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18/30

突然の王子劇場

 魔獣たちがアレクの周囲に丸く座り込み、王子囲み会みたいな様相を呈したところで、私はようやく息をついた。


「平和ですよね? 一応……」


「一応って言葉嫌いになりそうだ」

 

 カイが剣を下げ、肩をぐるぐる回している。

 ぷにコーンは魔獣たちの足元をころころ転がり、楽しそう。

 なぜか一番人気になっていた。


 そして。

 一番中心に立つアレクは、当然のように胸に手を当てていた。


「森の精霊たちよ。私に惹かれる気持ちはわかる。だが、私の心はすでに——」


「続けなくていい!!!」


 全力で止めた。

 アレクはなぜだ? というような表情を見せているが、今は説明をしている場合ではない。


「とにかく、弁当箱も回収できたし、危険も去ったし……ピクニックを再開しませんか?」


 私が言うと、アレクが「待ってました」と言わんばかりに腕を振り上げた。


「そうだ! せっかくなので——森の中で舞踏会を開こう!」


「は???」


 カイと私の声が完全に重なった。


「だって、見たまえ。こんなに美しい森と、私を慕う魔獣たち。祝祭を開くには絶好の舞台だろう?」


「ちがうよ!? そういうピクニックじゃないよ!? なんで昼食が逃げた次の段階が舞踏会なの!!」


「順番が異常すぎるんだよお前は!!!」


 けれどアレクは聞かない。というか、聞こえていない。


「まず照明だ。森に優しい光を……」


「やめろって!!!」

 

 カイの悲痛な叫びは、もはや空気の一部。


 しかしアレクは優雅に目を閉じ、指先を持ち上げた。


「舞踏会にふさわしい灯りよ、空に浮かべ」


 観念律が反応した。

 嫌な、でももう慣れてきた、あの空気の震え。


 次の瞬間——


 空に、光る魚が浮かんだ。


「は?」


「浮いてる?」


「ぷに?」


 キラキラと輝く巨大な魚の群れが、森の上空をゆっくり泳ぎ始めた。

 金魚じゃない。深海魚じゃない。なんだろう、純粋に舞踏会に出そうな魚だ。


「なんで魚?」


「舞踏会といえば魚だろう?」


「どこの文化!?」


「うちの世界では普通だ」


 普通そうなんだ。


「ルナ、混乱するな。普通じゃないからなこれは」


「はい、そうですよね!」


 魚たちは青白く光り、規則正しくフォーメーションを組んで泳ぎながら、地面に揺れる光を落としていく。

 魔獣たちがその光を追いかけて、ゆっくりステップを踏むように動き始めた。


「踊ってる」


「アレクの自己陶酔の波長が魔獣の行動パターンと合ってるんだろう」


 アレクは両手を広げ、さらに言った。


「そして音楽だ。森の息吹よ、調べとなれ」


「待っ……」


 止める暇もなく、周囲の木々の葉がざわざわ振動し始めた。

 不規則なはずの葉音が、なぜか完璧なリズムとメロディを形成しはじめる。


 葉っぱの音楽。

 光る魚の照明。

 魔獣のダンス。


「これ、なんか、すごい……」


 ぽわ。

 胸が温かくなる。


「ルナ!!!」


「あっ!!」

 

 慌てて胸に手を当てる。

 ぷにコーンがすぐに胸に体当たりして、暴走の兆しを吸い取ってくれた。


「危なかった」


「お前のぽわで森が爆散したら元も子もないからな」


「自覚はあります……」


 そんな騒動の中、アレクは私の前にすっと立った。


「ルナ。踊らないか?」


「踊りません!!」


「即答!?」


「そりゃそうだろ!!」


 アレクは悲しそうに肩を落としたが、すぐに表情を戻して、


「では、いずれ踊ってもらうとして……今は宴の幕開けだ!!」


 と、宣言した。


 魔獣たちが「ガルル!」とか「キュオオ!」とか、意外にノリのいい声で応じる。

 光の魚が空をめぐり、葉っぱがオーケストラを奏で、地面まで光りだす。


「いやいやいや! ピクニックってもっと静かでのんびりしたものでしょ!?」


「そんなピクニック、この旅でできると思っているのか?」


「甘かった!」


 気づけば、森は完全に魔獣舞踏会になっていた。

 アレク中心の、なぜか調和した狂騒。


 でも。

 なんだかんだで、魔獣同士が争っていないし……

 森も燃えてないし……

 地面も爆発してないし……


「これ、平和なのでは?」


「基準が狂ってきてるぞルナ」


「ですよねー」


 その時、アレクがくるっとこちらを振り向き、私にだけ聞こえる声で言った。


「ルナ。君は混沌の中心にいると輝くタイプだな」


「褒めてるつもりですか!?」


「もちろんだ」


「褒め言葉の定義を勉強し直して来てください!」


 カイのため息、魔獣のステップ、光る魚の影、葉音の音楽。

 どこを切り取っても混乱の極みだったけど、なぜか胸はほんの少しだけ軽かった。


(なんか……楽しいかも)


 ぽわ。

 まただ。

 だけど今回は、ぷにコーンがすぐに「ぷに!」と反応して胸に張り付き、ぽわが霧散した。


「ありがとう……」


「ぷに♪」


 こうして、魔獣まみれ舞踏会という名の混沌ピクニックは、なぜか崩壊せずに続いた。


 嵐の前の静けさかもしれないけど。

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