触れて、アンドロギュノスはまっぷたつに割かれてしまった。この片割れが『シュンボロン』、割符。惹かれ合う魂の片割れ、運命の相手同士さ」


 また小難しいことを捏ねているが、どうやら「シュンポロン」の名付けの話をしたいらしい。「それで?」と促した。


「僕はここから着想を得て、マッチングアプリとそのAIを名付けた。運命の相手を探すためのアプリ『シュンポロン』と、それを導くAI『アンドロギュノス』だ」

「シュン『ポ』ロンなんだ。シュン『ボ』ロンじゃなくて」


 そうだよ、と工藤は頷いた。春海は勝手に梅こんぶの袋を取り上げた。工藤は特に咎めず、続けた。


「僕のAIができるのは、せいぜい運命の相手の候補探しでしかない。魂の片割れたる相手を探すのは、アプリ利用者本人だ」


 だからだよ、と工藤は言った。春海は気のない返事をしつつ、梅こんぶをしゃぶる。


「本当の片割れであるシュンボロンは、利用者自身が見つけなければならない。そういう意味を込めて、弊社はシュンボロンではなく、不完全な『シュンポロン』を開発したのさ」

「つまり、本当の愛は、自分で掴めってこと?」

「そうだ」


 嬉しそうな工藤は、「僕みたいに、片割れのない人もいるし」と身体を揺らした。その後ろでは、竹村が熱い視線を注いでいる。

 これは厄介だな、と春海は肩をすくめた。荷物をまとめて立ち上がる。


「よく分かったよ。工藤、はいこれ」


 手渡したのは、コンビニ袋だ。中には、大量の梅こんぶが入っている。


「ありがとう」


 それだけで、この二人には十分だった。工藤はうやうやしくそれを受け取る。メガネを外して、目元の涙を拭った。


「いやあ。僕もバグを直さなかった甲斐があった……」

「やっぱり直してなかったのかよ」

「だって、ブロックを貫通してまで繋がるなんて、絶対に運命の相手だろう。どうして直す必要がある?」


 春海もこれには爆笑だ。工藤は優しいが、独断専行でことを進める癖がひどい。春海は、そういうところが愛しいのだが。結局、自分たちもまた、破れ鍋に綴じ蓋なのだ。

 腹を抱えて二人で笑っていると、工藤の端末が鳴る。


「すまない、取引先だ。では春海、また」


 軽く会釈をして、春海は外へ出た。ドアの向こうから「開発スポンサー打ち切り!?」という工藤の叫び声が聞こえてくる。

 この分だと、他にも何かしらヘマをやらかしているらしい。シュンポロンはどうなるのだろうか。

 今度は慰めに行ってやろう、と春海は決めた。

 端末を確認すると、チャットの通知が来た。光由だ。

 大学の授業が終わったから、名古屋駅へ向かうらしい。春海も「俺も今から行く」と即座に返信して、おんぼろアパートの階段を駆け降りた。

 電車で夕暮れの名古屋駅へ向かう。夏のじっとりした暑さは、夕方でも容赦なかった。これからどんどん暑くなる。

 名古屋駅の中央コンコースの広場にある、待ち合わせのシンボル。背の高い金時計。

 光由は、もうそこにいた。夕焼けの光を浴びながら、人混みの中で、二人はお互いを見つける。


「春海さん」


 名前を呼ばれた。春海はきゅうと目を細めて、「待った?」と尋ねた。光由は、ゆるやかに首を横に振る。


「全然。今来たところです」

「じゃあ、行こうか」


 自然と手が近づいて、指が絡む。二人は笑い合って、歩き出した。


「俺、今日は居酒屋で飲みたいな」

「じゃあ僕、気になってるところがあって……」


 二人で穏やかに会話しながら、暮れていく街を歩く。まだまだ明るい街並みは、傾いた日差しのあたたかな色に染まりつつあった。

 関係の進展は、遅いのか早いのか、よく分からない。ただ、まだキスもしていないこの速さが、二人のペースだった。


「光由、ありがとう」


 ふと、春海は呟いた。これまで通っていた繁華街の奥を一瞥して、大通りを行く。


「なにが?」


 首を傾げる光由に、「全部だよ」と春海は笑った。繋いだ手を振る。


「お前のおかげで、俺は最近、楽しい」


 これまで散々感じていた寂しさは、まだある。だけど光由のおかげで、虚しさは感じなくなっていた。

 光由は、春海の心の穴を埋めてくれた。


 その本人はいまいちピンと来ていないようで、「ふうん?」と首を傾げている。


「そういえば、お前はなんでシュンポロンのテストに参加したんだ?」

「ああ、ゼミの先輩に誘われたんです。先輩の先輩が開発者らしくて……」

「そうなんだ。え、もしかして俺たちって、大学同じかも。俺、開発者の工藤と、学部違いの同級生だったから」

「本当ですか?」


 他愛のない会話をしながら、二人は雑踏の中を進んだ。何も恐るべきことはない。

 手を繋ぎ直して、身を寄せ合った。


 その後、シュンポロンは開発資金不足で、正式リリースされない運びになった。春海は工藤を慰めるために酒と梅こんぶを持ってかけつけたが、アパートのドアを開けたら、工藤と竹村が熱い抱擁を交わしていた。

 泣きじゃくる工藤を抱きしめる竹村の鋭い目配せに、春海は黙ってドアを閉じた。これからは、そういうことになるのだろう。


 光由にそのことを報告すると、彼は「おめでとうございます」と素直に祝福していた。春海は彼がかわいくて、いつ取って食ってやろうかと手ぐすねを引いている。だけど彼のはじめては、大事にしたい。それにまだもう少しだけ、童貞の彼氏をかわいがっていたい気もしていた。

 

 春海と光由のお付き合いも、そんなこんなで少しずつ進展していった。キスもその先も、楽しみながら、進んでいく。

 何年かかっても、きっと大丈夫だ。


 実際に春海と光由が魂の片割れかどうかは、誰にも分からない。証明するすべはない。

 だけど二人に、そんなものはいらないのだ。だってお互いが大好きで、大事だから。

 今日も春海と光由は、お互いを求めながら、生きている。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました!少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。

もしよければ、感想などくださると、大変励みになります。

感想アンケートもあります!選択肢を選ぶだけなら1分程度で終わる簡単なものなので、よければこちらもご利用ください。

https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLScZm-aiIjMKIudmB8Qn9GNrImIfFyOycgOqaEG_nj6wB82r9g/viewform?usp=header

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ