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仲間の活躍、嬉しいっす

「ただいま」

 玄関から聞こえた声に、ゴロはパタパタと小走りで向かう。

「おかえりなさい…っす?」

 そこには苦笑いで足を拭くぽってぃーと、顔面蒼白で棒立ち状態のるっぴーがいた。

「る、るっぴーさん、どうしたんすか?気分でも悪いっすか?」

「る、ゴロさん…みい…みい…」

「と、とりあえず中に入って座るっす」

 隣に寄り添いながらリビングまで連れていき、ソファに座らせる。アニメを見ていたどってぃーも、夕食後のデザートを楽しんでいたシロも、SNSをチェックしていたくくも何事かと視線を集中させた。

 ゴロはキッチンでコップに水を注ぎ、るっぴーに手渡す。

「どうぞっす。ゆっくり飲んでくださいっす」

「る、すみません」

 ゆっくりと言ったのに、るっぴーは震える手でコップを受け取ると一気に水を飲み干してしまった。

「一体何があったんすか?今日は事務所に呼ばれて、何かお話があると言っていたかと思うんすが」

「そ、それが…」

 尋ねた途端、戻りかけた顔色がまた青白くなっていくのを見たゴロはわたわたと前足を振った。

「む、無理に言う必要はないっす。まずは落ち着きましょうっす」

 どうやらるっぴーの口から事情を聞くのは難しいらしい。となれば、とゴロ達の視線は必然的に一緒に出かけていったぽってぃーへ向けられる。

 全員の注目を一身に受けたぽってぃーは、持っていたカバンから何やら本のようなものを取り出し、テーブルに置いて言った。

「実はな、今度春にやるスペシャルドラマの主人公の弟役にぜひるっぴーをっちゅーオファーがあったんや」

「ドラマっすか⁉」

「何でまいは呼ばれてへんねん!」

「さー」

「えー、めっちゃすごいやんるっぴー先輩!」

 約一名を除いて驚きを(あら)わにする面々。その反応を聞いたるっぴーは、泣きそうな顔で口を開いた。

「で、でも、みい、お芝居なんてした事ないです。それなのに、こんな大きな役、じ、自信ないです」

「事務所で話聞いてから、ずっとこの調子でな。事前にレッスンもあるから大丈夫や言うてるんやけど、あまりに大抜擢やから完全に委縮(いしゅく)してしもてるんや。それだけやなくて、主人公と二人でドラマの主題歌も歌う事になったから余計にな」

「主人公って…」

「ティノや」

「ティノさん…そういう事だったんすね」

 ゴロにはるっぴーの気持ちがよくわかる。自分もぽってぃーの仕事を見学させてもらいに行った先でCMに出ないかという話を貰ったからだ。今まで夢にも思わなかった事を、それも自分の身の丈に合っていないと思っている事を言われれば恐縮するのも無理はない。

 だが、とテーブルに置かれた台本に視線を移す。表紙に書かれているタイトルには覚えがある。(ちまた)で大人気の小説と同じものだ。ドラマ化されるのは今初めて知ったが、原作の小説はゴロも読んだ事があった。

 主人公の弟は確かに出番も多いし、いわゆる美味しい役だ。きっと、演じ切る事ができればるっぴーにとっていい経験になるに違いない。何より、と台本をるっぴーの膝の上に乗せて真っすぐに彼の目を見る。

「るっぴーさん、前においが言った事を覚えてるっすか?」

「え?」

「幼稚園で言われた事を気にして、自分がフルータのメンバーでいていいのかと相談してくれた時の事っす」

 それはまだステージデビューをする前の事。どってぃーが通う幼稚園の研究生達と合同レッスンをした時に、一般オーディションで自分が選ばれたせいで研究生のデビューの機会を奪ってしまったと知ったるっぴーは、合格を辞退しようとゴロに相談を持ちかけた。

 しかし、ゴロはそれに首を振った。オーディションで選ばれたのは事実で、それは紛れもなくるっぴー自身の実力が認められた結果である。そうして仲間になったのだから胸を張っていいのだと、そう伝えた。

「るっぴーさんは自分を変えたくて、今度は自分が誰かに元気を届けたくてオーディションを受けた筈っす。それは今回のドラマに出演する事で、より一層叶えられるとおいは思うっす」

「その通りさー」

 隣に来たシロがゴロの言葉に頷く。

「この業界で自信がないという事は、仕事を断っていい理由にはならんさー。できるかできないかじゃない、やるかやらないかさー。自信がなくても、今の自分に出せる全力を見せれば必ず何かを受け取ってくれる誰かは現れるさー」

「シロさん…」

「とりあえずそのウジウジした鬱陶(うっとう)しい顔やめろや、るっぴー」

「るっ」

 今度はどってぃーがるっぴーの後ろから両頬を引っ張る。

「まいわかってんねんぞ。そうやってもじもじしといて、本番になったらまたすごいとこ見せるんやろ。ステージの時の"まいまい"はもうええねん」

「ま、まいまい?」

「"二の舞"って言いたいんやろな」

 首を傾げるゴロに、ぽってぃーがそっと耳打ちする。

「そもそも~、誰でも最初はできひんところから始まるんやから別にそこまで委縮(いしゅく)する必要ある~?たまたま初めての演技のお仕事が大きい役やったってだけやろ~?むしろそこまで先方さんが高く評価してくれてるなんてラッキーって思っとったらええや~ん、く♡あ、共演者で誰かくぅのチャンネル出てくれるぬいぐるみおらんか聞いてきてほしいな~。ティノさんとか呼んでくれたらめ~っちゃ嬉しい、く♡」

 くくもるっぴーを励ますが、ちゃっかりと自分にも旨みがあるように頼み事をする辺りがさすがだ。

 全員から元気づけられ、いつの間にかるっぴーの顔には安心の色が見えている。それに気づいたぽってぃーが、どや?と笑いかけた。

「このメンバーにこれだけ言うてもろて、まだ何か不安な事があるか?もちろん、わいもるっぴーならできると思てるで。それに、現場にはティノがおる。あいつなら、きっとやりやすい空気を作ってくれるわ」

「る、ありがとうございます。今のみいにできる精一杯をやります」

 みい、フルータに入れて良かったです。

 はにかみながら言ったその一言に、ゴロは何とも言えない嬉しさを覚えた。



 それからのるっぴーは、誰の目から見ても吹っ切れたように思えた。事務所のスタジオで受けるレッスンだけでなく、時折部屋から台詞らしきものが聞こえる度にゴロは心の中でそっと応援の言葉を投げかけた。

 驚いたのは、るっぴー自ら幼稚園で演技のレッスンを受けているどってぃーにお願いして事務所から与えられた課題の相手役を務めてもらった事だった。頼ってもらったどってぃーは満更(まんざら)でもない様子で付き合っており、それがまたゴロやぽってぃーの目には微笑ましく映った。

 そして迎えた撮影初日。まだ朝日も昇らぬ時間に大きなトランクケースを持ったるっぴーは、緊張の面持ちで玄関に立っていた。

「大丈夫っすか、るっぴーさん」

「る、だ、大丈夫です」

 緊張はしているが、落ち着いている。撮影は東の中心で行われるため、しばらく帰ってはこない。何だかこちらの方が寂しいと感じてしまう。弟達が巣立つ事があれば、こんな気持ちになるのだろうか。

「心配いらん。やれるだけの事はやったやろ。あとはステージの時と同じ、楽しむだけや」

「は、はい!」

「全力でぶつかってこいさー」

「頑張ります!」

「撮影現場の写真送ってな~、く♡」

「え、えっと、善処します!」

「ん~、土産…いっぱい買ってこい…」

「たくさんお肉買ってきます!」

 朝早い出発だというのに、ゴロやぽってぃーだけでなくメンバー全員が見送りに起きていた。メイクまでバッチリのくくはともかく、朝に弱いシロまでもが起きているのが驚きだ。どってぃーはゴロの背中に乗ってまだ半分夢の中だったが、要望を伝えるのは忘れない。

「では、いってきます!」

「いってらっしゃいっす」

 これまでの努力を見てきたからだろうか。元気よく家を出る背中は、少し大きく見えた。

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