盗賊団、出没
アレク王子が同行を宣言した翌日のことだった。
荒野を進む私たち四人(人3+ぷに1)は、昨日の喋る料理の残骸をようやく置き去りにし、静かな砂道を歩いていた。
「今日は平和だね」
ぽつりと呟いた瞬間、カイに頭を小突かれた。
「そういうフラグを立てるな」
「す、すみません!」
ぷにコーンが「ぷに(同意)」と震え、アレクは遠くの空を見ていた。
「心配はいらない。我がいる限り、危険などない」
「その台詞が一番危険なんだよ!!」
カイが怒鳴ると同時に、砂道の向こうからひゅん、と矢が飛んできた。
「ほら言わんこっちゃない!!」
「すみません!!」
「謝るな!!!」
矢は私の足元に刺さり、砂が舞う。
その直後、茂みの影から十数人の盗賊たちが飛びかかるように現れた。
「よぉ旅の連中。金目のもん置いてけやぁ!」
カイが即座に剣を構え、アレクはなぜか嬉しそうに髪を払いながら言った。
「私を狙うとは勇敢だな。だが残念だったな。私は強いぞ?」
「王子、煽るな!!」
「煽ってない。事実を述べただけだ」
「それが煽りなんだ!!」
ぷにコーンが私の足にしがみつき、ぶるぶる震えている。
私も震えている。
なぜなら、こういう緊迫状況こそ最悪の想像の絶好の入り口だからだ。
(もし盗賊に囲まれて、全員捕まって、縛られて、村に売られて、経済奴隷にされて、新聞の三面記事に載って、王子は身代金で国が破産して、カイは冒険者ギルドで永久追放されて、ぷにコーンはとうもろこし畑に帰されて——)
「ルナ、今なにか巨大なルート描いただろ」
「描いてません! ちょっとだけです! たぶん!」
「『たぶん』をやめろ!!」
盗賊たちが一斉に武器を構えた。
私は完全にパニックに入った。
「ど、どうしよう、もし怖い人たちが、本当に怖くなったら……!」
「待て、それ言葉にするな! 怖い人になったらなんて——」
遅かった。
胸の奥で膨らんだもしが、観念律に引っかかった感覚がした。
次の瞬間、盗賊全員が泣き崩れた。
「うわあああああああああ!!!」
「お、俺ら、なんでこんなことを!」
「か、母ちゃん、ごめんよぉぉぉ!」
壮大な男泣きの合唱で、荒野が震えた。
「え?」
「は?」
「ぷに?」
カイとアレクと私が同時に固まる。
盗賊たちは全員、武器を地面に投げ出し、顔をぐちゃぐちゃにして号泣しながら土下座している。
「わるかったぁぁあぁ!!」
「まじめに生きますぅぅぅ!!」
「こんな仕事もうやだぁぁぁ!!!」
涙と鼻水と反省の雨。
「ルナ、お前、今、何した?」
「な、なにも! ただ、もし怖い人が怖くなったらって……!」
「それ、恐怖耐性ゼロになる呪いじゃないか!!」
「そんなつもりじゃ……!」
アレクは感動したように胸に手を置いた。
「見事だルナ。私の魅力で泣かせたのかと思ったが、君の力だったのだな!」
「違う!!」
「いや、違わなくてもいい。運命の共同作業というやつだ」
「違うって言ってるの!!」
ぷにコーンが盗賊たちに近寄り、ころころ鳴きながら励ましている。
盗賊の一人が、ぷにコーンを見てさらに泣き崩れた。
「な、なにこの癒し生物かわいすぎりゅ……」
ぷにコーンは涙を吸い込むように光っている。
迷宮と同じく、負の感情もほんのり緩和できるらしい。
「さて、どうする」
カイが盗賊頭の前に立つ。
「お前ら、このまま盗賊やめるか?」
「やめますぅぅぅ!!!」
「今すぐ足を洗いますぅぅぅ!!」
「村に帰ってトウモロコシ農家になりますぅぅ!!」
土下座の場でなぜか就農宣言が飛び交う。
「まあ、しばらくは大丈夫だろう。どうせ立ち直るまで時間かかる」
「カイさん、怒ってます?」
「怒ってはいない。呆れてるだけだ」
確かに怒る気力も削がれる光景だ。
私はそっとカイに近づいた。
「ごめんなさい……」
「謝るな。それより、これを制御の成功の一歩と思っておけ」
「成功なんですか?」
「命は助かったし、被害ゼロだろ。結果だけ見れば合格だ」
カイが私を見た。
その瞳は、怒りよりも呆れた優しさが混じっていて、胸が温かくなる。
温かいは危険。危険は暴発。
「やば! あの! 胸がぽわって!」
「止まれ!! 爆発前!!」
私は慌ててぷにコーンを抱きしめた。
ぷにコーンのひんやりした光が胸の熱を鎮める。
「セーフ……」
その後、盗賊たちは泣きながら自首しに行くと宣言し、隊列を組んでおとなしく退場していった。
荒野に残された私たちは、しばらくその光景を見送った。
「なんだったんだ」
「たぶん、私のネガティブ?」
「ネガティブ万能説やめろ」
カイが深く息を吐き、アレクは相変わらず輝いていた。
「しかし見事だったな。ルナ、君は泣かせの魔術師と呼ばれるべきだ」
「嫌です!!」
「ぷに!」
そんなこんなで、また一つトラブルを超えた。
荒野の風が、少しだけ優しくなった気がした。




