表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/30

盗賊団、出没

 アレク王子が同行を宣言した翌日のことだった。

 荒野を進む私たち四人(人3+ぷに1)は、昨日の喋る料理の残骸をようやく置き去りにし、静かな砂道を歩いていた。


「今日は平和だね」


 ぽつりと呟いた瞬間、カイに頭を小突かれた。


「そういうフラグを立てるな」


「す、すみません!」


 ぷにコーンが「ぷに(同意)」と震え、アレクは遠くの空を見ていた。


「心配はいらない。我がいる限り、危険などない」


「その台詞が一番危険なんだよ!!」


 カイが怒鳴ると同時に、砂道の向こうからひゅん、と矢が飛んできた。


「ほら言わんこっちゃない!!」


「すみません!!」


「謝るな!!!」


 矢は私の足元に刺さり、砂が舞う。

 その直後、茂みの影から十数人の盗賊たちが飛びかかるように現れた。


「よぉ旅の連中。金目のもん置いてけやぁ!」


 カイが即座に剣を構え、アレクはなぜか嬉しそうに髪を払いながら言った。


「私を狙うとは勇敢だな。だが残念だったな。私は強いぞ?」


「王子、煽るな!!」


「煽ってない。事実を述べただけだ」


「それが煽りなんだ!!」


 ぷにコーンが私の足にしがみつき、ぶるぶる震えている。

 私も震えている。

 なぜなら、こういう緊迫状況こそ最悪の想像の絶好の入り口だからだ。


(もし盗賊に囲まれて、全員捕まって、縛られて、村に売られて、経済奴隷にされて、新聞の三面記事に載って、王子は身代金で国が破産して、カイは冒険者ギルドで永久追放されて、ぷにコーンはとうもろこし畑に帰されて——)


「ルナ、今なにか巨大なルート描いただろ」


「描いてません! ちょっとだけです! たぶん!」


「『たぶん』をやめろ!!」


 盗賊たちが一斉に武器を構えた。

 私は完全にパニックに入った。


「ど、どうしよう、もし怖い人たちが、本当に怖くなったら……!」


「待て、それ言葉にするな! 怖い人になったらなんて——」


 遅かった。

 胸の奥で膨らんだもしが、観念律に引っかかった感覚がした。


 次の瞬間、盗賊全員が泣き崩れた。


「うわあああああああああ!!!」

「お、俺ら、なんでこんなことを!」

「か、母ちゃん、ごめんよぉぉぉ!」


 壮大な男泣きの合唱で、荒野が震えた。


「え?」


「は?」


「ぷに?」


 カイとアレクと私が同時に固まる。


 盗賊たちは全員、武器を地面に投げ出し、顔をぐちゃぐちゃにして号泣しながら土下座している。


「わるかったぁぁあぁ!!」

「まじめに生きますぅぅぅ!!」

「こんな仕事もうやだぁぁぁ!!!」


 涙と鼻水と反省の雨。


「ルナ、お前、今、何した?」


「な、なにも! ただ、もし怖い人が怖くなったらって……!」


「それ、恐怖耐性ゼロになる呪いじゃないか!!」


「そんなつもりじゃ……!」


 アレクは感動したように胸に手を置いた。


「見事だルナ。私の魅力で泣かせたのかと思ったが、君の力だったのだな!」


「違う!!」


「いや、違わなくてもいい。運命の共同作業というやつだ」


「違うって言ってるの!!」


 ぷにコーンが盗賊たちに近寄り、ころころ鳴きながら励ましている。

 盗賊の一人が、ぷにコーンを見てさらに泣き崩れた。


「な、なにこの癒し生物かわいすぎりゅ……」


 ぷにコーンは涙を吸い込むように光っている。

 迷宮と同じく、負の感情もほんのり緩和できるらしい。


「さて、どうする」


 カイが盗賊頭の前に立つ。


「お前ら、このまま盗賊やめるか?」


「やめますぅぅぅ!!!」


「今すぐ足を洗いますぅぅぅ!!」


「村に帰ってトウモロコシ農家になりますぅぅ!!」


 土下座の場でなぜか就農宣言が飛び交う。


「まあ、しばらくは大丈夫だろう。どうせ立ち直るまで時間かかる」


「カイさん、怒ってます?」


「怒ってはいない。呆れてるだけだ」


 確かに怒る気力も削がれる光景だ。


 私はそっとカイに近づいた。


「ごめんなさい……」


「謝るな。それより、これを制御の成功の一歩と思っておけ」


「成功なんですか?」


「命は助かったし、被害ゼロだろ。結果だけ見れば合格だ」


 カイが私を見た。

 その瞳は、怒りよりも呆れた優しさが混じっていて、胸が温かくなる。


 温かいは危険。危険は暴発。


「やば! あの! 胸がぽわって!」


「止まれ!! 爆発前!!」


 私は慌ててぷにコーンを抱きしめた。

 ぷにコーンのひんやりした光が胸の熱を鎮める。


「セーフ……」


 その後、盗賊たちは泣きながら自首しに行くと宣言し、隊列を組んでおとなしく退場していった。

 荒野に残された私たちは、しばらくその光景を見送った。


「なんだったんだ」


「たぶん、私のネガティブ?」


「ネガティブ万能説やめろ」


 カイが深く息を吐き、アレクは相変わらず輝いていた。


「しかし見事だったな。ルナ、君は泣かせの魔術師と呼ばれるべきだ」


「嫌です!!」


「ぷに!」


 そんなこんなで、また一つトラブルを超えた。

 荒野の風が、少しだけ優しくなった気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ