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ピクニック終了宣言

 森の暴走を守るためのBでようやく鎮めたあと、私たちは大きな根の上に腰を下ろして、ぐったりしていた。

 魔獣たちはというと、先ほどの葉音オーケストラの余韻に酔いしれてか、のそのそ好き勝手に歩き回っている。アレクは相変わらず彼らに囲まれて“王子劇場”を続行中。

 それを見守るカイの顔は、諦観と疲労と半ば尊敬で構成されていた。


「……なぁルナ」


「はい……?」


「もう今日はピクニックやめないか」


「やめたい……私も……」


 私の声は、もはや風前の灯火だった。

 ぷにコーンは私の膝の上でぷにぷにしながら「ぷに〜〜」と低音で鳴いている。たぶん全員の総意だ。


「だいたい、弁当が逃げた時点でピクニックではなかったんだ」


「すみません……!」


「いやそこはもういい……」


 カイは深いため息をついた。

 そのため息に反応して、近くの草がわずかにしおれたり起き上がったりしていて、もう森全体が高度な生き物みたいだ。


「……で、これからどうする?」


 私は天を仰いだ。

 ここまでの流れを整理すると——


1.弁当が逃走

2.魔獣が出現

3.アレク王子の舞踏会(魚照明付き)

4.私の笑顔で森ジャングル化

5.Bイメージで森鎮静化


「……完全に日常崩壊してる」


「今さら気づいたか」

 

 カイのツッコミは、もう優しさを帯びていた。


 とはいえ、森の成長が完全に収まったわけではなく、あちらこちらでまだ“生命力の余韻”が脈動している。


「このまま放置したら……また明日あたりに森が勝手に進化して、動き回る大樹とか生まれませんか……?」


「普通は生まれないんだけどな……お前のせいだと“普通じゃない”んだよな……」


「ごめんなさい……!」


「いい、謝るな」


 カイが頭を抱えているその横で、アレクが気持ちよさそうに深呼吸していた。


「いやぁ……素晴らしい森だ。これほどまでに生命が満ちている場所は、私の世界でも滅多にない」


「アレク。あなたの世界の基準をここに持ち込まないで……!」


 彼はにっこり笑って、私に手を伸ばす。


「ルナ、君の笑顔が森に祝福を与えた。誇っていい」


「誇れません!! 祝福してない!! むしろ“加減できない肥料爆弾”!!」


「そうだぞ王子、この森ほっといたら王都まで伸びるぞ」


 するとアレクは軽く肩をすくめた。


「なら、鎮めればいい……ルナがすでにやったように」


「……あ、そういえば、私……できたんでしたね。Bのイメージ」


 そう思った瞬間、胸の奥がじんわり熱くなった。

 自分でも驚くほど、“悪い気持ち”じゃなかった。


(私……守れたんだ……)


 ぽわ。


「あっ」


「止まれぇぇえええ!!」

 

 カイの怒号と、ぷにコーンの突撃(胸にダイブ)の合わせ技で、ぽわは即時制圧された。


「……危なかった」


「学習しろ学習! “誇らしさ”はお前にとって爆発物なんだからな!」


「はい……!」


 そんなやり取りをしていると、魔獣の子ども熊が私のところに寄ってきて、手をちょこんと乗せた。

 まるで「ありがとう」と伝えているような、不器用なジェスチャー。


 その姿があまりにもかわいくて、胸の奥がまた——


「ぽわるな!!!」

「はいっ!!」


 私、反射で敬語になってしまった。


 しかし、それを見ていたアレクが目を細めた。


「ふふ。いい仲だな。魔獣も君を“仲間”と認めているのだろう」


「仲間っていうか……危険源に惹かれてるだけでは……」


「ルナにしては謙虚な解釈だな」


「褒めてるんですか!? それ?」


「褒めてる」


 どこがだよ、とカイが呟いた。


 魔獣たちはすっかり落ち着き、森も危険な兆候を見せていない。

 草むらに逃げ込んでいた弁当箱もひっそり戻ってきていて、なぜか自分で蓋を開けて「反省」と書いたメモ(どう書いたのかわからない)を見せてきた。


「なんで文字書けるの!? 怖い!!」


「お前の想像生物だから、たぶん言語能力あるんだろ」


「そんなオプションつけた覚えない!!」


 もうすべてが混沌である。


「——よし」

 

 カイが立ち上がった。


「これにて、ピクニック終了だ」


「……はい」

 

 私は即答した。

 弁当箱すら“反省メモ”を掲げている状況で、続行する理由はゼロだ。


 アレクが名残惜しそうに周囲を見回した。


「本当に終わりか? この生命に満ちた世界を、もう少し味わっても——」


「終わりだ!!!」

 

 カイと私とぷにコーンの声が三重奏になった。

 アレクだけ不満顔。


「仕方ない。では……最後に一つだけ、森に感謝を——」


「その“感謝”が一番危険なんだ!!」


「そうなんです!!」


「ぷに!!」


 三者の全力制止により、アレクの最後の一言も封じ込められた。


 やがて、森の木々は昼下がりの風をはらみ、あの騒動が嘘のように静寂を取り戻した。


「……帰ろう」


「そうだな」


「ぷに〜……」


 逃走弁当箱は、反省メモをそっと捨てて、私にぴとっとくっついてくる。

 許してほしいらしい。


「もう逃げないでね……?」


 弁当箱はこくこく頷くように蓋を上下した。


(……本当に今日は長かったな……)


 でも、胸の中には不思議な温かさがあった。

 危険と隣り合わせだったけれど、みんなで乗り切って、ちゃんと守れて、何度もぽわって、何度も止めてもらって……。


 そんな一日が、少しだけ、悪くなかった。


 森を抜ける手前で、私はそっと呟いた。


「……ピクニック、またいつか、普通にできたらいいな」


「絶対普通にはならない」

 

 カイの鋭いツッコミが飛んだ。


「そこは希望を込めた言葉なんです!!」


「ぷに!!」


 夕方の光の中で、私たちは笑いながら森を後にした。

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